ヒトだったモノ
シャアリィとアイシャが最初にこのグリーン・ノウズで選んだ迷宮。
中規模迷宮の一つ『薬指の迷宮』。
七つの中規模迷宮のうち最初に発見された迷宮が五つだったことから、
その大きさを左手の指になぞらえて、親指、人差指、中指、薬指、小指と教会は名付けた。
後に見つかった左右対称の迷宮は、右耳、左耳という。
そして最も巨大な迷宮こそが心臓の迷宮。
シャアリィがアイシャから聞かされた時、教会も冒険者と同じくらいイカれてるな、と、思った。
アイシャはアーシアンで冒険者をしていた頃から、教会がイカれてることは承知の上だった。
なにしろ『聖職者』の肩書を持った冒険者には、良い記憶がない。
一流の治癒術式をその身に持ちながら、全てのヒールに値段をつけるヤツ。
気にいらなければ途中で詠唱をやめるヤツ。
トラップを踏んでパーティに迷惑を掛けた冒険者のヒールを拒絶するヤツ。
その全てが、教会認定の聖職者である銀枠の純金十字を首からぶらさげているヤツらだったからだ。
グリーン・ノウズの迷宮は全て、魔導実験のための施設だったらしい。
古代文明や自然洞窟とは無縁の人工的な構造物。
その成れの果てが、アンデッドが徘徊する牢獄のような迷宮。
「シャアリィ、床の滲みには気を付けて?」
「落とし天井や、壁槍、そういう罠の形跡かも知れない」
地下一層からえげつない警告を受けて、シャアリィは唖然とする。
「もしかして、この迷宮ってアーシアンよりも難度高い?」
返答を聞くまでもなく、肌で感じる悪意。
「アーシアンは、中層までは比較的凡庸、下層に入ると突然、様子が変わる迷宮だったね」
「多分、ここは最初から最後まで、悪意に満ちた迷宮だよ」
「冒険者を奥に誘い込むタイプではなく、隙あらば何時でも殺すタイプ」
「っと、来たよ」
動きは遅い、身体の至る所が欠損しているのだから、当然。
スケルトンなのか、それともゾンビィなのか、判別も付かない程に身体が腐り落ちている。
アイシャは三節棍を凹で構え、二つの先端の石突で容易くソレを粉砕する。
「アンデッドは腐ってる場合が殆どだから、斬撃の痛みなんて通じない」
「だから、こうやってぶっ壊すに限るんだ」
「絶対に元は人間だった、とか、可哀想だ、とか、思うな」
理屈はわかるが、シャアリィは「わかった」と、すぐには言えない。
やはり生前の姿を想像するし、この『結果』だけを直視するのは、なかなかに難しい
「それと、出来る限りダガーは使わないほうがいい」
「間近で体液を浴びたりすれば、危険な毒や病原菌に感染することもある」
「出来る限り、露払いは私がする」
「一度に多数の敵が出現した時にスイッチして、殲滅してくれると助かる」
アイシャの指示に即座に同意して、少しばかりテンションが戻る。




