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翳した掌  作者: 鈴乃
3/4

敵より味方と思うところに

「・・・ねぇ、えふー」

裏門から、胡蝶の里を出たユノとえふは、東軍に見つかっては、意味がないと、姿勢を低くして茂みの中を歩いていた。

ユノは、その場にしゃがみ込み(一応、周囲には気をつけているのだろう)、前を行くえふを呼び止めた。

「ん?どうした」

えふも、ユノに習いしゃがみ込みながらユノの方に向き直る。

「コンのとこ行きたいかもー」

ユノの爆弾発言に、えふは一瞬その場に崩れ落ちそうになり、慌てて体制を立て直す。

「んなっ?!・・・あのなぁ、ユノ。何のために、裏門からの出発か、意味分かんなくなるだろ?バロンは、こっちに東軍が、気付かないように、あっちに戦力を集中させるように仕組んでいるんだぞっ?!それを、みすみす・・・」

「だってさ、だってさぁ」

話が長くなりそうだったえふの口を両手で一生懸命押さえながら、ユノは言い返す。

「そんなことしたって『知恵の東軍』でしょー?絶対裏門のことにだって気がついてるよ。逆に、そうじゃないと不自然じゃないー?」

「・・・っぷは。結局何が言いたい?」

ユノの手を払いのけ、えふはユノに結論を言うように促す。

「うん。もぅ東軍に囲まれちゃってることだし、茂みの中だと、矢とか打ち込まれそうで、分が悪いからさ。どうせなら一気にコン達のいる正門まで、一気に張りぬけて、合流した方がいいんじゃないのかなぁ?って言いたいの」

「・・・囲まれてる?」

そして、えふは相手に悟られないように気配を消して辺りの気配を探る。

(・・・6・・・いや、7人か)

確かに、2人は東軍の7人にいつの間にか囲まれていた。

東軍もそれぞれ木の陰や茂みの中、木の上など、様々なところに身を隠して気配も消して入るが、隠しきれない殺気のみが僅かに流れ出て、この場に何とも言えない緊張感を漂わせている。

「・・・なんだ、ソコまでの腕の持ち主じゃねーじゃん」

「えー、そうかなぁ?ユノは上出来だと思うよ?新人にしちゃぁね」

ユノは、まぁまぁじゃない?と首をかしげる。

対するエフは、ははんっと軽く笑い飛ばす。

「基準を新人にするな、バカ。第一、ユノに気配悟られるようじゃ、まだまだなんだよ」

「えー、それって私基準ってことー?なんかムカつくかも」

声が聞こえてないにしても、ユノののほほんとした空気と、えふの軽い空気が伝わったのだろう、敵に戸惑いの気配が漂い始めた。

「じゃぁ、行くか?仕方がない」

「やったー!だから、えふ大好き」

「折れるからってか?なんか、あんまり嬉しくない言葉だな」

「そー?ま、いいじゃん。行こうよ?」

ユノがそう言い、2人は目だけで合図を取り合い、次の瞬間、同時に走り出した。




     +   +   +




「ふぅ、こんなもんかな?」

バロンは、最後の一人の首に軽く手刀を入れて気絶させ、地面に男を伏せさしつつ溜息をつく。

(なんか、嫌な予感がする)

最初は戦闘中にふと、そんな気がしたから、少しは身の危険を本能のどこかで捕らえたのかとも思った。

だが、戦いがあらかた片付いても、予感は消えるどころかどんどん大きくなってくる。

「それに・・・」

9つの気配が、凄いスピードで、こちらに向かってくるのだ。

しかも、ほとんどの気配が死に物狂いで、だ。

「コンーッ!!」

そこまで遠くない距離で、ユノの声が聞こえた。

(背後かっ?!)

バロンは慌てて後ろを向く。

と、同時にざぁっと、今しがた戦っていた東軍の連中と同じ身なりの者達が、もの凄い、同情したくなるような必死の形相で茂みから出てきた。

「んなっ?!」

驚きつつも、東軍なので、遠慮なく手刀でツボを突き、体の自由を容赦なく奪っていくバロン。


バサッ!!


(新手か)

遅れて、茂みの中から飛び出してきた人影に手刀を入れようとした、その時。

「ちょっと、待ったーっ!!」

つい先刻、裏門で送り出したはずのえふの声が聞こえ、はぁっ?と一瞬、疑問符を浮かべたその隙に、バロンは茂みから勢いを殺さずに出てきたえふに体当たりされ、バランスを崩した体を最初に茂みから出てきた人影であるユノの踏み台にされて、勢い良く地面にスライディングした。

「よっと!」

小さい掛け声と共に、ユノが綺麗に地面に着地する。

ついで、バロンの耳元にえふの声が響きく。

「ってー・・・。危なねーなぁ、ったく副長さんはよー?長のユノに手刀入れようとしたろ?!お前、俺が体当たりしなきゃぁ、姫のお怒り大セールの渦に呑み込まれてたぞっ!!」

「・・・。」

(取り敢えず、どけ)

バロンは、本気でそう思ったが、上に乗っているえふは気が付いていないのであろう、まだ、話し続けようとする。

一瞬蹴りどかそうかとも、思ったバロンだったが、さすがに長に蹴りを入れるわけにも行かず、仕方なくユノに助けを求めた。

「・・・ユノ」

「いえっさー」

ユノはバロンの合図を理解したらしく、元気に返事をしながら2人に近づき、バロンの上に乗ってるえふを、両手で思いっきり押してどかした。

「ほーら、えふってばー。コンが重いって言ってるよー。早くどきなよ」

「うぉ、痛っ!!」

押されたえふはバロンをはさんでユノとは反対側の地面に尻餅をついた。

ユノはふふんっ、と得意げに、恨めしく睨むえふの視線をかわす。

「えふが悪いんだもん、自業自得だよ〜」

「はぁ?」

自分の悪行に心の底から気付いていないと言いたげに、えふは首を傾げるが、バロンとユノはさらりと流す。

「う〜ん?コンってばこんなに相手してたの〜?ずっるー。私だって喧嘩したかったのにぃ」

ユノは折り重なって山になっている敵たちを見ながら言う。

ユノの問いかけをうけて、バロンは思う。

(果たして、長さが不揃いの多数の刀を前にユノが喧嘩を出来るのでしょうかねぇ?)

仮に出来たとしても、バロンとえふには笑顔でそんな危険な場所にユノを送り込む勇気は無かった。

「ところで、ユノ?どうして茂みから出てきたのです?私は裏門からお2人を送ったはずですが?」

「えへへ〜。気になってねぇ。それに、敵に囲まれていたんだもん」

胡蝶の里は深い森の入り口にある廃墟の街である。

まだバブル経済が健在だった時代。

森の近くに、テーマパークじみた街を作ろうという無謀なプロジェクトが立ち上がった。

しかし、作りかけの建物が多い中、バブルがはじけて景気が落ち、自然とこのプロジェクトも消滅した。

作りかけの街は影の世界で売買され、今の胡蝶の里として新たな生活サイクルを見出して、それが現在のユノたちが住む場所となっているのである。

街の周りには約7メートルほどのコンクリートの壁が設けられ重々しく、里を外界・光の世界から隔絶している。

街の裏は例の森となっていて、小さな裏口も隠してあるのだった。

「あんな、分かり辛い裏口をこんなに簡単に見つけら手しまうなんて。今度からは、もう少し、門番をつけるか交代制度を作って強化しておいたほうがいいですねぇ」

「ところで、副長さんよぉ?」

バロンがぶつぶつと、一人思案に入り始めたとき、えふは辺りを見回しながら声をかけた。

「20人ほど、里の奴ら出したんだろ?見当たんねーんだけど」

「あぁ、それなら全員探索に向かわせました。まだ、林の中に東の方々がいらっしゃるかもしれませんしね」

要は。

手酷く傷を負わせ、それでもなんとか逃げ切った東軍の人々を捕らえておこうと言う話だ。

胡蝶の里は、もとより「殺す」と言う言葉を少なからず疎遠にする風習があるため、傷を負わせたのに林で倒れてもらっても、後味が悪いと言う言い訳のもと、そこら辺に落ちてる方々を拾って介抱し、正式な手続きを踏んでもう一度東軍に返すと言うコトをしてやるのだ。

胡蝶の里では、それが「いいことだろ?」と思っていても、他の軍にとってすればもの凄い屈辱になっていたりもするのだが、まぁ、それは置いといて。

屈辱とは無縁なユノは、すかさずこの話に飛びついた。

「あ〜っ!だったら、私も行くっ」

一度、この作戦に参加したことのあるユノは、人を引きずるという趣味を作戦内に見出してしまったらしく。また、やりたいといつも姫に訴えていたと言う。

そして、今が格好の時だと思ったのだろう。

えふが静止の言葉を発するより早く、ユノは林に向かって駆け出していた。

「あぁっ!ユノ、ちょっと待て・・・」

「遅いですよ、えふ」

「・・・分かってるよ」

「まぁ、えふアレですよ。アレ」

ごーん。という効果音が似合いそうなほど落ち込んでいるえふの肩をぽんっと叩いてバロンはにこやかに告げる。

「姫に怒られるのだって、単独より団体の方がマシでしょ?」

曰く。

バロンにも、姫に怒られる要因があったらしく、仲間ができて嬉しいとのこと。




     +   +   +




がさがさと、深く多い茂草を両手でどけて進みながら、ユノは鼻歌交じりに思った。

(へっへー。えふが待てって言うより早く出てきたもん。今回は怒られなくて済むねぇ〜っ!さぁってと。今回は誰を引きずれるのかなぁ?)

その考え事は、とてもではないがもうすぐ二桁になる歳の、幼い純粋無垢な少女の思うようなことではなかった。

そんな、不吉な鼻歌を撒き散らしながら、ユノは林を進み程なくして、倒れている男性を見つけた。

「お〜。さっそく、発見☆とは運が今日はいいなぁ・・・って、んぁ?」

男性を覗き込んだ、ユノは思わず息を呑む。

(酷い・・・)

それが、一言で言う男性の現状だった。

刀傷(バロンは刀を基本的に使わないので、恐らく別の里のものであろう)が数え切れないほど突いた体は、来ていたのであろう服を真っ赤に染めて、元の布に染色された色すら残ってはいない。

明らかに見ただけで分かるほど酷い出血量だった。

(取り敢えず、出血止めないと〜)

ユノは腰に巻いてあった黒い自分の背丈の2倍ほどある長さの布を裂き、男性の止血に取り掛かる。

脳への血の巡りを止めないよう必要最低限の血の巡りを確保し、止血が終わった頃男性は小さくうめき声をあげてうっすら目を開けた。

男性は、その漆黒の髪をは似合わず、灰色の瞳の色をしていた。と、ユノも最初は見て思った。しかし、男性はちょっと特殊にも、左目を灰色、もう片方を漆黒の瞳の色とし、見るもの全てを固まらせてしまう、不思議な色だった。

「あっ・・・」

ユノは、慌てて男性の顔を覗き込んだが、男性の双方の瞳は焦点を定めてはおらず、ただ何かを懸命に呟いていた。

「・・・?」

その呟きは声がかすれていてとても聞きづらく、息とともに出されていた。

ユノが耳を近づけて、そしてようやく聞き取った言葉の断片。

「こちょう・・・さと・・・連れ・・・くな」


胡蝶の里へは連れて行くな。


その言葉は、ユノの耳にしっかりと残り、とてもではないが里へ運ぼうとは思えないほど重々しく必死な響きが含まれていた。

「・・・引きずるのは、またおあずけ〜?」

残念そうに呟きながら、それでも瞳にはしっかりと楽しげな輝きを宿しつつ、ユノは男性の両脇を掴み、林の奥へと、短距離ではありながらしっかりと引きずって行った。



ふぅ、やっと3話更新です。

いやぁ、書きにくいですねまさきょうさん。

動かしやすいですね、ユノさん。ってか、引きずるときに足を持たせなくて本当に良かったと思います。

もし、足だったら、引きずるごとに木の地面からとび出した根やら、岩やらにまさきょうさんが頭(主に後頭部?)をぶつけてしまうところでしたからね(笑・・・って書きたいけど、笑えた人は凄い。と言うほど笑えないトコロ)

今回は少し、スピードのある行動を文章にするところにこだわってみましたけど、自分自身の中では玉砕です(苦笑)

ではでは、いつもながら、まだまだ完成品とは思えないほどの未熟品を呼んでいただき、本当に有り難うございます。

つきましては、ご意見・ご感想・誤字脱字等の指摘・叱咤激励等々まぁ、色々と思うところはあるでしょうが、評価もしくはコメントのところに送ってやってください。宜しくお願いします。


p.s.次回は番外編が入ります。

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