里より出ること、鬨の声とし
現今、日本は光の部分と影の部分があった。
光の中では、犯罪が急増し、しかしそれでもあえて国民に公にできる、ある程度の人の生活サイクルというものが成り立っていた。
影の部分では、ソコだけが時代に乗り遅れた、時代錯誤{anachronism}となった、もはや常人では生活が成り立たない。逆に言ってしまえば、常人ではない人々の集まった、そんな日本の光からはみ出したトコロだった。
影の世界は3つの軍から、つくられていた。
力の南軍、知恵の東軍、そして、それ以外のはみ出しモノ。もっとも影の世界に馴染みすぎている胡蝶の里の軍。
そして、先日。
胡蝶の里の中で、花弁が水面に降り落ちるがごとく、舞い踊る一羽の胡蝶が一つのの波紋を影の世界に広めた。それは3つの軍の平穏を乱すほどの大きな波紋となり、振るえわたった。
『胡蝶の里の姫の失踪』
これは、未来の影の統合を意味していて、また影の世界の崩壊の始まりだということを、ここで誰が予想していたであろうか?
+ + +
「じゃ、行って来ます」
「いってきまーす」
春先の早朝。まだ、いかにもかったるそうな声と、反するように明るい声が、胡蝶の里の門から響き渡る。
「なぁ、ホントにお前は行かないのかよ?」
えふはげっそりとバロンに問いかけた。
バロンは何を今更とでも言うように、平然と言い返す。
「里の中心人物3人が里を出てしまって、一体ドコの誰が里を治めるというのですか?」
「・・・あー。そっか。副長のお前しかいねーのか」
そのえふの言葉にバロンは待ってましたとばかりに、えふを突っつく。
「まったく、なんで長が3人もいるのに副が1人何ですか?」
「俺に聞くな。第一、本来は1人だったのに、姫の独断だけで「増やします」って一言で馴染んじゃっただけで、本来俺が副だったんだからな?」
「ゆみこは悪くないよー」
えふの言葉に納得できない、と言いたげにえふの服の裾を引っ張りながら文句を言う。
「「・・・。」」
一瞬の間。
((そうだ、コイツが3人目だっけ・・・))
バロンとえふは、内心大きく溜息を付いた。
ユノの敬語の使い分けが出来ないばかりに、長にまで引き上げられたのだった。
仕方ないといえば、ソレしか言えない。なんと言っても、ユノはまだ一桁の歳だ。それは、これから、相手を敬うということを学んでいかなければならないということ。しかし、影の世界では、教えてくれる人がいなかった。
教える人がいないのに、敬語が出来ないと蔑まれたことに、見かねた姫が無理矢理長まで引き上げたのであった。
当然、ユノは姫にも敬語はなかった。
それが良かったのか悪かったのかは、判断しがたい。とは言え、姫が満足しているということから、掘り起こさないという暗黙の了解となって、里に広がっていた。
そんな、昔のことに二人が思いをはせている時、ユノだけが、ふと、閉じられた門をみやり、再びえふと、今度はバロンの裾も引っ張った。
「・・・ねー。出発って今日じゃなきゃダメ?」
「お前が早くって急かすから今日になったんだろ?いきなりどうした?忘れ物か?」
いつもの、のんきなユノとは違うことを見て取ったえふが、しゃがみ込みユノの顔を覗き込む。
「忘れものじゃなくってさ・・・。門に今日は近づきたくないって言うかー」
「門?門の外に何かいるんですか?」
バロンがユノに確認を入れる。
それに、多分。とユノが頭を縦に振る。
バロンは素早く片手で合図を送り、柵の裏から外を見に行かせる。
まもなく、視察に行った一人が血相を変えて走ってきた。
そこまで、声を大きくすると門の近くなので聞こえてしまうと懸念したのであろう、小さく視察がバロンの耳元で状況を報告する。
それを聞いて、バロンがなんとも微妙な表情を作ってえふを見た。
「・・・東軍が、門の向こう側で待ち構えてるってさ」
「さすが、『知恵の東軍』だな」
えふが嫌な表情を隠そうともせず、嫌味を呟く。
情報が流れていることは、予想済みではあった。しかし、行動が早すぎる。
「ねぇねぇ、どーしたの?」
言い出しは自分であるはずなのに、まったく状況がつかめていないユノが改めてしゃがんでるエフの服の裾を引っ張る。
「喧嘩」
えふは、即答した。
途端にユノの目がきらんっと光った。
「行っていい?!」
「いいわけねーだろっ?!」
「どうぞ」
えふが激しく否定するのと、バロンがにこやかに肯定するのはほぼ同時だった。
「相手は『知恵の東軍』だぞ?!里の皆のように命までは取らないよー?なんて、甘いもんじゃないんだっ!!」
「でも、えふ。ユノの戦闘能力には、確か一目置いているんじゃ・・・」
「コンちゃんは黙ってろ!第一、ユノになにかあったら、後で姫に殺されるのは俺なんだって!!」
「それじゃー、ゆみこの方が東軍より怖いって言い方になっちゃうよー」
「なっていい。大いにいい!」
「全然良くないしー」
また、言い合いが始まりそうな雰囲気を、つかみ、バロンは仕方なくと言いたげに溜息をつきつつ、まぁまぁと二人の間にわって入った。
「ユノの好戦的な性格は、ちょっと今回はいただけないな。帰ってきたら、俺がいくらでも相手してやる」
「・・・ホントにー?」
「多分な。じゃぁ、えふ。里の予備兵出して相手の気を引きつけておくから、裏から出て」
「おいおい、予備兵だけでいいのかよ?」
心配そうに、えふはバロンに問いかける。
バロンは、えふの心配なんてどこ吹く風とでも言うかのように、しらっと応えた。
「胡蝶の里は、西軍と北軍の交じり合ったもの。2軍に対し、1軍が勝つわけないでしょう?どうせ、ただの挑発です。敵の数も、予備兵で十分な程度ですし・・・」
「・・・相手いくら?」
「ざっと見て、400人以上」
「ちょっと待て、バロン。計算おかしくない?ウチの予備兵の数って確か・・・」
「20人でしたけど?」
単純計算で一人割り当て20人と、少なめでしょ?と、爽やかに笑うバロンの顔を見て、ユノとえふは自分がバロンの敵じゃなくて良かったと、心底思った。
「では、行ってらっしゃい」
バロンはあらかたの作戦を予備兵に出し、配置についたところでユノ達を裏門へと連れて行った。
「ねーね、コンも戦うの?」
ユノの心配そうな顔に、バロンは一瞬答えるか戸惑い、しかし目の前で、答えを待っている子どもの期待を裏切る勇気もなく、渋々といった感じで答えた。
「えぇ、一応予備軍のリーダーでもありますからね」
「はん?副長は仕事が重なっているんだなぁ」
えふのからかいに、本当に。と苦笑しながら、バロンはユノに笑ってみせる。
心配そうにバロンを見上げるユノは、笑いかけられ、仕方なくぎこちない笑顔を作って見せ、一気に裏門を潜り抜けた。続いて、えふもユノに続く。
「じゃぁ、頑張ってね」
ユノの言葉が終わるか終わらないかといった時に、正門では鬨の声が鳴り響き、裏門は硬く閉ざされた。
第二話にして、ストーリーのスピード早っ!!と、自己ツッコミを入れてみました。どうも、鈴乃です。
さて、この物語のキーワードにちょっとイタズラしてみたり、やっぱり自分の書く小説の分野を見抜けず、「その他」に逃げてしまったり、いつものようにプロット脱線を試みたりと、違う意味での冒険が含まれていますが、気にしないで下さい。ツッコミが入りますと、自分、激しく落ち込みます。(全てが全てとは言いませんが、ほとんど無意識のうちにやってしまっていることなのです!!)
さてさて、次話からは、(もぅ、既に暴走していますが)ユノを暴れさせるつもりです。頑張れ、皆!・・・とキャラに呼びかけてみたり。
さてさて、そんなこんなで(どんなでだ?!)ようやく2話目が終わりました。
最後まで読んでくださった方々に、いつもにも増して感謝・感謝です。
これからも頑張りますので、叱咤激励、ご感想、誤字脱字等の指摘やご評価がございましたら、どんどん言ってやってください。