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混沌より出ずる軍団  作者: 皐月二八
第二章 チェスマン・プット・ワールド 浸透
19/41

第一八話 サプレション 制圧

 東京に行ったり甲府に行ったり、年末は忙しいです。今年の更新はこれで最後になりそうです。

 来年も忙しい中頑張っていきたいですね、色々と。


「うわぁ……」



 目の前に飛び込んできた光景に、両腕が蟷螂の鎌の様になっている少女は水色の瞳を見開いた。

 

 そこには、彼女の好奇心を擽りまくる光景が広がっていた。

 言うなれば、「ツリーハウスでできた村」だ。白く巨大な独特の木に寄り添うように、地上から三メートルは離れた場所に幾つもの家が造られていた。

 しかも、一つ一つがそこそこ大きいのだ。五人、いや、もっと暮らせるかもしれない。支えとなっている木の枝や幹が折れないのが不思議なほどに。


 それはまるで、建物自体が浮いている空中の街のようであった。第五ヘキサゴンとはまた違った意味での“空中都市”に、少女は思わず緩んだ頬に気付く様子もなく、見入っていた。



「166号、何をしているのかな?」


「ひぁ!?」



 不機嫌そうな声に、166号と呼ばれた少女はビクッと震え、恐る恐る後ろを振り向いた。

 そこには、トンガリ帽子を被った少女が、黄金色のショートヘアを風に揺らしていた。



「だ、第三総督……」


「フローラで良いって、言わなかったっけ?」



 こてん、と首を傾げ、背筋が凍りつく程に見下げ果てたような光を放つ目を細めた少女を見て、166号は慌てて言い直した。



「フ、フローラ様!」


「うんうん、それで? 何をしているのかな?」



 にっこり微笑んだフローラは、両腕を組んだまま宙づりになっていた。

 足の裏、つまりブーツはまるで木と同化したかのように木の枝にくっつき、しかも木の枝は全くしなっていない。

 そして不思議なことに、トンガリ帽子も全く落ちる気配がなかった。


 が、傍から見れば宙づりの体勢のまま笑顔で凄む上司という、部下の立場からすればあまりお目にかかりたくない光景だった。


 その光景を見て、遊園地のアトラクションを見る幼子のような表情で、悪く言えば兵士の面影もない油断しすぎもいいところの表情で“敵地”を眺めていた新米“働き機生蟲(ワーカー)”に咎めるような視線を送っていた上司や同僚たちも、今は憐憫の視線をプレゼントしていた。

 言うまでもなく、何の役にも立ってはいないが。



「い、いや、その……」


「まぁ、いいよ。アレ、壊れるかもしれないしね。ちょっとは記憶に残しておいても良いかもしれないねぇ。運否天賦うんぷてんぷ、運否天賦……」



 しどろもどろで鎌を振り回しながら言い訳を考える少女に、フローラは聖母のような笑みを送った。酷く物騒な言葉を美しすぎる口から放ちながら。

 それからゆっくりと普通の体勢、つまり木の枝に普通に乗った状態になったフローラは、舌打ちしながら空を見上げた。



「まったく、アオラキのヤロウ、かえったら咲き殺す。こんな使えないヤツ自信満々に寄越しやがってぇ……。あとノフレテーテも殺す。超咲き殺す。よりによって新米ヒヨコ送るか? 普通。……暗雲低迷、暗雲低迷……」



 清々しい程に堂々とけなされた166号は涙目になったが、曲がりなりにも彼女の過失が原因のため、誰もフォローしなかった。実際問題、彼女の行為は仮にも“監視対象”に向ける行為としては宜しいものとは言えないからだ。



「あんの愉快犯ヤロウに人選を一任した私が莫迦だった。御主人様直々の命令に舞い上がってたところを付け込みやがってぇ」



 頭を抱え、フローラはふぅ、と息を吐いた。



「ま、いいや。本当に使えない奴だったら、ノフレテーテが先に消しているだろうしね。期待しているよ、166号。前途有為、前途有為……」


「は、はい!」



 ビシッと姿勢を正し、166号は直立不動の体勢をとった。もっとも蟲のような四本脚のため、一見わかりづらかったが。


 その姿に二、三度首肯し、フローラはぐるりと自身を囲む部下達を見やった。その全員が、フローラと同様に木の上に乗っている。勿論、本来なら重さに耐えきれずに折れてよいはずの枝は、何も乗っていないようにしなってもいない。


 迷彩服を着込み、中には苔や木の葉などで覆われたギリースーツを着込む者すらいる集団の中で、フローラのようなヒト型の者は非常に少ない。というより、フローラしかいないと言ってもよかった。何しろ半分は植物と人間がごっちゃになったような姿をしていて、もう半分は166号と同様に、昆虫型メカのような容姿だった。


 その総数は一八、つまり一個小隊にも満たない数である。

 その全員が、カーキの大命を受けて調査任務に駆り出されている兵士だった。






「さて、と……御主人様……総帥閣下からの命令は確認したよね? ここ、“大陸横断森林”の調査が今回の任務だ。あぁ、もう一つの大森林の調査については一先ずおこう。

 そして、私たちはこの無駄に広い大森林の“制圧”を進めていた」



 “調査”が“制圧”に変わっていることに、喋っている本人であるフローラを含め誰も気にしていない。

 何しろ彼女たちにとっては、調査と制圧はイコールなのだ。いや、正確に言うと、制圧は調査の前段階に過ぎない。


 調査、つまり隅々まで調べ尽くす事だ。そのためには、予め制圧しておけば手っ取り早い。隠れてこそこそと少しずつ調査するなど非効率的だし、時間の無駄だ。そもそも、世界を支配するに相応しい唯一の存在である総帥の手足であるGAの行為としては、あまりにも似つかわしくない。

 それ以前に、そんなまどろっこしいやり方ではこの文字通りの意味の横断森林、つまり大陸の東端から西端まで広がっている大森林の調査など、どれだけ時間がかかることかわかったものではない。


 本来ならば、「制圧するために調査をする」のが常道なのであろうが、彼女たちの場合はものの見事に逆になっていた。それもこれも、やろうと思えば自然そのものを完全に手中に収められるという反則的な存在であるフローラとその部下達がいたこと、そしてフローラ達の総帥カーキへの絶対的すぎる(・・・)忠誠心が原因となっていた。


 つまり彼女たちは、カーキの命令である「調査」のために大森林を丸々制圧するという手に出たのだ。

全ては「調査」を完璧に行うために。何よりもカーキから与えられた命令を、一切のミスもなく完遂するために。


 もっとも「制圧」と言っても、大陸横断森林及びそれを有する森林連盟に戦争を吹っかけ攻め込んだわけでも、住民たちを支配下に置いたわけでもない。それどころかフローラ達は、住民を意図的に無視していた。


 では何を「制圧」したのかというと、つまり“自然”だ。大地、風、そしてそれらに宿る精霊や意志疎通が可能な程度の知能を持つモンスターや動植物などをコントロール、或いは自分たちの味方に付けたのである。そうすれば、“彼ら”から知りたい情報を入手できる。下手に住民たちと接触を図るよりは、余程大森林について詳しい情報を得られるだろうとフローラは考えたのだ。

 結論から言うと、彼女の考えは見事に図に当たった。



「結果として、ここの自然の精たちは大変協力的になってくれたわけだ。総帥閣下に跪く者がまた増えた。大願成就、大願成就……」



 もっとも、この方法とて万能ではない。

 森を知りたいのならば木に聞くのが手っ取り早い。そしてそれと同じで、エルフについて聞くにはエルフに聞くのが一番手っ取り早いのである。

 つまるところ、得られた知識の中には住民、エルフたちに関することが抜けていた。正確にはあったのだが、フローラが見るところでは、愛する主人に捧げるには不十分すぎた。


 森の木々や自然の精は、エルフに関しては忌避してこそいないが、積極的に知りたいとも思っていなかった。彼らが知っていることと言えば「エルフは精霊と契約し、精霊魔法を行使する」、「部族ごとに小さなコミュニティを形成し、それが集まって森林連盟という一大国家を形成している」と言った、要するに客観的にエルフたちを観察すれば即座にわかる程度のものでしかなかったのだ。


 元々、気ままにあるがままに生きていく自然や自然の精に、人やエルフに興味を持ってそれに関する知識を集めておけ、と言う方がお門違いなのだ。

 それは例えるならば、漁師に農業について教えてくれと頼み込むような、そんな畑違いの話なのである。


 そしてそのことは、自身も“神”と称される存在になるまでは一精霊であったフローラ自身もわかっていた。つまり、最初から住民についての知識の方は期待していなかったのだ。

 では次は如何するべきか。そう、住民の方を調べるのだ。






「それじゃあ、始めようか。君たちは村の周囲や中の植物と同化して、村の様子を観察しておいて。見つからないようにしてよね、君たちは私の配下の中でもとりわけ隠密戦に優れた兵士なのだから。

 総帥閣下の肝いりで創設されたの第一森林戦大隊の底力をみせてくれよ? 大隊長以下大隊司令部がいないのは痛手だけどね。

……私を失望させてくれるなよ? それと、わかっているとは思うけど、己の命を大切にね。総帥閣下を悲しませるなら……許さないから」



 フローラがパチンと指を鳴らすと、植物と人間がごっちゃになったような格好の兵士――――中級ミディアムモンスター“植物兵士バトルプラント・ナイト”――――たちが一斉に跪き、同時にズブズブと木の中に沈んで消えた。


 それを見届けたフローラは、残る昆虫型メカ集団を見て微笑んだ。



「君たちはノフレテーテの手足だけど、今回は私の指揮下に入ってもらうよ。君たちの任務は姿を隠してエルフたちを監視し、化けるなり何なりして彼らの前に敢えて姿を晒す事だ。そうすれば、彼らの反応が見える。つまりある種の実験だよ。あぁ、襲ってもいいけどなるべく殺さないようにね。不必要な犠牲はださないのが総帥閣下の御意志だ。

 但し、これがGA――――つまり組織だった集団の仕業と思われるのは避けること。ベケットちゃんが言うには、この世界では異種族同士のモンスターが組織だった行動をとることは珍しいらしいし、ワーカーの存在自体が知られていないらしい。専門家テイマーのベケットちゃんが知らなかったんだ、この世界ではワーカーというモンスターそのものが知られていない、若しくは存在すらしていない可能性もある。そんなのがウヨウヨ突然現れたら目立ってしまうからね。だから、目立つのも大概にすること。

 それに背後に総帥閣下がいることを悟られるのは拙い。下手すればこの報せを受けた国が全て、総帥閣下を警戒するかもしれない。その場合は殺せばいいんだけど、総帥閣下はそれを望まないみたいだからねぇ」



 そこまで喋ったあと、フローラはパン、と両手を叩いた。



「それじゃ、任せた。体液一滴残らず絞り切って、身体がカラッカラに干からびるまで総帥閣下に御奉仕するんだよ? しなかったら咲き殺すからね」



 その言葉を合図に、ワーカー達は一斉に散っていった。






 部下達の出撃を見届けたフローラは、体勢を動かして再び宙ぶらりんとなった。



「残念、私自ら動きたかったなぁ…………。まぁ、絶対に動けないというわけでもないし……いいか」



 目の前にある村に、獲物を見つめる梟のような視線を向け、フローラは形の良い唇を三日月形に歪めた。



「フローラ様」



 ボーイソプラノが耳に届いた。普通ならば心地良い声なのだが、その発生源を知るフローラにとっては神経を逆なでしてくる音でしかない。

 ぐるり、と首を動かし、蒼い瞳がそれを射抜いた。



 そこにいたのは、ダボダボのGA礼服を着込んだ少年だった。蒼い髪を肩まで伸ばし、顔は中性的だ。少年と少女の合間、そんな容姿をしていた。首から幾つもの十字架を下げ、ブラウンの瞳はしっかりと上司を見つめていた。右頬には不思議な記号――――カーキしか知らないが、それは漢字の「雨」だった――――を模した刺青が彫られている。



「アオラキか……。何だ、自分の身体を飛ばして(・・・・)きたわけか?」


「ええ。仮拠点に。ウチとしても様子が気になりましてね。ワーカーたちは元気ですか?」



 実に楽しそうに笑ったのは、フローラの副官を務めるアオラキだった。カリカリと首筋を描きながら、アオラキは中性的な顔立ちには全く似合わない不遜気な態度で上司に歩み寄る。



「まったく、つっかえねーヒヨコを寄越しやがって」


「? 166号ですか、それとも163号ですか?」


「両方だよ、この暗黒雨男」



 射殺さんばかりの視線を受け、アオラキは首をすくめた。顔は笑顔のままだが。



「こわいですねぇ。ですがまぁ、166号、163号共に“新種”のワーカーです。今のうちに、性能実験は必要でしょう? それも訓練ではない実戦投入での。

 今回の任務は、ワーカーにとってはうってつけ。彼らは優秀な隠密作戦能力を持っておりますし、投入される場はホームグラウンドである森林。千載一遇のチャンスではないですか」


「……仕方がない、か。不承不承、不承不承……」



 不満がありありと読み取れる表情のまま、フローラは小さく不遜な部下を睨んだ。


 このアオラキという男、さり気無く上司をイラつかせる天才のような男なのだ。何故カーキがこんな者を創造し、しかも自分の副官にしたのかはフローラは知らないが、優秀なのは間違いないのでフローラも放っていた。フローラ自身、無駄に恐縮されるよりは生意気なまでに不遜に出てこられた方がまだマシだと考えているからだ。

 先程の166号の態度もそうだが、彼女は部下に畏まって接せられることがどうも苦手なのだ。



「んで、何用? そっちで何かあった?」


「いえ、順調ですね。ただ……」


「ただ?」


「総帥閣下が、お悩みになっているようです」


「……あ?」



 フローラの蒼い瞳に、剣呑な光が宿った。

 フローラはゆらりと立ち上がり、右腕をコキリと鳴らした。シュルシュルと茨が彼女の右腕を鎧を形成するかのように覆っていく。しかし、それは防御のためのものではない。



「御主人様が?……何について、だ? 原因は?」


「……そこまでは。ウチはあくまで一介の副官にすぎません」



 総督の副官は上級ハイモンスターが務めているが、立場的には一介の兵士に過ぎない。その主任務も総督のサポートであり事務職よりだ。もっとも、ハイモンスターである以上、戦闘能力は決して低くはないのだが。

 当然立場は精々が参謀クラスであり、旅団長クラスや大隊長クラスには到底及ばない。言うまでもなく、総帥自らが参加する天上会議には天地がひっくりかえっても呼ばれない。総督に何かが起これば代理として出席するかもしれないが、総督の身に不測の事態が発生した場合はその副官もとても会議で出れるような状態ではないだろう。


 つまるところ、副官クラスに総帥であるカーキに直接接する機会はそうそう滅多にないのである。



「総帥閣下が悩みを打ち明けるにしても、ヘールボップ様やヴィオラ様と言った側近の方々、そして五総督に打ち明けるでしょう」


「まぁ、そうだろうけどさ」



 フローラもそれはわかっているらしく、後頭部をピシャリと叩いて息を吐いた。



「一刻も早く、総帥閣下に安寧を献上する必要があります」


「言われるまでもないさ」



 先程とは打って変わって真剣な表情で言った副官に、フローラは即答した。そして自身の右腕に巻き付いた、不気味に蠢く茨を見つめる。



「……御主人様、もうすぐです。もう少しだけ御辛抱下さい。そう遠くない未来、世界の全てが御主人様の箱庭となるでしょう」



 フローラの蒼い瞳には、己の主人が幸せになれる未来が映っていた。そしてその時は、着実に近付いていると信じていた。











「……やるしかない、な……」



 GAメンバーから送られてきた大量の報告書――――これでもかなり厳選され、且つ纏められている――――に少しずつ挑みながら、僕はふぅ、とため息をついた。


 こういった仕事が、今の僕の生活の過半になりつつある。ファンタジーな異世界に来たら、自分の仕事が作家から書類整理に変わったなんてどんなジョークだよ、と心の中で突っ込みを入れたい気分だ。まぁ、そんなことをしても現実逃避にしかならないけども。



「責任、か」



 部下達が命をかけて危険な場で任務に明け暮れている以上、安全地帯で部下に護られている僕が自分の仕事に不満を言う資格など無いことくらいはわかっている。それでも、自分の命令によって部下が命を落とすかもしれない、そして多くの命を奪うことになるのかもしれないと思うと、最近急に怖くなってしまう。


 今までは異世界転移というファンタジー成分たっぷりの一大イベント(全く持って大イベントもいいところだ。何しろ、これのせいで今までの人生設計が全部御破算になったのだから)のせいで感覚がマヒしたのか、この事についてあまり考えていなかった。

 或いは、本能的に逃げていたのかもしれない。


 つくづく、僕は戦争で何百万もの兵士の命を動かす作戦指令書にサインを書きまくった軍人たちを尊敬せずにはいられない。彼らにとって兵士とは何だったのだろうか。書類上のものでしかないのか、或いは書類上のものにしなければ、やっていけなかったのか。



「三〇にもなってない作家風情には、キツすぎるよなぁ」



 ぼやきながら、僕は何時部下の死亡報告が届くか戦々恐々している自分に気付き、苦笑した。

 上がこんなじゃあ、どうしようもないじゃないか。何が軍団だ。


 どのみちベケットさんのこともある。もう引き返せない。このままこの世界で暮らすにしろ、帰る方法を模索するにしろ、少なくない時間をこの世界で過ごさざるを得ないのは事実だ。この世界に来た以上、この世界で生きていける僕に生まれ変わらなくてはならない。日本人としての「平鹿 桐人」を捨ててでも。


 大体、調査隊の編制と出撃を命じたのは僕だ。すでに賽は投げられた。僕は「平鹿 桐人」ではなく、GA総帥「カーキ」としてすでに動いている。



「皆頑張ってるんだ。僕だってやってやるさ。責任をとるのがトップの仕事だ」



 そう呟き、パン、と両頬を叩いた。ついでにカップの中に注がれた、いい年こいて未だに苦手なブラック・コーヒーを喉の奥に流し込む。

 僕が前にいた世界と同じような食べ物も多くあって良かった、と思う。この期に及んでへんなものまで食べるようになったら、精神が色々とヤバイ。そしてそんな自分が普通に想像できてしまうことに、何とも言えない情けなさというか、恥ずかしさが込み上げる。


 嘗ての日本の平和と豊かさが懐かしく、恨めしい。あんな戦争のせの字もない豊かな国で育ったから、こんな軟弱な精神になってしまったんだ、と八つ当たりもいいところのよくわからない怒りまで芽生えてくる。



「……兎に角、この世界の事を知らないと駄目だ。そうしないとどうにもこうにもならない。

 そして、何時でも戦える準備をしておかなくちゃな」



 そう、僕はすでにルビコン川を越えてしまっている。今更それを後悔してはいけない。それが、命をかけている部下への礼儀と言うものじゃあないか。

 今更、覚悟を決めようなんて思っていても遅いだろうし、今思うと「平鹿 桐人」が気付いていないだけで、「カーキ」はとっくに覚悟を決めていたのだろう。だからこそ、僕は調査隊を出す決心をして、実際にコゲツや大勢の仲間、五総督の一人であるフローラすら送り出した。


 GAの戦闘準備はとっくに整っている。後は、「平鹿 桐人」だけだ。

 その事実にぶち当たり、僕はため息をつきながら、コーヒーを注ぐために席を立った。


 その途中で、ドアの前にメイドが待機していることに気付いたけども、やっぱりまだまだ慣れそうになかった。





 GAのメンバーとトップであるカーキの微妙な温度差。カーキのためなら何でもする、世界すら捧げるGAの基本理念は、平凡日本人の概念を持つカーキには今一つ馴染めません。そして感覚がマヒしていたカーキも色々と考え、覚悟を決めています。


 まぁいきなり現実で約四万の軍勢率いろ、と言われても無茶がありますし、しかも部下の忠誠度がマジ高い分かえってやりにくいという……高けりゃいいってものでもないですね。


 ちなみに本話にでてくる166号は、第一六話に出てきた“働き機生蟲(ワーカー)”の“蟷螂型タイプ・マンティス”の少女と同一人物です。

 彼女はまだ出番があります。


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