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解錠

『一日休めば取り戻すのにその数十倍の時間が掛かる』


等という話を良く聞くが、多分、それはただの思い込みだと思う。

そのやって戒めるほうがストイックで結果も伴うだろう。


『ひとによる』


の、かも知れないが、シャアリィとアイシャならば、それを否定する。

三ヶ月以上もの間、二人は戦闘らしいことも、迷宮探索もしていない。

だが、床に染み付いた歴戦の跡は、彼女たちが戦い抜いた地獄の日々を鮮明に回顧させる。


「念のため」


アイシャが少し大きめの石を掴んでシャアリィの抉った三叉路目掛けて、それを放る。

それは会敵の始まりであり、血塗れの演目の開始のベルだ。

しかし、もう、演目の敵役たる灰色の翼の連中はやってこない。


石を放る前から、アイシャの索敵は何も捉えていないのだから、それも当然だろう。

しかし、別の何か、例えばアイシャのように気配遮断が出来るようなプレイヤー。

そういう輩が潜んでいないとも限らない。

だからこそ、シャアリィもアイシャの慎重さを揶揄したりしない。


「行こう」


アイシャが、シャアリィの手を引き、二人で吊橋を渡る時も、アイシャの集中は途切れない。

心地よい緊張感が二人を包む。


三叉路の奥の破壊された壁をシャアリィが一撫でして、あの日感じた無力を憎悪に変換する。

吊橋側から見れば三叉路だが、その実は回廊。

三つ並んだ玄室のうち、扉があるのは一つだけ。


既に住人がそこにいない扉のない部屋が、ガーゴイル達の控えの間だったようだ。

魔力の尽きた召喚用の台座が五つ、小さな待機用の台座は二十五。

この光景だけを見たならば、何が置かれていたのかを想像することは難しいだろう。


シャアリィが扉のある玄室の中央に魔石を嵌める窪みを見つける。

あらかじめ用意してあったガーゴイルの魔石は、吸い込まれるようにぴたりと一致した。

魔石を破壊しない程度の弱い魔力を送り込むと、扉は左右の壁に吸い込まれて消える。


二人は壁の動きに合わせて左右に身を躱す。

そして壁からゆっくりと足音を立てずに距離を取る。

解錠された最奥の玄室からは、今の所、魔物の気配はない。


だが、まるで二人を歓迎するように、玄室の燭台に魔法の灯りが次々と灯る。

役に立つかわからないと知りながら、開いた扉を固定する楔をアイシャがブーツの踵で捩じ込む。


アイシャを前に、シャアリィを後ろに。

互いに半身をずらし、アイシャは右を、シャアリィは左を観察する。

石像の類があれば、当然のようにそれが眠りから冷めて動くだろう。


左右の壁、支柱の間には、石像の類は一つもない。

だが、玄室内に異常な魔力の収束が始まった。

その光景は、シャアリィがキャノンを撃つ際の魔法風に酷似している。

二人が正面を見れば、そこにあるのはガーゴイルの召喚台座とは比べようのない巨大な台座。


恐らく、後、数分で、この迷宮の最後の敵が現界する。

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