値踏み
明らかに神父の表情に反応があった。
すぐに個数の上乗せをすれば、足元を見られるだろう。
これは最初で最後、たった一度のチャンスだ。
「シャアリィさん、私達姉妹のためにあなたにそこまでして頂くわけには」
ナッチェの律儀さがシャアリィの演技に信憑性を吹き込み、アイシャもそれに乗じて神父に揺さ振りを掛ける。
「シャアリィ、それはダメだ」
「幾らパートナーでも、私の我儘のためにそこまでしてもらうのは間違っている」
「それに、千個なんて軽々しく・・・どれ程大変なことを約束しようとしてるのか分かってるのか?」
シャアリィは苦渋を滲ませた微笑みで、アイシャに答える。
「神父様にお願いする以上、私達に出来る最大限のことをしましょう」
ただ深く下げた頭を地面に擦り付け、シャアリィは神父の良心に問う。
「気に掛かるようなことを、このコの姉は何か言ってなかったでしょうか?」
「覚えていらっしゃったらで、結構です」
時間が止まったような沈黙の後・・・
シャアリィは、自身の腰のホルダーから愛用のダガーを抜き放つ。
アイシャの顔付きが変わる。
神父が一歩後退る。
媚びを一切忘れ去った表情に戻ったシャアリィが身体を起こし、神父を見据える。
「コレも差し上げます」
「どうか、お救い下さい」
髪を束ね、自分の項にダガーの背を押し当てる。
「ダメだ、シャアリィ!」
アイシャの叫びとシャアリィが自らの髪を切り裂くのは同時だった。
シャアリィは、瞳の色と同じ金色の髪を両掌で神父に捧げる。
「今の私に差し上げられるものは、これが精一杯です」
「どうか・・・」
ナッチェが泣きながらシャアリィに駆け寄るのをアイシャが抱き止める。
「どうして、そこまで・・・どうして・・・」
神父は呆然と立ち尽くす。
そして、思い出したかのように胸元の十字を握り締め、乾いた声で告げた。
「私は君に伝えねばならない・・・この娘の姉は、商業埠頭の南側倉庫の何処かにいるだろう」
「君は私に過ちを教えてくれたのだ、魔石は必要ない」
「すぐに行きなさい」
その口からこぼれ落ちたのは、聖職者の言葉。
シャアリィは、アイシャと約束していたことを思い出しただけ。
暑くなったら髪を切ろうと。
髪は女の命というだけのことはある。




