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黒猫姉妹の新天地

黒猫姉妹がグリーン・ノウズで暮らすには、これからも相当の危険が付き纏う。

今まで何も起きなかったことが不思議であり、それが限界であることを今回の事件は明白にした。

フランコは研修旅行という名目で、教会を一月程閉鎖し、黒猫姉妹のレリットランスへの旅に同行することに。


シャアリィとアイシャも、それに加わる。

魔石収集を続けたかったが、やはり、手紙一つでエドワードや、アレックス夫妻に迷惑を掛けるわけにはいかない。


冒険者ギルドに長期旅行を告げ、海賊討伐は正式に断ることにした。

叩けば埃の出るクエストだけに受付嬢のアイリーンも二つ返事で承諾した。


「まずは、東へ九日の馬車旅だよ」

「そこから、北へ二日・・・それで私達が一年過ごした街に到着」


長距離キャラバンの通る街道には、幾つも中継点があり、物資も途中で補充出来る為、大荷物は必要ない。

黒猫姉妹は必要な衣服と亡き両親の形見、新品を買うと勿体ない身の回り品だけを荷物に纏める。

教会が世話をしていた子供達は周辺の教会に預けられ、準備は整った。


「少し寂しいね」


と言って涙を堪えながらナッチェがエレナに同意を求める。

エレナはナッチェの頭を撫でながら、


「シャアリィさん、アイシャさんが一年も暮らした所なら、きっと、いい街だよ」

「それに姉妹一緒なら、何処に行っても大丈夫」


さすがに姉妹のスキンシップでは、シャアリィはキレないらしい。

それでも無性にアイシャに構ってもらいたくなって、しっぽにちょっかいを掛けてしまう。


「ほら、キャラバンが来たよ」

「乗り合い券を買ってくるから、シャアリィ、大人しくしてて?」


シャアリィは懐の革袋を一つ、エレナに手渡す。

中には100枚少々の銀貨が入っている。


「旅の路銀と当面の生活費ね」

「これが最後のお節介」

「ナッチェは食べ盛りだし、備えは必要なんだから」


エレナは革袋を受け取ると両手でそれを大事そうに抱えて、シャアリィに深く頭を下げた。

自分が受けた仕打ちなど、この優しさがあれば乗り越えられると強く閉じた瞳から涙が溢れた。


・・・


懐かしい門が見えて来る。

ブラインドを開けて検閲兵にシャアリィが手を振ると、普段は愛想の悪い兵たちも、槍を持つ手でそれに応える。


「シャアリィ、アイシャ、随分と早い帰還じゃないか」

「レリットランスが恋しくてたまらなかったのかい?」


満面の笑みで検閲兵に迎えられ、アイシャも破顔する。

馬車を降りて早々、アイシャはシャアリィに手近な治癒院に連れていかれた。


「アイシャの髪を私とお揃いの長さに切ってくださいな」


この世界では治癒院に散髪師がいるのだ。

髪を切るという行為は、散髪師の資格がなければ傷害行為になってしまう。


「はッ、そういえば、また忘れてた」


アイシャがシャアリィに謝りながら、自分の髪を背中から胸の前に纏め、このへんくらいかなと指で挟んで見せる。

レリットランスはまだ寒く、暫く感じたことのなかった首筋への寒気で、思わず身が震える。

それでなくとも、アイシャは寒いのが苦手だというのに。


「お揃いにしないと、私達がまるで大喧嘩したみたいでしょ?」

「ナッチェとエレナ、おっとフランコを忘れてた・・・馴染みのカフェテラスがあるから、行きましょう」

「じゃあ、例の店で待ってるから!」


約束を覚えていなかったアイシャへの、シャアリィからの小さな意趣返しだった。


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