葉に隠れるるは胡蝶の故に
「ろっ・・・」
ドタバタと、騒がしく長い廊下を走り抜ける一人の男が、いた。
男は日本人らしく、漆黒の髪の毛の色をしているが、瞳の色が透き通った灰色で、どこか、男の印象を神秘的に見せている。
「朗報!ろーほーだぁっ!!」
長い廊下を、いくつも駆け、急な階段をその倍ほど駆け上がり、男はただひたすら目指す一室をめがけて走り抜ける。
周りからは、道を開けつつも、見知った顔の者達が「どうしたっ?!」とか、「やったのかっっ??」などと、声をかけられるが、本人返答する気も無い(というよりは、そこまでの気力に余裕が無いのであろう)らしく、片手で、周囲の人間を制して、走り抜ける。
目指すは一室。最上階。
いくつもの、階段を駆け上がり、ともすれば、自分はいくつもの階段を上っているのではなく、同じところをぐるぐる回っているだけなのではないか(以前、本でそのようなデザインを見たことがある)とも、錯覚してしまうほど、階段を上りつめ、そしてやっつ、自分がここまで汗だくになりながら、目指していた一室に辿り着いた。
「え・・・えふ・・・」
荒い呼吸のリズムを無理矢理整え、あごにつたってくる汗を手の甲で拭い、男は襖を軽くノックして、耳をすました。
中から、聞こえるくぐもった声。人がいることは、ソレで分かった。だが、である。
(・・・?・・・えふじゃない?)
聞こえた声は、ソプラノ。しかも、子どもと書いてガキと読む年齢ぐらいのまだまだ幼い声だった。しかも、女の子。
・・・確実に、えふではなかった。
えふは、もっと歳が上であり、しっかり成人式にも出たし、お酒を飲んでも警察には怒られない歳である。ついでに言うと、えふはソプラノな声など出せない(よくてアルトだろう)男性だった。
「入るよ」
(仕方が無い、声を出していないだけかも)
そう思いながら、男は襖を開けた。
「あれー?」
「・・・んぁ?」
中には、畳に寝そべりながら、読書にふけている(髪の毛が淡いこげ茶色で、瞳も、髪の色に合わせてある。しかし、前髪がのばされているため、中々その瞳を見ることは難しかった。そんな、男)えふがいた。その隣には、ソプラノ声の犯人であろう、(セミロングの髪は、透き通った茶色で、光に照らされると、オレンジ色と見間違えるほど鮮やかであった。瞳は、男と同じく灰色である)ユノが饅頭を両手に一個ずつ(片方は齧った痕跡がある)と、目の前に置いてある大きな皿に4〜5個程乗せて、えふの隣に座っていた。
どうにも、力の抜ける光景である。
「んぐっ・・・どーしたの?」
「・・・ユノは口の中のモンを全て食ってから喋ろーな」
「ん・・・。で、どうしたの?」
やっぱり、力の抜ける光景である。
男は、今までの張り詰めた緊張感がココには場違いなのだと確信し、緊張を緩めるように、ゆっくりと2人に近づいて、腰を下ろす。
「朗報なんです」
「ろーほー?」
何?何っ??と、目を少し輝かせながら、次の言葉を急かすユノに対し男は苦笑し、言葉をつなげようとして、えふに妨害される。
「・・・ユノは喋るか、食いモンに手ぇ伸ばすか、どっちかにしよーな。ほら、饅頭が転がった」
「・・・むぅ。えふはいっつもうるさいよー」
「ほぅ、そういうこと言うか?ふーん?」
「あ、嘘。ゴメン、すみません。お願いだからお饅頭かえしてーっっ!!」
(完全に忘れられてる。。。)
男は小さく溜息をつく。
「じゃ、後で来ますね」
「あ、いや。悪かった、今でいいよ」
「そーだよ、コン。朗報って、なーに?」
「「え・・・っ?」」
ユノ言葉に、部屋の空気が一瞬固まった。
ユノは、何故かたまったのか、分からず固まり。
えふは不意打ちをつかれたような、きょとんとした顔で固まり。
そして、コンと呼ばれた男は、顔を真っ青にして固まっていた。
「・・・ユノ、今なんて言った?」
とりあえず、といった感じで、えふがユノに言葉を促してみる。
「コンって言ったけど?」
何かまずかったのかなぁ?と、考えてることが手に取るように分かる表情で、首をかしげながら、ユノは男を仰ぎ見る。
「・・・コンって、誰?」
もはや、笑いを必死にこらえながら、えふはユノをさらに突付く。
隣では、次の惨劇を予想できたのであろう、男が慌ててユノの口を塞ごうとする。
「わっ!ユノ、ちょっと待っ・・・っっ!!」
「えー、そんなのバロンのことに決まってるじゃん」
ユノが、上手く男の手を逃れ、えふに返答する。
途端に、部屋はえふの爆笑に包まれた。
「・・・−っ?!ユノ!あれほど人には言うなって・・・」
「えー、『ナイトバロン』なんて、あだなっぽくて、ヤダよー。本名で呼んだ方が親しみ感じない?」
「感じないっ、感じない!!」
えーっ?と疑問符を頭の上に大量発生させながら、ユノはさらに言い返そうとして、えふに遮られた。
「・・・っく。なに、コンって、バロンの本名なの?」
「正確には、コナンです」
「コン・・・ねぇ・・。いいん・・じゃ、ないの?コンちゃん・・・って」
「あー、もぅ。えふ、いいよ、声出して笑っても、良いから」
片手で顔をおおい、がっくりうなだれる、バロンを見てユノは心配そうに覗き込む。
「えーと・・・コン。言っちゃダメだったの?」
「そうじゃないけど、えふに言えばこうなることは分かってたからね」
苦笑しながら、バロンは軽くユノの頭を撫でた。
一通り、えふの笑いが収まったところを見て、バロンは言葉を繋げた。
「で、朗報のことなんですけど・・・」
「あぁ、そうだったな」
「・・・ユノは聞かないほうがいいかと」
ちらっ、とユノを見ながらバロンはえふに伺うような視線を向けた。
「えー?仲間はずれ?」
「や、そうじゃないんだけどね・・・」
「じゃぁ、いいでしょ?何聞いても、おとなしくしてるって、約束するから」
「おい、お前ほんとに約束できるのか?」
えふが、ユノに慌てて聞き返す。
「む?なんだよー。それぐらいできるよ。ユノはもうすぐ10歳だぞー?!」
「まだ、歳一桁だろーが」
「もぅすぐ二桁ー」
「・・・では、2人とも、静かに聞いて下さいね」
バロンがそういって、二人の言い合いをおさえた。
「実は・・・姫が家出をなさいました」
しんっ、と、静かになった部屋に一言バロンの言葉が零れ落ちる。
ヒメガイエデヲナサイマシタ
何故か部屋の空気がすぅっと、冷たくなっていくのをえふとバロンは感じた。
ふと、ユノを見ると、ユノは弾かれた様に窓に走っていった。
「ちょっと、待ったぁーっ!!」
慌てて、ユノを押さえ込むえふ。
そうはさせまいと、必死に窓枠につかまるユノ。
「はーなーせーっ!!」
「はなすかよっ?!ってかお前、今何しようとしたっ?!」
「ゆみこを連れ戻しにーっ!!」
「どこからっ?!今、まさに窓から飛び降りようとしてるように、お兄さんには見えるんですけどーっ?!」
「いえっさー」
元気良く肯定するユノにえふはアホかっ?!と怒鳴りつけ、窓枠からユノを引き摺り下ろした。
「もぅすぐ、二桁の歳になると、威張ってたヤツがどーっして、窓から飛び降りようとするっ?!おとなしくしてるって約束はっ?!」
「前言撤回」
「なぁっ?!お前、そんな言葉どこから覚えてくるんだよ?」
「えふから」
「くっ・・・」
今にも噛み付かんばかりの勢いで怒るえふを、まぁまぁと宥めながらバロンが口を開いた。
「朗報は、ここからなんですよ?」
「あぁ?」
「えー?」
二人の疑問符を軽く無視して、バロンはえふに尋ねた。
「どうしますか?えふ」
「え?なにが?」
「ユノは、これ以上野放しにしておくと、この13階から、飛び降りかねませんよねぇ?」
「えっ・・・まさか俺が行くの?」
「正確には、ユノについてく保護者的役割ですけど」
はぁ?とあからさまに拒絶に態度を見て、バロンは丁寧に、ユノを指差した。
指を指されたユノは、胸を張ってそれに応える。
「いーよ、えふなんかこなくたってさー?ユノが一人で行くよ」
「・・・はい。分かりました、行って来ます」
えふの即答にいかにも不満そうなユノと、満足そうなバロンの顔。
かくして、えふは『姫☆連れ戻し作戦』のメンバに括られたのであった。
新年に入ったから、調子に乗って新連載〜☆って言うわけではありません。決してっ!!冬休みだから、頑張って〜wwでもありません!・・・多分。
さてさて、こんな変なテンションでいいのかという、ツッコミが出てきそうですけれど、やっとこ出しました、新連載小説!もぅ一つの小説も完結してないっていうのに、出しやがりましたよ、この子ったら!!
そして、例によって例の如く。いつものように、プロットとは反対方向の話の進め方をしています、この作者。ホント、自分に手を焼いております(汗)
蝶は一羽って数えてよかったのかっ?!まぁ、様々な面で不安が残る、新連載の記念すべき第一話ですが、ここで呆れず、諦めずに読んでいただきたいと思っています。
ではでは。
最後まで、(こんな長い後書きも・・・)読んでくださった皆様に感謝・感謝ですっ!!
これからも頑張りますので、叱咤激励、ご感想、誤字脱字等の指摘やご評価がございましたら、どんどん言ってやってください。