解き放たれた猛獣
白毛獅子セロニアス。
三百人にも満たない独自の集落を形成し、厳しい掟で血脈を維持してきた純血獣人種。
その中でも良血の連なる宗家に生まれたアイシャ・セロニアス。
本来であればセロニアスの女児は、生涯を集落に縛られる。
繰り返される近親交配は、何らかの障害を抱えて生まれてくる確率を増加させた。
不出来とされた者は集落に居場所はなく、外の世界に送られる。
アイシャの妹リーシャは先天性の骨欠損。
そしてアイシャは、稽古中の事故によって子宮を失ってしまっている。
少なくともアイシャ姉妹は、自分たちを不幸だとは思っていない。
狭い世界から出られたことは、幸運とさえ感じている。
・・・
スケルトンに遅れること数分、様々なゾンビィが不揃いの列となり押し寄せる。
その群れはアイシャにとって訓練用の木偶よりも出来の悪い的でしかない。
鉈で小枝を払うかの如く、肉片、骨片となり弾け飛ぶゾンビィの列はなかなか途切れない。
まるで歌劇の役者に花束を捧げるかのように、押し寄せる群れ。
シャアリィは、遠巻きにそれを眺めながら少し笑ってしまう。
「アイシャったら愛されてるねぇ」
迷宮の何処から、これだけのゾンビィやスケルトンが生み出されているのか。
まるで雨後の植物のようにゾンビィの種でもあって、誰かが植えているのだろうか。
そんなことを考えながら、アイシャの表情に視点を移せば、実に楽しそうである。
「普段はシャアリィばかり、スカっとしてるから羨ましかったんだ」
「たまには私が楽しんでもいいだろ?」
索敵不能に陥ってパニックを起こしてた時とは、打って変わって生き生きとしている。
シャアリィは半ば呆れながらも、笑うしかない。
「ぶっ叩いてるモノが腐った肉じゃなきゃね」
「一区切り着いたら帰ろうよ」
「このままだと迷宮一つ分のゾンビちゃんが並ぶかもよ?」
「魔石回収もしなくちゃだし」
シャアリィは魔力の戻りを確認しつつ、通路をアイス・ウォールで封鎖する。
「ホラ、魔石の回収」
「お片付けの時間ですよ、アイシャちゃん」
遊び足りない猛獣は、しょうがないなぁと呟いて、手早く魔石を拾い集める。
アイシャが集める魔石は、排除した死者と比べ、随分と少ない。
魔石毎叩き割った感触が手に残っている。
「シャアリィ、ごめん」
「楽しくなっちゃって、夢中で叩いてたら」
「魔石も一緒に結構、砕いちゃったみたい・・・」
シャアリィは気にすることでもないよ、と、軽く流して。
「でも、こんな活性じゃ地下二層さえ行けないね」
「踏破済の迷宮だから、深く潜る意味は薄いかもだけど」
「深い階層なら、少しはマシな魔石とか取れそうなのに」




