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混沌より出ずる軍団  作者: 皐月二八
第一章 ア・ボルト・フロム・ザ・ブルー 異変
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プロローグ クローズド 閉鎖

 本作は、新ジャンルに挑戦しようと考えた私、皐月二八による実験作が色濃い作品です。

 よって、更新速度はあまり早くならないかもしれません。今日中に、執筆分は全部上げておきます。


お楽しみいただけたなら、嬉しいです。

 空中に展開されたモニタが、聞き飽きた電子音と共に閉じられた。其れを確認した青年は、深く息を吐いて肩をぐるんぐるんと回した。心地良い疲労感が身体に残り、満足した気持ちが胸に広がる。要するに、やり遂げた感である。


 青年は、ぐるりと周囲を見渡し、嬉しそうに何度も頷いた。其処は、部屋だった。ベッド、机、本棚、キャビネット、クローゼットが置かれた部屋は、全体的にアース・カラーで統一されていた。

 人間とは違う「エルフ」という種族として、架空世界の中においてもなお、日本人としての感性を引き摺る彼にとっては、実に満足のいく色合い、そして内装であった。


 青年は、エルフとしては普通の顔立ちであった。尖った耳に、後ろで無造作に束ねた金髪。柔らかい光を放つ蒼い瞳。

 しかし、着ているものは、軍の礼服のような服である。上下ともに、色自体は紺色ダークブルーと地味だが、金(ボタン)に金色の飾緒しょくしょ(参謀懸章)。そして、金モール製の肩章。


 よくあるファンタジーで聞くエルフの格好としては、甚だちぐはぐ感のある代物であった。



現実世界リアルの部屋並みに過ごしやすいな。大金はたいた甲斐があるってものかな」



 青年は自画自賛するように――――実際、そうなのだが――――小さくパン、と手を叩き、腰かけていたベッドから立ち上がって、伸びをした。


 青年の名は、カーキ。VRMMO『Controlled Chaos』のプレイヤーとして、かなり有名の部類に入る青年である。






 西暦も二〇〇〇年を超え、それから一世紀近く経った現在。ゲームという娯楽のジャンルの一つとして、VRMMO(Virtual Reality Massively Multiplayer Online=仮想現実大規模多人数オンライン)というものがある。主に軍事、次いで医療の分野において、仮想現実を利用した技術は大いに進歩していた。そして其れは次第に、娯楽の分野においても活躍し始めたのである。

 専用のデバイスを装着することにより、実際にゲームの世界の中に入ったかのようなプレイが行える、というシステムだ。


 そして現在、VRMMOの先進国と言えば、日本であった。日本では仮想空間と言うのはひどく身近にある。学校の授業でも当然の如く活用されているし、自衛軍や消防隊の訓練にも欠かせない。そんな日本は、世界のVRMMOブームの火付け役であると同時に、中心地でもあった。

 VRMMOを中心とするエンターテイメント関連の産業は、最早日本と言う娯楽大国の象徴でもあった。


 エンターテイメント大国たる日本において、VRMMO自体は、国産・輸入版を含めて目移りするほど多くある。近年では東EUや亜細亜連合製のVRMMOもおなじみとなった。

 しかし、やはり注目を浴びるのは日本エポック・エンターテイメント(NEE)製のVRMMOである。


 今、カーキがプレイしているのは、そんなVRMMOの一つ、『Controlled(コントロールド) Chaos(カオス)』、通称『CC』である。


 NEEには、主力武器が存在する。NEEの名を世界に知らしめ、現在、もっともユーザーの多いVRMMOと言っても過言ではない武器、其れは『Lost(ロスト) Beyond(ビヨンド)』というVRMMOである。

 このゲームは、VRMMOの中でもMMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game=大規模多人数同時参加型オンラインRPG)というジャンルに属する。つまり、仮想空間で遊ぶオンラインRPGだ。近年はVRMMOといっても、シューティングとかパズルとか様々なジャンルがある。


 『LB』こと『Lost Beyond』は、高い自由度、何より操作の簡単さ・手軽さで世界中で一大ムーブメントを巻き起こした作品だ。しかし、中には『LB』の史上最高とすら称された自由度でも満足できない、コアなユーザーがいた。

 事実、『LB』は高い自由度を求めて開発されたが、同時に初心者に優しいシステムにすることが、其れ以上に優先された。ユーザーが使いこなせなければ、幾ら自由度を増やしたところで意味がないからだ。自由度と手軽さを両立させてこそ、ゲーム・クリエイターの腕の見せ所である(と制作側は判断していたらしい)。

 要するに、「手軽に自由度の高い架空世界へ」が『LB』のコンセプトだったのである。それ故、幾つかの要素は削らざるを得なかった。其れを一部のユーザーは嘆き悲しんだのである。

そしてNEEは、彼らの望みに応えた。『LB』をベースに、より自由度が高い、いや、高すぎてもう初心者ユーザーは完全にお手上げなレヴェルのゲームを開発したのだ。

 それが、『CC』である。


 コアなユーザー程、到底無料サービス内では満足しきれず、課金して新たなシステムやパッチを導入する。課金してでしか手に入らない様なアイテムなどを求める。

 つまり、仮にターゲットをコアなヘビー級ユーザーに絞ったとしても、ユーザー数そのものが減ったとしても、NEEは利益を得られるのだ。あくまで主戦力は『LB』と割り切れば、『CC』の利益が少なくとも、利益が出ている以上は問題ない。そして、それは図に当たった。


 『Controlled Chaos』――――「規制された混沌」の名が示す通り、このゲームの自由度の高さは、最早混沌と称して余りあるものだった。「規制された」といっても、其れは法律やネチケットに抵触しない程度の、まさに最低限の「規制」であった。要するに、結局は混沌カオスである。

 兎に角“やり込み度”の強化が図られ、本来のVRMMOのウリである他プレイヤーとのチャットを利用したコミュニケーションとかよりも、兎に角“やり込み度”が強化された。もはや、ギルドを組むようなメンツではなく、一人でマニアックな作業に没頭するようなコアなプレイヤーしかやらない程の“やり込み度”が追加されたのだ。

 ある意味、VRMMOの定義そのものに喧嘩を売っているようなゲームなのである。そのため、『CC』は“逆行型”とすら評されるようになった。其れをどう受け取るかは様々であろうが。


 『CC』は、コアなユーザー層に万雷の拍手を持って迎え入れられた。兎に角呆れるほど細かいところまで設定できるシステム。

 技術開発・料理・商売・芸術活動・戦闘・冒険――――あらゆる楽しみ方がある架空世界。


 それを求めていたファンは、NEEの予想以上に多かったのだ。『LB』からデータの殆ど全てを引き継げることも相まって、NEEの予想以上のユーザーが集まった。結果、『CC』は『LB』程で無いにしても、十分な成功をおさめたゲームとなった。其れが、国内外の専門誌に共通する評価である。

 ある意味、オタクやマニアしか飛びつかないゲームとも言えるのだが、現在ではオタクやマニアは、寧ろ世間からルールに抵触しない限りは好意的に見られている。そもそもこの御時世、何かにのめり込んでいない無趣味人間の方が遥かに希少である。


 そんな『CC』がサービス開始してから、五年と少しが経っている。






 カーキの『CC』プレイヤー歴は五年以上。つまり、『CC』黎明期からの大ヴェテランであり、古株でもある。何故か。

 それは、彼もまた、『CC』の“やり込み度”に熱中し、それを求めていたユーザーの一人だからである。


 『LB』も面白いが、アレは自分が造り出したNPCの設定を全て細かく決めるようなことはできない。其れが、彼の抱いた不満の一つである。そのため、『CC』について知った時は大いに喜び、サービス開始を心待ちにしていたのだ。


 カーキは鼻唄を歌いながら、自分が造り出した世界を歩いていた。すれ違うのはメイド、そして、同じ紋章が刻まれた鎧を着込んだ兵士。銃を持ち、軍服を着込んだ将兵。

 まさに、自分の理想の“軍団”である。


 NPCがプログラム通りに自分に会釈し、敬礼してくるのに律義に答えながら、カーキは喜んでいた。

 そう、カーキの『CC』内でやり込んだことは、いや、やり込み過ぎたことは、“軍団の設立”であった。総勢万を超える、兵士一人一人から指揮官、給仕係のメイドに至るまで、一人一人が自分が手塩にかけて育て、設定した存在。容姿、性格、長所、短所、口癖、スキル――――あらゆるモノが、被ることがないように、まるで、本物の知性体の集まりのように。

 今までのゲームのように、唯の一兵卒は全部容姿が同じ――――何てこともない。


 自分が此の手で創り上げた。いや、創り上げている。


 そう思うと、カーキは膨大な情熱とコストと時間を費やしただけに見合う、そんな幸福感に浸れるのだ。

 特に、「『CC』最強」と言わしめた五人の総督達。彼女たちは、まさに自分の娘のような存在だ。あれだけ強くするのに、どれだけ時間をかけたか。その分、愛着もけた違いだ。


 勿論、兵士一人一人、きちんと丁寧に育てた。一兵卒だからといえ、適当に済ます事もしなかった。何度も試行錯誤を繰り返し、なるべく自分が思う理想の軍団を築き上げるために、努力を惜しまなかった。


 しかし、其れももうすぐだ。もうすぐ、『CC』内で育てられるNPCの最大数、四万に達する。此れは課金やイベントクリアなど、あらゆる要素を費やしての最大数だ。どうやっても限界。

 いや、カーキ自身は除くから、軍団の総数は四万一となるわけか。






 ふと、カーキは現実世界リアルの時間を確認する。

 午前一時。

 そろそろ、原稿を仕上げなくてはならない。もう寝るべきだろう。幸い、シャワーはすでに済ませてある。


 そう思い、カーキはログアウトするためにメニュー画面を開こうとした。



「……あれ?」



 だが、開かない。

 コントローラが壊れたか、とも思ったが、大体ゲーム機にはデバイス含めて、絶えず自己診断プログラムと自己修復プログラムが走っているはずだ。故障率は皆無に近い。


 何度ボタンをプッシュしても――――カーキの意識的には、頭でメニュー画面の出現を祈っている感じなのだが――――うんともすんとも言わない。いや、これはうんともすんとも以前の問題だ。ログアウトできなくなるどころか、メニューすら開かないのだから。いや、開けないのだろうか。


 メニュー画面のオープンは基本中の基本。其れができなくなれば、やれることはかなり狭まる。


 大体、仮に架空世界にいる最中に現実世界で地震や火事が起こっても、自動危機即応システムが強制的にプレイヤーを現実世界に追い返す手筈になっているというのに。



「困ったな……。メニューが開けなければフレンド画面にも変えられないから、フレンドに助けを呼ぶこともできないし……それ以前に、運営ホストに知らせることもできないじゃあないか。

……というか、何か冷えるな」



 カーキは思わず身体を震わせた。少し、肌寒い。

 そう言えば、ゲーム内では冬だったな。


 そう考え、カーキはゾッとした。今度こそ、背筋が凍りそうになる。


 ゲームでは基本的に、暑さや寒さを感じることがない。其れがショックとなり、人体に悪影響が出かねないからだ。“思い込み”。プラシーボ効果の一種。脳が寒いと判断すれば、現実世界でも霜やけができる……そんな事態が起こりうる可能性をゼロにするため、ゲーム内での五感はごく限られている。精々、少しひんやりする程度だ。

 これはゲームに限らず、一部の例外を除き、仮想空間内では大抵そうなっている。仮想空間監督法、通称「VR法」によって、そう定められているのだ。無論、日本最大級のゲーム・メーカーであるNEEが堂々と法律違反をやらかすわけがないし、今になって、急に寒さを感じるようになるなどあり得ない。何年もこのゲームをプレイしているのだ。


 カーキの、いや、平鹿ひらか 桐人きりとの、現代日本人としては当然の如く、放置しまくっている警鐘が、錆びついた音を立てている。


 嫌な予感が積乱雲の如く発達し、ゲリラ豪雨が起こる前に、カーキは無意識のうちに小走りで足を進めていた。特に目的地もなく。



「―――――どーなっているんだ?」



 何かが起きている。そんな予感に囚われていた。

 冬。自分は此の廊下を一人で歩いている。装飾だらけの、実用性なんて皆無であろう軍の礼服姿で。

寒い。現実じゃあるまいに(・・・・・・・・・)


 そんなことを考えていると、ドン、と廊下の角で何かに当たった。すれ違いざまで、しかも足元を見ていたため、近付いてくる存在に気付かなかったのだ。



「うわっ!」


「きゃっ!」



 聞いたことのない、澄んだような鈴のような声。

 思わず尻もちをつき、条件反射で前を、正確には、上を見た。声が上から聞こえたからだ。



「――――――」



 其処には、肩に届く程の真っ白な髪に、深紅の瞳を持ち、男ものの黒スーツとネクタイ、白いシャツという格好。腰から吊り下げた、純白のレイピア。そして、背中には大きな純白の翼を生やした、自分よりやや背が高い美女がいた。


 彼女は眼を見開き、パクパクと数回口を動かすと、直ぐに尻もちをついたままのカーキを簡単に持ち上げ、埃を払い、立たせた。



「も、申し訳ありません、マイ・ロード!」



 彼女は血相を変え、素早く呆然としたままのカーキの身だしなみを整えた。其れは、まるでメイドのような行動であるが、素人じみたものではなく、洗練され所作が一つ一つ丁寧で美しかった。



「い、偉大なるロードを埃まみれにした挙句、ぶつかってしまうなんて……な、なんと畏れ多き真似を……」



 彼女は震え、土下座しかねないほどの勢いで、頭を下げた。



「……マナ?」


「はっ……」



 マナと呼ばれた美女は、ゆっくりと、恐る恐ると顔をあげた。その時漸く、カーキの様子がおかしいことに気付いたらしい。

 マナは憂鬱な気分になる。やはり、先程の粗相が原因なのだ。

 あとで腹を切ろう、と心に決め、マナが謝罪の言葉を吐こうとしたその瞬間――――。



「で、ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!?」



 カーキ、いや、平鹿 桐人、一世一代の大絶叫が、響き渡った。

 カーキの眼前では、本来なら単純な受け答えと、決まった返答しか返せないプログラム――――NPCの一人……第五総督マナ=フルーレが、驚愕し、青ざめた顔を自分へと向けていた。











 ここから先、僕たちの軍団――――GAこと“Golden Age”の物語が、動き始めることになる。

 此の時の事は、今でも覚えているよ。

 なぜってそりゃあ、目の前で自分が手塩にかけて育てた娘だとも思っている存在が、いきなり切腹しようとしたんだからね。いや、レイピアで切腹はできないから、腹刺しっていうのかな?


 そんな具合で、危機に直面した僕たちの物語は始まる。予想していなかったし、望んでもいなかった展開だ。

 でも、まぁ、兎に角頑張っていこうと思う。






 (近未来)現実世界→転移→別世界。

 こんな流れを書いてみたかったんです。やはりと言いますか、導入部の時点で長くなってしまいました。

 テンポも悪いわ、ちょっと修行しなければなりませんね……。


 御意見御感想宜しくお願いします。

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