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翳した掌  作者: 鈴乃
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瞳の色はソラの色で

『灰色の瞳は呪われているんだよ』


外の世界。光の中にいる奴らは、みんなそういいながら自分達を見る。

灰色の瞳は呪われた色。

それは、煙突から吐き出される汚染された煙のような色。

それは、白く淡いはずの雪が、排気ガスのために本来の美しさを失ってしまった色。

どちらにしても、綺麗では色ではないと、自分達でさえ、思っていた。


呪われた色。


それは、誰かが会えて口に出すまでも無く光の中にいる奴らの暗黙の了解。

それは、光の中以外でも、通用する、人々の常識。

俺は、そんな色を。

あの子だけは、笑いかけてもらったこの色を。

嫌うことは出来なかった。




   +   +   +




「また、起きた〜っ!」

うっすらと目を開けると同時に、誰か、幼い少女の声が聞こえた。

その声は、感嘆のような、安堵したような。全く敵意の含まれていない声だった。

林の中で気絶したはずの自分は、最初に目を開けたとき、周囲の暗さに変な納得を感じた。

敵陣に乗り込んでおいて、気絶しているのだ。

捕らえられて監禁されていようが、殺されてここが地獄であろうが。何が起きてもおかしくは無かった。

しかし、聞いたことの無い少女の声が上から降ってきたことには、さすがに驚いた。

「あっ、まだ寝ててもいーから」

少女は慌てて起き上がろうとした俺の体を無理矢理押さえつけ、力ずくで寝かせる。

(この子は、さっき俺が起きたときにもいたな。)

視界がハッキリしなくて、あの時はただただ必死に「胡蝶の里へは連れて行くな」と呟いていたのだが、聞こえたのだろうか?

飛び起きたとき、ふとそんなことを思い、再び寝かせつけられようとされ、抵抗しようとした。

たかだか、少女の力だ。そんなもの特に問題は無く跳ね除けられたが、その時は余程衰弱していたのだあろう。

少女の手すら払いのける力は残っていなく、あっけなくも、再び寝かせつけられてしまった。

それに自分でも少し、起きなくてもいいかな?と安堵していた部分もあった。

少女の声には殺気も何も感じられず、ただ純粋に言葉どおりの感情が込められていた。

そんな、気の抜けた声に、どうすれば警戒心を強く持てるのか、もし誰か知っていたのだとしたら、教えてほしかった。

「・・・ここは?」

「んとねー。あなたが気絶してたところからもう少し林の奥に入っただけのところ」

「・・・今は、夜なんだな」

うん?と少女は小さく首を傾げたが、彼女の背後には満月が浮かんでいた。

逆光で、顔は良く見えなかったが、髪の毛が鮮やかなオレンジ・・・と表現すればいいのだろうか?月明かりに透けて輝く少女の髪はとても印象的で、どこか幻想的でも合った。

それは、まるで現実の存在ではないことを、主張するかのように。

「・・君、名前は?」

「ユノ!」

うるさくはない程度の、しかし弾んだ声が返ってくる。

ずっと聞かれるのを待っていたかのように、素早く返答する様は少し、微笑ましいものでもあった。

「ユノ・・・ね。うん、覚えた」

「・・・ねーね。私も聞いていい?」

今にも、喋りだしそうなうずうずした雰囲気がこちら側にも、手に取るように分かった。

「・・・いいよ」

少しだけ笑って、俺は返答して。

そして、すぐに後悔した。

もし、彼女が胡蝶の里の人間であれば。

そして、次の質問が俺の予想通りのものだったとしたら。

今、心を少しだけでも許した少女に場合によっては武器を構えなければいけないことを。

俺は、思い出して後悔した。

しかし、いった言葉を取り消すことは不可能だった。

ユノと名乗った少女は、ゆっくり、言葉を捜しながら質問してきた。

「あなたは・・・誰?」

瞬間、やっぱり。と、心の中で溜息をついた。


        あなたは誰?


それは、自分も身元が一言で分かってしまう恐ろしい言葉だ。

簡単に答えるわけにもいかずに、取り敢えず少し質問から外れたことを言う。

「俺は、まさきょう」

「・・・そっか!」

最初はきょとんとした顔をしたものの、少し考えて納得したのだろう。小さく頷き俺の顔を覗き込むことをやめて、体の位置を少しずらし、ユノも俺の隣にころんっと、仰向けにねっころがった。

「んー・・・。でも、ちょっと長い名前かもね」

「そう?・・・じゃあ、好きなふうに呼ぶと言い」

挑戦じみた笑いを含ませながら、俺はユノに言う。

隣ではしばらく悩むよな唸り声が聞こえる。

「『まさ』・・・?それとも、『きょう』?う〜。どっちも、ピンと来ないかも」

「でしょ?だから、フルネームのほうが俺はあっているのさ」

なんだ、だからあんなこと言ったのか。

そう思っていることが、簡単に伝わってくるような拍子抜けした声で、軽くユノは笑って俺の言葉に賛成した。

「そうだね〜。じゃ、『まさきょう』でっ!・・・まさきょう、もう少し寝ててもいいよ。朝になったら起こしてあげる」

「・・・分かった」

意識が戻ってはいたものの、体力までは回復していなかった俺は、ユノの言葉に甘えることにした。

しばらくして、そろそろ意識を手放すか、辛うじて絡めているかというトキに、ユノが横で小さく呟いた。

「・・・まさきょう」

俺は、自分の夢の中での声かと思い、返事はしなかった。

ユノはそれを確認したかのように、言葉を続ける。

「まさきょうの瞳の色は、綺麗な灰色と、カッコイイ漆黒だねぇ。私、その色好きだよ。漆黒は星が綺麗に見える夜の空みたい。灰色は、夜の空に浮かぶ月と遊んでる雲の色みたいだもん」

いきなり、何を言い出すのか?と、内心凄く驚きながら、それでも睡魔に負け意識の絡めを解いてしまった。

朝、見た彼女の笑顔に、その驚きを質問とすることは出来なかった。

ただ、ユノがもう一度、顔を覗き込んできて言った。

「う〜ん、やっぱり綺麗だねぇ」

「綺麗?」

そして、笑った。

「うん、綺麗だよ〜」

聞いたら、今この瞬間すらなかったものにされそうだと。あの時、僅かにでも思ってしまったことが恐怖となって。

昨日の、言葉の真意を改めて聞く事はできなかったけれど。




でも、ユノ。


俺は、君が褒めてくれた。笑いかけてくれた。

この瞳を。

そして、片方だけでも同じ色を持つこの色彩を。


たとへ、呪いと謳われても。

もう、嫌うことは出来無いと思うんだ。

たとへ、敵だとしても。その言葉だけは、素直に受け入れておこうと、あの時はただ必死にそれだけ思って笑っていたかったから。

今回は番外編ってことで、少々文章の書き方を変えてみました。(・・・こぅ、軽めに?)

前回(第3話)で、本当はもぅ少しまさきょうさんを暴れさせようと思っていたのですけど、いかんせん傷が重症だったので、控えると言う残念な結果に終わってしまったため、一種の作者の挑戦というか、リベンジじみた部分があります(苦笑)。

まぁ、またここから本編に戻る予定なので、見捨てないで気が向いたお暇なときにでも読んでみてくださると、もの凄く嬉しいです。

色々予定が重なっているので、多分来月中旬ごろに2〜3話ほど更新できると思います(多分)。

ではでは、いつも見放さずにこの小説を呼んでいただき本当に有り難うございます。そして、これからも、どうか読んでください。

つきましては、ご意見・ご感想・誤字脱字等の指摘・叱咤激励等々ありましたら、評価もしくはコメントのところに送ってやってください。宜しくお願いします。



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