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混沌より出ずる軍団  作者: 皐月二八
第一章 ア・ボルト・フロム・ザ・ブルー 異変
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第一話 アラーム 警鐘

 導入部分が難しい。

 如何しても長ったらしくなるし、テンポも悪くなる……。


 まぁ、色々と実験してみようかな、と思います。

 僕、平鹿ひらか 桐人きりとは軍団マニアだ。

 小さいころから、まとまりのある社会集団というモノが好きというヘンな嗜好を持っていたが、最近は特に軍団、もっというとグループが好きになった。

 規模は然程大きくない、それでも自己完結型の、一人一人に役割がある集団。僕が軍団マニアなのは、そんな集団の中で、僕が最も最初に思いついたのが軍団だからだ。

 何故かは僕も分からない。心理学者にでも聞いてほしい。


 自己紹介は一先ず置いて、話を変えよう。


 『CC』はあらゆる機能の“やり込み度”、正確には“やり込み可能度”と言った方が良いかもしれないけど、兎に角それが、他VRMMOの追随を許さない程になっている。というより、其れが『CC』最大のウリとなっている。

 その一つとしてあげられるのが、数多ある職業ジョブの一つ、指揮官コマンダー系統だ。


 此れは『CC』独特のジョブであり、同時に『CC』のウリである“圧倒的やり込み度”を顕著に体験できるジョブの一つでもある。


 『CC』には一〇〇〇を超えるモンスターが存在し、しかもオリジナル・モンスターを生み出す事も不可能じゃあない。そんな中、モンスターを育て、召喚するジョブである召喚師サマナー系統という職業系統が存在する。コマンダー系統は、その発展型というか、亜種に当たる。


 サマナーは、モンスターと契約コントラクトするかモンスターを創造クリエイトし、そのモンスターを召喚し、戦わせる。

 対し、コマンダーは、モンスターを臣下・部下として、部隊を編制してそれを指揮するのだ。


 他にもモンスターを使役できるジョブは幾つもあるけど取り敢えず無視して、両者の最大の違いは、サマナーはモンスターを召喚するのに対し、コマンダーはモンスターを常に複数、それこそ幾つもの部隊を作り、其れを率いている(・・・・・)という点だ。


 また、サマナーでは最上位でも精々一〇〇かそのくらいが最大契約・創造数であり、一度に呼び出せるのも精々一桁であるのに比べると、コマンダーでは最上位の“神格級指揮官ゴッズ・コマンダー”――――つまり僕だ――――万を超えるモンスターの軍を編制し、部隊単位で運用させることができる。


 これだけ聞くと凄そうだけど、勿論、代償もある。まず、モンスターが常に現世にいるので、彼らの食事なども負担せねばならず、魔力も含め、必要とされるコストは少なくない。部隊単位が展開できる、広い拠点や補給拠点も必要となる。

 さらに、そんなモノを率いればデータの容量も膨大となるので、どうしても専門のアタッチメントを購入し、サーバーの負担を減らすようにし、パッチも当てる必要がある。そうしなければ、デバイスが持たない。

 デメリットは他にもある……けどまぁ、ある程度は改善できる程度の事なので、一先ず置こう。


 そして、最大のデメリットが……コマンダーとして多くの部隊を創り、苦労して軍団を築き上げても、其れを活用する機会がないことだ。まさか大勢のプレイヤーとNPCがひしめく街中で、そんな部隊を何個も引き連れて歩けるわけがないし、大体禁じられている。連れられるのは精々が一個小隊……つまり三個分隊、数にして三〇程だ。

 それに、そんな軍勢をひきつれて街中を闊歩したところで、注目を集めるだけで何のメリットもない。だから誰もしない。


 広大なフィールドにワープしたとしても、そもそも其処まで多くの部隊を投入しなければ倒せないような強敵など滅多にいないし、いたとしても、態々苦労してモンスターの軍団を創って挑むよりも、他のプレイヤーと協力し合い、挑んだ方が効率的だし、手っ取り早い(『CC』にもプレイヤー同士でパーティを組んだりする機能は存在する)。強大なモンスターは大体単体で出現する。一対一〇は兎も角、一対一〇〇や一対一〇〇〇はかえって戦いにくい。

 或いは、超精鋭の部下モンスターを二〇程引き連れて挑めば事足りる。


 『CC』では集団戦自体は不可能ではないし、時折モンスターが大量発生して街に攻め込んできたり、コマンダー同士が戦闘を行うこともある。つまり、大規模な合戦はそこそこ起こる。が、所詮は“そこそこ”だ。

 そして大規模な集団VS集団戦でもない限り、大部隊に活躍の場は少ない。ていうか、ない。


 となると、精々自分の世界(ヘキサゴン)で、自分が築き上げた軍団を見て、ニヤけるくらいの事しかできない。カオスと称される程の高い自由度は如何したと言いたいところだが、流石に他プレイヤーの邪魔や迷惑になることは容認されていないし、そもそもマナー違反だ。

 “自由”は、責任と規制があってこそ成り立つもの。何の束縛もない自由など、存在しないのだ。


 だから、コマンダーになったとしても、精々二個小隊くらいで満足する者が大半で、とても“軍団”と言える程、四桁も五桁も揃える者はいない。どの道、かなり高位のコマンダーでなければ、其れだけの数は率いることができない。


 しかし、世の中何事も例外がいる。此の場合は、カーキという変わり者プレイヤー……すなわち僕だ。






 ……おっと、説明し忘れていた。

 『CC』はコアなファン、マニアックなファン向けに開発されたVRMMOだ。それ故、大勢のギルドが誕生するようなことは、開発側も想定していない。寧ろ、他人が付いていけないようなマニアックな楽しみ方を行うプレイヤーの方が多いと、最初から開発側は考えていたらしい。


 それ故導入されたのが「ヘキサゴン・システム」だ。

 ゲームを始めたばかりのプレイヤーは、まず「ヘキサゴン」と呼ばれる空間が一つ、プレゼントされる。

 ヘキサゴンはちょうど全体図を上から見ると六角形に見えることから、こう名付けられたという。


 当初は、精々アイテムをしまえるキャビネット(其れも最もキャパシティの小さいヤツ)一つとオンボロベッドが一つ置かれた真っ白な空間、しかも精々六畳くらいしかない空間に過ぎない。しかし、単純に経験を積んだり、ある特定イベントをクリアしたり、課金していくことで面積を拡大させ、ヘキサゴンの保有数自体を増やす事が出来る。


 ヘキサゴンの中は自由に改造でき、東京のような先進都市にするも、猛獣だらけのジャングルにするもプレイヤーの自由だ。最大まで面積を広げたヘキサゴンの面積は、現実の単位で一万六〇〇〇平方キロメートル程度。

 此れだけ聞いても、ピンと来ないかもしれないが、此れは関東地方の約半分。四国よりやや小さい程度だ。

 『CC』では、此のヘキサゴンをプレイヤー一人につき、最大で五つ保有できる。

 その場合、単純計算で総面積は八万平方キロメートル。此れは、北海道の総面積に匹敵する。そう考えると、広大さが分かるだろう。要するに、バカ広い。


 そして最大面積でのヘキサゴンでは、最大で八〇〇〇のNPC(此れにはコントラクト或いはクリエイトしたモンスターも含む)を住ませることができる。


 そして、僕は最大面積になったヘキサゴンを五つ保有しているから、計四万のNPCを育てられるのだ。


 そう考えると、此のシステムの凄さが分かるだろう。広大な実験施設・工場建設などを目指す者、国の設立を目指す者などにとっては、まさに御誂おあつらえ向きなシステムなのだ。


 自分専用の空間がデフォルトで付いてくるのは、VRMMOでは珍しいことじゃあない。寧ろ付いているのが普通だ。自分専用の空間を求めるのは、人として当たり前の事だし。

 しかし、『CC』の自分専用空間の広さと改造の自由度は、他VRMMOとは比較するのも阿呆らしいくらいだ。

 身も蓋もない言い方をすれば、“引きこもり最適空間創造システム”とも言える。他プレイヤーとの交流にあまり重きを置かず、自分のやりたいことに熱中しまくるタイプのコアなユーザーには、まさに鬼に金棒のシステム。それが、ヘキサゴン・システムだ。


 僕も、それを最大限に活用している者の一人と言うわけだ。寧ろ、本当に最大面積まで広げたヘキサゴンを最大保有限度まで持っているユーザーは、僕を含めても極少数と言える。大抵の者は、其処までしなくとも満足するからだ。無駄に広くても意味がない。






……はい、現実逃避終了。

 僕は漸く、目の前で狼狽しているマナを見つめた。


 マナ=フルーレ。

 三万七六〇〇のメンバーがいる僕が築き上げた軍団、GA……“Golden Age”でも五名しかいない“総督”の役職を拝命している者。

 総督。本来なら軍団の指揮官クラスを意味する将軍とかではなく、敢えて“総督”という役職名を用いているのは、彼女たち総督の任務が配下の隊の指揮だけにとどまらないからだ。


 彼女たちは、僕が五つ有しているヘキサゴンの管理も任されている。だから総督。植民地の行政と軍政のトップを意味する言葉だ。

 そして第五総督であるマナは、第五ヘキサゴン『空中都市』を統轄している。


 今、僕がいるのは第一ヘキサゴン『大要塞』。しかし、彼女を此処に呼び出したのは僕なのだから、彼女が此処にいること自体は驚いていない。

 では、何故驚いたのか。


 簡単だ。

 僕が、彼女に触れられたからだ(・・・・・・・・)。いや、正確には、触れた感触がした(・・・・・・・・)

 仮想空間監督法によって、現実の人間は勿論、その仮想空間内のみに存在するNPCなどと触れる、正確には感触を忠実に再現するのは、厳しく規制されている。

 此れは仮想空間の風俗利用や、仮想空間内の性犯罪発生を防止するためだ。


 本来なら、僕がNPC(マナ)に触れたところで、何にも感じないはずだ。しかし、僕は何かに触れた、いや、ぶつかったのを感じ取った。

 あり得ない。

 いや、あり得てはマズイことだ。


 仮想空間監督法に違反するVRMMOは開発は勿論、その違反したVRMMOのプレイも当然、禁じられている。此の手のものは日本電脳警察(通称“サイバーポリス”)が厳しくチェックしているから、バレれば半刻とかからずパトカーがやってくるだろう。


 オマケに、幾ら手塩にかけて育てたとはいえ、其れはあくまで戦闘能力とか外見とか設定とかの話だ。『CC』はNPCの容姿や性格などの設定は兎に角細かく設定できるが、だからと言って、NPCはあくまでプログラム。


 唯指令(コマンド)を出し、其れに応えるくらいの事しかしない。こんな風に、倒れたプレイヤーを助け、心配そうに見つめるなどあり得ないし、そもそも会話など成立しない。


 しかし、マナは当たり前のように、自然にそれらを行っている。彼女を含み、総督は全員神格級(ゴッド)モンスターだ。此の場合、“ゴッド”とはあくまで神のように強い、最高位のモンスターという事を意味する階位クラスであり、別に『CC』内で神扱いされているとかそういうのじゃあない。要するに、「味方なら最高の希望。敵ならもう諦めろ」というヤツ。



「……ロード?」


「あ、いや、うん……ゴメン、ちょっと取り乱した」


「御心労ですか?」


「あー、うん、かもね……」



 まさか本気で心配そうに瞳をウルウルさせている彼女に向かい、「いや、君のせいだから」なんてツッコミする気になれない。

 いや、本来なら(・・・・)、ツッコミしようが彼女の目の前で腹踊りをしようが、規定された通りの指令コマンドとか仕種ハンド・コマンド以外はガン無視なのがNPCだけど、此の状態で「本来の」常識を用いるのは、寧ろ場違いな気さえする。


 ていうか、普通に会話しているし。



「……マナ」


「はっ!」



 僕がそういうと、マナは直ぐに姿勢を整え、直立不動で立ち、命令を待つ軍人その者の姿勢を取った。腕は後ろで組んでいる。


 僕は身長一七七センチ。此れはリアルの平鹿 桐人そのまんまだ。対して、マナは確か一八〇センチだから、彼女の方が僅差で大きい。いや、三センチの身長差を僅差とするかどうかは、個人によって相違があるだろうけど。


 身体はスタイル良く、寧ろほっそりしている。胸の大きさは総督の中では三番目だ。上下黒のスーツに、黒のネクタイ。白いのはシャツだけ。何れも男用で、彼女は生まれたときから趣味に男装が付いていた。面白くて、そのまま変えずにいたのだけど。


 腰まである純白のサラサラした髪。そして、紅い瞳。瞳はキリッとしていて、やり手のキャリア・ウーマンを思わせる。

 唯、普通のキャリア・ウーマンには絶対にないであろうものが、彼女には二つある。

 一つ、腰に吊り下げた一振りのレイピア。

 もう一つ、背中から生えている翼。

 何れも真っ白だ。


 彼女は誕生当時、つまり僕がクリエイトした時、下級レッサーの時は飛翔兵士バード・ナイトだった。その時の名残として、昇格クラス・アップして風神となった今でも、翼は残っている。

 取り敢えず、そんな彼女に、僕は聞いてみた。



「身体に変化を感じる?」


「? いえ、特には」



 どうやら彼女自身は、自分の身体に劇的(僕からすれば、其れはもう劇的だ)な変化を遂げたことに全く気付いていないようだ。



 僕は改めて、周囲を見渡す。そっと壁に手を添えると、ひんやりと冷たかった。

 ……リアルだ。本物のように感じられる。VRの限界を超えている。そう思えてならない。


 まさか、一瞬でVRが急に進化して、新しいシステムが『CC』に導入された――――何てことがあるわけがない。幾ら進化していようが、その新技術が法律に抵触しているなら、其れを導入する者は少ないだろうし。


 確かに、よりリアルさが求められる、例えば自衛軍の訓練VRでは、実際に戦場にいるようなリアルさらしい。――――悪い意味で。其れこそ、PTSDが起こるくらい。他にも手術訓練VRとか、リアルでなければ意味がない場合は、特例としてリアルすぎるVRでも国より認可されている。


 だから、リアルなVR及びその開発に必要な技術自体は存在する。勿論、僕は其れを体験したことはないから、今僕の身に起こっている原因が其れかなんて判断できない。VR技術云々もド素人だ。

 仮にできたとしても、ログアウトできない(正確にはメニューが開けないのだが、ログアウトにはメニューを開く必要があるので同じことだ)という問題が残る。つまり、何も解決しない。其れに、判断できたとして、その僕の判断の正誤を誰が保証してくれるのだろうか? 結局、何の意味もない。

 そもそも、ゲームのVRが進化したのと、メニューが開けないのが、如何関係するというのだろう。


……駄目だ。思考が、さっきから横道にずれまくっている気がする。僕の思考が車だとしたら、道交法違反で切符を切られているだろう。


 しかし、感じる肌寒さといい、壁の感触といい、異常が起こっているのがマナだけだと言い切れない。いや、僕以外で異常が起こっていると判断するべきか。或いは、僕にしか(・・)異常が起こっていないのか。


 幾ら推理したところで、今のままではピースの数が足りないまま、パズルを完成させるような愚行を繰り返すだけだ。



「……マナ」


「はい」


「先程、僕から受けた指令コマンドは覚えているか?」


「はい。[総督は全員『大要塞』天上会議室に集合せよ]です」



 ついさっき、ほんの一〇分程前だろうか? に全総督宛に送ったコマンドは、如何やら其の儘らしい。しかも、コマンド其の儘じゃあなくて、より現実でもあるような(・・・・・・・・・)文体になっている。



「……あ」



 ということは、つまりすでに四人の総督は到着しているんじゃあないか?

 本来は、次にログインした時に全総督に逢えるように出しておいたコマンドだけど、此れはなかなかいいタイミングだ。いや、状況は最悪だけど。



「マナ、天上会議室に行くぞ」


「はっ、御伴させて頂きます、マイ・ロード」






 設定集とかも、後々あげておくことを考えるべきですね……。


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