挨拶廻り
アップル・パイがなくなる直前。
アイシャが店に到着して、ウェイトレスに軽く挨拶をした後、シャアリィの隣の席に座る。
「うっわー、アイシャ超似合ってるー、ちょっと内巻きシャギー可愛い!」
シャアリィの褒め言葉に顔を赤らめながら、失敗してなくて良かった、と。
ロングヘアの時よりもちょっとシャープな顔立ちが、より洗練されて、確かに似合っている。
「整髪までしてもらったのに、何故か、お金を頂いてしまってね」
「切った髪の毛を買って貰えたんだよ」
シャアリィ、ナッチェ、エレナは、なるほど・・・そりゃ売れるわ、と頷く。
フランコは、今更になってシャアリィの髪にも値打ちがあったんだろうなぁ、と、顔を青くした。
あまり長居も出来ないね、と、アイシャはコーヒーを注文した。
アップル・パイの最後のピースがアイシャの口に収まり、エレナとナッチェに感想を聞く。
「一流のお店って何から何まで美味しくて、驚きました」
シャアリィとアイシャは、まぁ、ここは別格だよねぇ、と、笑い合う。
・・・
何時の間に用意されていたのか、アレックス夫妻の店には、
『ファイヤー亭』
という看板が掛かっていた。
「んん?おお?まじか?」
というアレックスの反応に、異変を感じたオルチェが大きな歩幅で店奥から出てくる。
「シャアリィ、アイシャ・・・来るなら、来ると・・・」
アイシャが一歩前に出て、オルチェのハグを受け止める。
(シャアリィじゃ、無事で済まんからな・・・骨が軋むっ)
その勢いを見て、黒猫姉妹が三歩程後ろに下がり、様子を伺っている。
オルチェの強烈なハグから開放されたアイシャが、黒猫姉妹をアレックス夫妻に紹介する。
「なるほどねぇ、そりゃ難儀だったねぇ」
「でも、どっちがいんだろうね・・・エドんとこも夏には開くから、人手欲しいだろうし」
「しかも、こんなに可愛い猫ちゃん姉妹・・・んー、でも、アタシも手放したくないし、うーん」
「内緒で先に雇ったら、絶対に不貞腐れるだろうし、うーん」
じゃあ、私呼んでくるよーと、シャアリィが出掛ける前に、フランコが挙手。
「私も、教会へ挨拶に行こうと思う。グリーン・ノウズへは適当に帰るから、ここでお暇するよ」
フランコも、黒猫姉妹が歓迎されることを知って安心したようだ。
「こっちにいる間、ここ、酒もつまみも美味いから、暇なら寄ってあげてよ」
シャアリィとアイシャに見送られて、フランコはレリットランスの教会に向かった。
そういえば、私、エドワードの居所知らんかった、と、呼び出し役がアレックスに代わった。
「大きいほうがエレナ、ちっこいほうがナッチェだね!」
「アタシはオルチェ、シャアリィとアイシャには世話になったんだ」
「だから、二人はなんの気遣いもなく、私達に甘えればいい!」
「寝るとこも、飯も遠慮しないこと、でも、そういう時はちゃんと手伝いはしてもらうからね!」
「あんた達も甘えっ放しは嫌だろ?」
黒猫姉妹は、勿論ですと元気に答えて、宜しくお願いします、と、頭を下げた。
かなり近場に住んでいるのか、エドワードがアレックスに連れられてやってきた。
「ほら、見てみろ、耳あり、耳なし、耳あり、耳あり小だ」
「お前がどうしてもって言うなら、可愛がる権利を分けてやってもいいぜ?」
何故か、アレックスが得意気に雇う気満々で、黒猫姉妹をエドワードにお披露目する。
黒猫姉妹は、エドワードの顔に驚いて、オルチェの後ろに隠れた。
「あっ、だ、大丈夫だからっ、俺、これでも治癒師だから、怖がらないでくれ」
「ほら、あ、そうだ、チョコレート持ってるぞ!」
エレナとナッチェが、シャアリィ、アイシャ、オルチェにうるうるした目で救いを求める。
シャアリィが笑いながら、ナッチェに説明する。
「顔は怖いけど、エドワードはとっても優しい人だから、ほら、チョコもらっておいで」
おっかなびっくり、ひきつった笑顔でナッチェが勇気を振り絞る。
エドワードは小さなその掌の上に、チョコレートを二つ優しく置く。
エレナが、ナッチェの肩に掌を置いて、
「エドワードさん、ありがとうって、ほら」
ナッチェは、どうやらエドワードが怖くないことを理解したようだ。
「あ、ありがとうございます」
「あ、あ、姉と分けて頂きます」
何故か、エドワードにはガチガチの敬語が抜けなかった。




