精算しなくては
アレックスとオルチェは新婚で居酒屋が繁盛してる。
エドワードは治癒院を開業するらしい。
『猫の手』も借りたいのは、恐らくどちらもだろう。
こんな治安の底の抜けた街よりは、ずっといい。
勿論、レリットランスにも『迷宮最深部問題』はあるけれど、それは冒険者の課題であって善良な一般市民の抱える厄介事ではない。
でも、その前にシャアリィは例の神父と話をつけておきたい、と、思った。
神父が過ちを認めて情報提供をしたからこそ、最悪の事態にはならなかった。
万一、神父が誘拐犯から報復を受けるようなことがあれば、後味が悪い。
留守番をアイシャに代わり、今度はシャアリィが、あの神父の教会に足を運ぶ。
善良な冒険者がお礼を伝えに来たという体裁で。
話次第では、あの神父にはまだ利用価値がある。
シャアリィは、そう判断している。
「神父様、ありがとうございました」
「神父様の導きによって、エレナを救い出すことが叶いました」
「まずは、お礼とこちらの教会に寄付を・・・」
ちょうど礼拝堂ということもあり、シャアリィは献金用の盆の上に金貨一枚を置く。
あくまで教会への寄付であるため神父は受け取ることを拒否出来ない。
「ありがとうございます」
「あなたの善意に感謝を・・・」
「また、この教会で救える者が増えます」
神父は恭しく献金盆から金貨を取り献金箱へ入れる。
その指先の集中が金貨に注がれている瞬間、シャアリィは神父に問う。
「神父様は、大丈夫なのでしょうか?」
硬直する身体、金貨を掴んだまま震える指先、ゆっくりとシャアリィに向き直る首。
その表情は・・・
『おまえは何処まで知っている?』
と、いう意味以外に受け取ることの出来ないもの。
シャアリィは純真可憐な天使の顔から一転、蠱惑的に唇をチロリと舐めた後で神父の耳元に甘い声で囁く。
「不都合なことがあれば、精算に手を貸すこともお礼に含まれます、よ」
「その場合には、私達のお願いも聞いて欲しくなってしまいますけれど」
「心配なんて、全然、必要ありません。私は冒険者であり、あなたの味方なのです」
「神様のご加護は、あなたにも必要でしょう?」
神父は礼拝堂に自分たち以外に人がいないことを確認した上で、応じる。
シャアリィの聖女のような振る舞いに絆されて、取り戻してしまった偽善。
それが招いた、これから起きるであろう困り事、その後始末までしてくれる、と。
「今夜、ここにエレナを拐かした連中が来ることになっています」
「売り物を逃したのだから侘び金を払え、と」
「お力、お借りできますか?」
神父の訴えを小さく何度も頷きながら、聞き入れるシャアリィ。
額の汗を拭きながら、神父はシャアリィに祈る。
シャアリィは、へたり込んだ神父の頬を両掌の上に乗せて上から告げる。
「今回は、無料で請け負いますよ」
「但し、私達は片付けは得意でも、掃除は苦手なのです」
「そこらへんは、神父様が上手にやってくださいね」
「では、日暮れになったら私達は既に教会の何処かに潜んでいるので、ご安心を」
上目遣いの神父と、それを見下ろすシャアリィの視線が合う。
ニヤリと笑いあったのは、交渉成立の合図だ。




