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混沌より出ずる軍団  作者: 皐月二八
第二章 チェスマン・プット・ワールド 浸透
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第一五話 オプザート 相対

 PV1,000,000アクセス、ユニーク200,000人突破しました! これからも頑張っていきますので、宜しくお願いします。


 そして5,000字程度じゃ少なく感じる私はもう末期だ……。 

「ロードのためにも、素早くこの世界のあらゆる場所にネットワークを張り巡らせ、正しくかつ必要な情報を献上しなくては」



 第五ヘキサゴン『空中都市』は、蒼空に浮かんだ巨大円盤の上に無数の高層ビルが並ぶという独特な世界である。周囲はほどほどに雲がある青空が、澄んだ空気と相まってさわやかな雰囲気を出している。

 街中にはところどころ緑が見え、味気なさは感じられなかった。そして大勢の軍団員が行きかっている。それはまるで日本の都会の風景だったが、車などが全くないためか、都会独特の喧騒さはあまり感じられない。


 ヘキサゴンでも一際高いビル、通称“蒼穹そうきゅうの門”と呼ばれるビルの最上階のオフィスにて、第五総督マナ=フルーレは唸っていた。


 『空中都市』は、クロノスの中でも第一ヘキサゴン『大要塞』に次いで人口の多いヘキサゴンである。言いかえれば、それはマナが管轄する戦力の大きさを示していた。ごく少数の例外を除き、総督が管轄するヘキサゴン在住の軍団員は、全てその総督の指揮下にある。



「コゲツからの情報もあり、外界の危険度もある程度把握できた……。天上級ヘヴン如き(・・)手古摺てこずる程度では、危険性は低いと判断できる。

 上級ハイの中でも指折りのヴェテランから選抜すれば……不覚をとる可能性は抑えられるだろう……」



 マナは独り言を呟きながら、自身の配下のプロフィールが書かれた書類の束を捲り、偉大なるロードの安寧の礎を創る誇るべき任務に従事する軍団員を選出していく。

 本当なら旅団長クラスや大隊長クラスの指揮官を根こそぎ動員したいところだが、組織運営上の問題で流石にできない。もっとも、責任者イコール高位の実力者というわけでもない。探せば自由に動かせるそこそこの実力者は幾らでもいたし、そういう調査が専門の部隊もある。



「……ふぅ」



 マナは一息つき、壁や床、天井、果ては家具まで白で統一された、不自然なほどに清潔感のある仕事用の個室を見渡した。

 大きな机が一つと、長方形の小さな机が一つ。あとはソファや本棚、キャビネットなどが置かれている。

 しかしあまりに綺麗なうえに必要最低限くらいの物しかなく、些か生活感にかけていた。

 完全にプライベートな彼女の私室ならば、もう少しは物が溢れているのだが。


 窓から見える青空は、今日も輝いていた。

 ロードが創り上げた空間は、本当に美しい。

 マナはそう思い、立ち上がって窓際まで歩き、持っていたコーヒー・カップにゆっくりと口を付けた。ブラックの独特の苦みが喉の奥を駆け巡る。



「……本物の空、か」



 マナにとって、カーキが創り上げた人工の空は、まさに神が賜った大切の二文字では表しきれない授かり物である。当然、不満などあろうはずがない。

 しかしカーキは、本物の空を望んでいるのだろうか。

 カオ・クロヌの空は常に灰色だ。マナにとって、カーキの視界に入れるにはあまりにも無粋な空だった。

 しかし島から離れれば、恐らく見えるのは本物の蒼空だろう。そんな空想に思いを馳せ、マナは自身の唇に指をそわせた。



「――――捧げたいものね」



 マナは小声で呟く。カップの中の褐色の液体が、僅かに波打った。

 カーキは世界を調査した後、どのようなことを望むのだろうか。そこまでは分からない。恐らくカーキも、そこまでは思慮の外にあるだろう。

 しかしもし、カーキが外の世界を望むとしたら。

 それを捧げるのが、カーキの配下たる自分たちの責務だ。



「……マイ・ロード」



 マナの頭の奥には、この世界に漂着する事故直後の、ひどく狼狽したカーキの姿が再生される。あの時は自分自身、何が如何したのかわからなかった。にも拘らず、カーキが苦しんでいることに激怒し、絶叫しかけたのを今でも忘れない。

 あのような無様な真似は、もう二度とするまい。



「……ロードの敵、か」



 以前の世界には、フィールドに行けば不逞なモンスターがいたし、ロードに挑む不届き者もいた。その全てを排除し、ロードはGAを築き上げていったのだ。

 思えば雑魚モンスターにも苦戦していた、昔の自分が懐かしい。もっとも今となっては、その無様さに怒りしか沸いてこないが。


 では、この世界はどうだろうか。

 いや、如何でもいいことではないか。

 カーキの敵は殺す。それがマナの、GAの基本理念である。


 マナはチラリと、壁に立て掛けられている白いレイピアを見た。天上級ヘヴン装備である『震天の長剣(ラグナレク・レイピア)』。カーキより賜った、最強クラスのレイピアである。

 彼女の主な武器はこの愛用のレイピア、そして近接格闘術だ。


 アルマを除けば、近接戦でGA最強の“一番槍”なのが、五総督で近接戦闘力とスピードに最も優れるマナである。


 そんな彼女は、自らの剣と武術でカーキの敵を排除することに絶対の自信を持っていた。

 だからこそ、カーキのために自ら外の世界に殴りこめないことが口惜しい。

 あらゆる敵を突き殺し、斬り殺し、殴り殺し、蹴り殺せる自分が、直接汚い血を濯いだ世界を献上できないことが。玉座に座る、世界の真の支配者に捧げ尽くせないことが。


 世界の価値基準など二つのみ。“カーキに平伏する世界”か“カーキの敵となる世界”かだ。前者ならば、薄汚れた下等生物共の血を洗い落とし献上すればよい。後者ならば前者に造り替えるか、跡形もなく壊せばよい。

 それだけの価値であり、それだけの話なのだ。



「――――らしくもないわね」



 下らない世界について脳内で自問自答するなど、らしくない。

 マナはため息をつき、再び喉奥に褐色の液体を流し込んだ。



「失礼します」



 無遠慮な声と共に、耳を騒音が貫く。御世辞にも品があるとは言えない、少々強いノックだった。

 マナは小さく舌を打ち、返事をする。



「どうぞ」



 マナの声と共にドアが開き、薄い青色の髪で両目を隠した青年が入ってきた。

 背丈はマナと同じくらいで、マナと同じように黒いスーツ姿である。但し、マナが剣襟ピークドラペルのスーツなのに対し、彼は菱形襟ノッチドラペルのスーツだった。水色の勾玉模様ペイズリーのネクタイが、何とも派手に見える程のフォーマルな格好である。

 そして背中からは、氷でできた無数の水晶を組み合わせたかのような、光を反射して輝いている翼を生やしていた。


 マナの副官を務めるレクセル。上級ハイモンスター“凍蒼鷹フリーズ・ファルコン”である。


 レクセルは前髪のせいで隠れている瞳で上司を捉えると、ニンマリと口を三日月形に変化させた。はっきりいって、かなり薄気味悪い笑みである。

 しかし、本人は大真面目なのだから性質タチが悪い。これが此方を逆撫でするためにわざと浮かべている笑みだったら蹴り殺せるのに、と物騒なことを考えつつ、マナは窓に身体を向けたまま、横目で入室してきた部下を見つめた。


 レクセルは両手で抱えていた分厚い書類の束を、上司に差し出した。



「総督。調査隊配属への嘆願書をお持ちしました」


「……」



 いたってまじめな口調と品の無いニヤニヤ笑いが何ともアンバランスだが、これがレクセルである。いい加減に慣れているマナは珈琲を啜りつつ、軽く首肯してそれに応えた。

 同時に心中で嘆息する。

 全く、部下もよい御身分だ。嘆願してカーキ様の御役に立てるのなら、寧ろ自分が率先して立候補しているところだ。大体、GAでカーキの役に立てるような任務への参加を募集すれば、全軍団員が志願するに決まっている。寧ろ志願しない者がいれば、忠誠心が不足しているのかと勘繰りたくなるほどだ。任務への適性云々はこの際置いておくが。


 調査隊編制があちらこちらで囁かれるようになると、毎日の様にこれだ。

 頼もしくもあるが、大量の嘆願書を抱える此方の身にもなってほしいものだ、というのがマナの本音である。


 現在、調査隊は各総督の配下から一定数を抽出することが決まっていた。この調査隊自体、ある種の実験も兼ねている。つまり、GA史上例のない、複数グループの多方面への同時派遣である。

 補給は持つのか。危険性はどの程度か。そもそも世界各地に散らばる調査隊の同時管制・支援など可能なのか。その程度はGAの頭脳たるルカ率いる戦略参謀局が何度も検討しているが、実戦では事前のシュミレートでは想定外の事が度々起こるものである。


 コゲツの単独調査により、外界の事はある程度掴めてきている。無論、“調査隊”と言っても一〇〇〇や二〇〇〇も送り込むわけではなく、調査範囲の広大さ(要するに全世界)に反して三桁に届くか届かないか程度の数である。

 それは調査隊員が最低でも中級ミディアムの精鋭で編制されていることと、コゲツからの情報を加味しても、やはりこの世界については不明な点が多く――――そもそも不明な点が多いからこそ調査隊を送り込むのだが――――やはりGAが外界で暴れ回るのはリスクが高すぎる、とカーキが判断したからだった。


 どの道、食料や資源などについては今のところ困っていない。カーキとしては一刻も早く元の世界に帰還する手掛かりを得たいところではあるものの、焦りすぎて部下を危険にさらすつもりはなかった。

 詰まるところ、それほど火急な事態というわけでもなかったのだ。



「……まぁ、どの道どう転ぼうがこの世界は……すでに、ロードの掌の上ね」


「失礼ながら総督、些か気が早いのでは?」


「そうでもないわ」



 何気なく呟いた一言を部下に聞かれたマナはレクセルをチラリと一瞥した後、ロードが創り出した蒼い空を見て、その目を細めた。



「ロードの手である私たちが、ロードの口に切り取ったパイを捧げるだけ。それだけの話よ」



 男装した総督の一言は、白い部屋の中に溶けて消えた。











「……やぁ、アルマ」



 第一ヘキサゴン『大要塞』の地下要塞区画のさらに奥に、その部屋はある。自ら力を封じたアルマが閉じこもっている彼女の私室だ。

 普段はクリスタル状の分身体を動かしているアルマは、基本的にこの部屋から動かない。ここにいるだけで大抵の事はできる。状況も把握できるし、分身体クリスタルを介しての戦闘も可能だ。そしてクリスタルを介した戦闘ですら、彼女はGAでも指折りの戦闘能力を発揮できる。まさに規格外の存在だった。


 アルマの封印は、僕とアルマにだけ解除できる。と言っても、アルマが解除する場合は緊急時で、しかも僕が解除できる状態にない場合くらいにしか認められていない。もっともそれはあくまで僕が命令しているだけで、アルマがその気になればいつでも解除できる。

 そうなると、僕の魔力が彼女に自動で注がれ――――GA最後の砦が活動できる準備が整う。

 アルマ本体・・の戦闘能力は、クリスタルとは天と地ほどの差がある。


 アルマの部屋は、封印が解除されない限りは僕も入ることができない。

 でもこのように、ドア越しに話しかけることは可能だ。

 クリスタル越しではない、彼女の本当の声を聞くことができる。封印されていると言っても、別に本体の意識がないわけじゃあない。単に部屋から出られず、身体もあまり動かせないだけだ。



「はい、創造主様」



 ドア越しでもはっきりと聞こえる声には、隠しようがない歓喜が見て取れた。それにホッとしつつ、僕はさらに一歩ドアに近付く。



「この世界を知るために、調査隊を派遣する。

 大勢の調査隊員の同時管制と同時支援、そして別枠での(・・・・)調査……アルマ、君の助けが必要だ」



 僕がそう言うと、アルマは一拍置き、強い意志が籠った声で答えた。



「創造主様。私は創造主様だけに仕える道具です。創造主様の御意志に逆らうなど、あるはずがありません。創造主様の命令、完遂して御覧に入れましょう」


「……ありがとう」



 その頼もしさに、思わず涙が出そうになった。

 本当に、僕だけがこの世界に漂着なんてことにならなくて良かった。



「作戦概要は戦略参謀局に立案させている。完成したら、クリスタルの元に届けさせるから、読んでおいてくれ」


うけたまわりました」



 その返事を聞き、頭を下げそうになるのを堪えつつ、僕は後ろを向いて歩きだした。

 だから、僕にアルマが浮かべていた表情なんてわかるはずもなかった。











 カーキの気配が扉の向こう側から消えたことに、彼女・・は苛立ちを覚える。しかし、その対象はカーキではない。自分と創造主様を隔てる扉である。


 その部屋は、壁や床、天井に至るまで、青白く輝く文字や記号で埋め尽くされていた。

 しかしそれを除けば、ベッドがあり家具がある普通の部屋と言って良かった。


 部屋の中央にあるキングサイズのベッドの上に彼女は座り、上官であり己が心身共に全てを捧げている偉大な存在の気配が合った扉の向こうを見つめていた。


 黄金色の瞳は苛立ちと恍惚が混ざった光に濡れ、白く美しい頬は僅かに朱に染まり、紅い艶やかな唇からしっとりとした吐息が漏れる。



「創造主様……」



 少し経つと、彼女の瞳からは苛立ちは消え、忠誠を誓うカーキへの愛のみが込められた慈愛の瞳へと変わっていった。

 もっとも周囲に誰かがいれば、その瞳の中に孕まれた狂信的なまでの想いに慌てて踵を返すか、震えるあまり動けなくなるだろうが。


 そして彼女は瞳を閉じる。

 指一本動かさず、彼女はこの場で己の主君に奉仕するのだ。


 彼女――――第一総督アルマ=ティメイルは、静かに動き出そうとしていた。






 アルマ(本体)の容姿がちょっとだけ明らかになりました。彼女はGAにおける戦略核であり、切り札です。

 それでも分身体を巧みに操り、平時からカーキをサポートします。


 次話は第二総督ルカを主に書いていきます。


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