異形の巨人
アイシャはまず、玄室の扉を確認した。
出入り口は開いたままだ。
「よし、シャアリィ閉じ込められる心配はなさそうだ」
「とりあえず完全に顕現する前に脱出出来る準備はしておこう」
二人の今回の目的はあくまで偵察だ。
台座に現界しつつある魔物を確認しながら、出入り口へと走る。
この玄室に満ちているのは、間違いなく土石属性、地属性の精霊だ。
台座の大きさから予想すれば、ストーン・ゴーレム或いはアース・ジャイアント。
最悪の場合・・・地龍か、ドラゴニック(龍人)
「実体化する・・・」
「・・・なんだ、アレ・・・」
二人の目に映るのは、五メートル程の人の石像のような魔物。
但し、その腕は三対・・・つまり六本。
下に位置する二本の腕は何も持っていないが、その他の腕には何らかの武具を持っている。
真ん中の一対に片手剣と盾、上の腕には弓と一本の矢。
浅黒い肌は筋骨が盛り上がり、下半身は牛馬のような逆関節、そして蹄。
一見すると多腕のミノタウロスだが、頭部は牛ではなく逆だった黒髪の人間の男だ。
異形の巨人は完全に顕現し、観察を続ける二人にヒトの言葉で・・・
「少女が来るような所ではない」
「早々に立ち去るが良い」
「だが、武を示すために来たのなら、相手をするも吝かではない」
二人は今、戦える相手ではないと瞬時に理解する。
「この場は立ち去らせてもらいます」
その威圧感は、フローズン・ドラゴンよりは幾分かはマシだが。
悪戯に腕試しをする相手ではないことは明白。
身体は異形でも『魔物』と呼ぶには、相応しくない知性。
何よりも驚嘆したのは、その分別と思慮だ。
視界に入るモノ全てを蹂躙するこれまでの魔物とは明らかにそれは異なる。
武人然りとした対話が成立する相手は果たして魔物だろうか。
否、今はそんなことを愚図愚図と考えている場合ではない。
目的を果たした上で、無傷で帰還できる好機を失うより先に動け。
アイシャは、扉に刺した楔を蹴り飛ばし、所作で無粋を侘びた。
一礼した後、足早にギルドへと情報を持ち帰るのだった。




