中目城陽子の打算的な告白
「せんせ、好きです。わたしとお付き合いしてください!」
中目城陽子、17歳。8つ歳上のせんせに告白しちゃいました。きゃっ
なんて素敵!この青春感。とっても気分が良いです。これこそ学校生活という感じです。このまだ十分に若いせんせ、一部の女子生徒からカルト的な人気を誇るこのせんせに、わたしも浅はかに恋してるんです。そしてわたし、当然のようにせんせから子ども扱いされて、振られて、悲しんじゃうんです。わたしが子どもだから、叶わぬ恋なのね…おいおいおい、なんて夜通し泣いて、散々泣いて、それでも前に進むんです。そしてその体験こそが、私をまた一歩おとなの女性にしてくれるんです…あー。楽しみ楽しみ楽しみ!きゃーー!さぁせんせ、わたしを振って下さい。なに馬鹿なことを言ってるんだって、一喝してくれてもいいです。どうぞ!さぁ、せんせ今こそ、わたしが完璧な女性になるための礎になってください!
さぁ。さぁ、さぁ!
「ありがとう。こちらこそ、よろしくね」
…………は?
……何言ってんのこいつ。
「それじゃあLINE交換しようか」
…マジ?
キショいキショいキショいキショい!!
え、待って。
わたしそんなつもりじゃ…
わたし、ただ、青春ごっこしたかっただけなのに!少しレヴェルの高いおままごとを、したかっただけなのに!何本気にしてるの!?
あ、スマホ出してきた。ボロボロのスマホケース。キショい!こいつ…ふざけんな!未成年に手出して良いと思ってんのか!身の程弁えろ!
「は…はーい…やったぁ…」
「あれ?なんか浮かない顔だね」
「い、いいえ?そんなことないですよー?」
わたしもスマホを取り出さざるを得ません。せんせが一丁前にLINEを開いて友達登録用のQRコードを見せてきます。うーわ、マジ?わたし、ホントにせんせと付き合うことになるの?最悪なんですけど…
「わーい、せんせのQRコード、嬉しいなぁ…」
一ミリも嬉しくない!嫌だ!逃げたい!この場から!
わたし、QRコードを読み取るためにカメラを起動します。なんて人生、うまくいかないんでしょう…………ごめんなさい。私って馬鹿。人の気持ちを考えずに、独りよがりなお遊びなんてするから…………こうやって、罰が下るのですね………
QRコードを読み取ります。すると、せんせのアカウントが表示されました。せんせのアイコンは格好つけた自撮りでした。そして名前は『ほーちゃん』…キショ!キショ!なんであだ名!?良い年こいて!!ふざけんな!!
渋々追加しました………
「中目城さんみたいな可愛い子と付き合えて僕、嬉しいよ」
おえーーーーーーー!!!
えーーーーーーー…………
エェ………………ェ
エ、え、エ、え、絵
あ、
もうダメだわたし。
限界を迎えた。
ギー、ガシャン
私ハ高性能AIデス
現実逃避ヲスルコトニ特化シテイマス
「あれ、中目城さんがAIになっちゃった。何でなの?」
何故カト問ワレルトソレハ
ワタシガカンペキダカラデス……
「そうか、完璧になれたんだね。じゃあそんな完璧な中目城さんに一つお願いが」
ナンデモコタエテミセマス…
「僕と、お別れして下さい!」
…………!!!
「は、はい!!!!!」
えーーーー!?!?
な、な、な、
何ーーー!?!?!?
じゃあ今の下りは何だったのーーー!?!?
「うえーーーん、悲しいです、せんせーー」
とりあえず泣いてはみたけれど、まだ心臓バクついてんですけどーー!!
どういう揺さぶり!?!?え?怖い!!怖いよーー!!
まぁでも良かった。これで、当初のプラン通りに戻れる……
「あ、中目城さん人間に戻ったね。良かった。よし。じゃあもう一回僕に告白してみて」
「え?」
んん??
「もう一回、告白してみて」
な、何だ??
ど、どういう提案??
「え、でもさっきお別れって……」
「いいから」
声が冷たい!
怖い…怖いです…
分からないけど、仕方なく言うコトを聞きます……
「わ、わたしと付き合ってください」
「うん、良いよ」
ええ!?!?
「じゃあLINE交換しよっか」
は!?は!?は!?
何?デジャヴ!?何が起きてるの!?
「LINEはさっき交換した筈では…」
「僕、LINEのアカウント500個持ってるんだ」
こっわ!!!
「それで、この一連の行為を今から500回繰り返すよ」
ふえ…?え、え、え……?
「そしたら僕達は無限ループの渦に飲み込まれる」
え、え…?え、え、え、え……?
「そうすれば世界がバグって、空間と空間の間にまた小さな空間が生まれて、その空間の中にまた小さな隙間が生まれるから、その瞬間、僕達はそこに飛び込むんだ」
え?え?え?え?
「そうすれば、僕達は晴れて楽園に行けるんだ。意味分かるよね?」
分かりません。
な…何?なになに?
せんせ何を言ってるのか、さっぱり理解が追いつきません。頭がおかしくなりそう。あ、またAIになっちゃう……
マタ、カンペキニナレマシタ
「よし、じゃあ人間に戻すね」
カンペキニナレタハズ
「中目城さん」
ハズナノニ
「僕達、別れようか」
アナタガワタシヲミツメルヒトミハ、ドコカワタシデハナイトオクヲミテイルヨウデ、フカクニモトキメイテシマイマシタ……
「…ん?」
ダカラワタシ、ニンゲンニモドレマセン…
「…はぁ」
イッショニラクエンニイキマショウ
センセ
センセ
「やっぱり君もそうか…」
センセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセセンセ
「君もやっぱりいざ楽園を目前にすると…そうやって狂ってしまうんだね」
落胆の表情を浮かべるせんせ。
しかしそれもまた…
気持ち悪くて…
「ん?」
「あ」
やべ。
「中目城さん、今……」
ナニヲオッシャッテイルノカワカリマセン
「人間に…」
ナニヲオッシャッテイルノカ…
「戻ったね…?」
ワカリマセ
「しらばっくれんじゃねええ!!!」
「キャーーーーー!!!!!」
きゃー、きゃー、きゃー、きゃー!!!
わたし、怖くてひたすら叫びました。
それはもう、豪快に。
「僕がどれだけ楽園を待ち望んでいたか!中目城さん、君には分かるまい!僕は幼少期よりネグレクト、いじめ等の理不尽をこの痩せ細った心身に受け続け、完全に精神が歪んでしまった実感があったけれど、それでも救いを求め、この世界をただ死霊のように彷徨い続けたんだ!!そしたらある日遂に僕は辿りついた!それこそが無限ループなのだ!!果てなき繰り返しの境地!!神の思考すらもバグらせる完全なる無機質な世界観の創造!!それこそが僕のたった一つの救いの道なんだ!!なのにどうして、そうやって馬鹿にしたような態度を取るの!?なぁ!!僕に協力してくれよ!!中目城さん!!君のそのありのままの水々しい狂気を、そのまま成型して、無機質に整えてくれよ!!全部僕のために!僕だけのためにさ!なぁ!頼む!頼むよ!!なぁ、なぁ!なぁ!!」
「うるさーいいいい!!」
聞きたくない!聞きたくない!!聞きたくない!!
わたし「聞きたくない!!!!!!!!」
「こ、声が2倍!?1人なのに!?まさか…!!」
これは………!!
ーー世界が、バグったーー
空間の中に
また空間が生まれる
そしてその空間の中に
また空間が生まれる
そしてその空間の中に
人1人入れるくらいの、小さな隙間が………
「やったァァァァァーーーッ」
せんせはその隙間を見るや否や歓喜の雄叫びをあげて、
一目散にその中へと飛び込んでいってしまいました。
「やっと救われる…!!救われる!救われるんだーーッ!!」
【すぽっ…】
「はぁ…はぁ…はぁ…」
全てが終わりました。
せんせはいなくなりました。恐らく存在ごと。
わたしはそこにへたり込んでしまいました。
あぁ、何だったのでしょう。
途轍もなく最悪な夢を見てしまったような感じです。
今日は何だか疲れ切ってしまったので、もうさっさと帰りましょう…
ぴろん♩
…ん?
何とか立ち上がって帰ろうとした時、わたしの携帯からLINEの通知音が鳴りました。
嫌な予感がします………
恐る恐る携帯を起動してみると…
通知欄には『ほーちゃん』の名前ーー!!!
「キャーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
『陽子チャン、僕ト付き合っテ…』




