心の底の痛み
アイシャには、仲間の仇討ちというフローズン・ドラゴンと戦うべき理由がある。
だが、シャアリィとしては無理してフローズン・ドラゴンと戦う意味なんてない。
それでも、シャアリィはアイシャと同行し、フローズン・ドラゴン討伐をするべきだと考えている。
意趣返しという意味では、アイシャと近い。
それ以上に、この先、魔人として、不死者として、冒険者として、生きてゆくならば、やはりフローズン・ドラゴンは避けては通れない。
魔人になったことは、この先、誰にも明かせない。
つまり、シャアリィのこれからの人生で、手放しでウソ隠しなく付き合える相手はアイシャだけなのだ。
アイシャにとっても、自分の所属していたパーティがシャアリィの魔人化の原因である以上、責任を果たさなければならない。
倒したからといってシャアリィを元の身体に戻せるわけではないけれど、倒さずに素通り出来るわけもない。
「討伐にはシャアリィが必要だから」
アイシャは、その言葉を何度も繰り返した。
深く考えれば考える程に、シャアリィに待ち受ける未来は明るくない。
・加齢しない・・・多少の加齢はあるだろうが、人間のように数十年で老人になることはないだろう。
・医者に掛かることが出来ない・・・致命的な怪我をするようなことがあっても、人間とは違う心臓のない身体なのだ。
・討伐対象になり得る・・・魔核は言わば魔石であり、シャアリィのそれは相当の価値がある。
・子供を成すことが出来ない可能性が高い
・権力者にとって強力な兵となり得るために、不死者としての存在を知られてはいけない。
フローズン・ドラゴンを倒した先、シャアリィは自分の人生をどうするつもりなのだろうか。
勿論、こうなってしまった以上、アイシャは自分の生涯を賭して、シャアリィに尽くすつもりはある。
だが、シャアリィ自身はそれを望むのだろうか。
普通の冒険者として慎ましく生きて、一つの街に長く滞在することのない流浪の人生。
二人に待ち受けるのはそういう未来しかないのではなかろうか。
一人悶々と考えても埒が開かない。
故に、ついにアイシャはシャアリィと相談することを決めた。
「なぁんだ、そんなことか」
拍子抜けするシャアリィの第一声を聞き、アイシャの心は掻き乱された。
「そんなことかって・・・シャアリィ、あなたは自分の人生が全うなものでなくなったことを」
アイシャは声を荒らげて、それでいてシャアリィを気遣う。
「冒険者になった時点で、普通の人生なんてあるわけないのに」
「アイシャ、私は、あの時、もう死んでるんだよ」
「今、私が生きているっていうか、動いているのは、多分、未練を無くすための時間だ」
「アレを倒さなければ、アイシャも私も自由になれない」
「私がその後の人生をどうするのかすら、今は自由じゃないんだ」
「私達はお互いに借りがあるままだから、それをちゃんと精算しよう」
「フローズン・ドラゴンを倒して、自由になってから、思う存分、泣いて、笑って」
「それまでは、ヤツを倒すしか私に選択肢はない!」
アイシャはどうなのさ、と、水を向けられた。
「正直に言う・・・」
「仲間の仇討ちも、シャアリィへの負い目も、本当の所は言い訳・・・なんだと思う」
「何よりも恥ずかしく、不快なのは、この身に刻まれた恐怖だ」
「アイツがたまらなく恐ろしくて、夢にも時折現れる」
「私はそれがたまらなく嫌だ」
「嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、アイツか自分を殺したくなる」
「だから、アレを倒さなければ前に進めないというのは、シャアリィと同じ」
そうだ。
どんなに危険であろうとも、相手が強大であろうとも、決めたのだ。
二人でアレを倒すことを!
アイシャは思う。
(私達はとても歪で、傲慢で、でも、それが誇りなのだ、と)




