エゴイスト
「ねぇ、シャアリィ・・・」
「神様っていると思う?」
空になったコーヒーカップが二つ。
例えようもないほどに空虚な会話。
その問いにどんな意味があるのか、シャアリィにはわからない。
「いる・・・と、思うよ」
「でも、多分、私達と同じくらい傲慢でクソみたいなヤツ」
シャアリィはアイシャの問いに満面の笑みで答えた。
「アイシャはいないと思うの?」
シャアリィに釣られて少しだけ笑うアイシャは、頷く。
「もしも私達くらい意地悪で歪んでても」
「なんかホラ、ここまではいい、こっからはダメってのがあるでしょう」
「この世界は、そういうのも全くお構いなしだもの」
アイシャは理不尽なことがやはり嫌いなんだろうな、と、シャアリィは思う。
あの激戦の日々が嘘のように、毎日、幸せを貪り続けて、心が錆びついたのかも知れない。
アレックス達がいて、エドワードがいて、周囲からも一目置かれて。
欲しいものは、何だってある。
ただ一つの目的を除いて。
「もう、フローズン・ドラゴンは諦める?」
「私達はあの頃とは比べ物にならないくらいに、いろんな事が出来る」
「このまま平穏に楽な迷宮をバカンスみたいに回ってさ」
「楽しく一生を暮らすことだって出来るかも知れないよ?」
甘い誘惑の言葉は、アイシャだけに向けたものではない。
アイシャが『そうしよう』と、言えば、シャアリィはそれでいい、と、半分本気で思ってる。
「シャアリィは、それでもいいの?」
思わず、アイシャに委ねて、もう楽になりたいと、シャアリィの瞳が潤む。
しかし、震える唇から溢れた言葉は、本心とは全く違う、或いは本当の願い。
「いい・・・わけ、ない、じゃない」
そうだ・・・此処で逃げたら、本当の自由なんかじゃない。
シャアリィは、全ての責任を自分だけが負っても構わない、と、思った。
アイシャに泣かれてもいい、それでも目的を達するのだ。
「とても魅力的な提案で、思わず自分のことしか考えられなくなっちゃった」
「こんなに必要としていて、必要としてくれているのに、私はバカだ」
アイシャが苦笑いしながら、目を閉じて小さな溜息を吐く。
シャアリィの、そこにないはずの心臓が痛む。
今更ながら、アイシャの生真面目な優しさが気に入っている自分に気付いたのだ。
「今、私達に必要なものは、きっと・・・」
「生ぬるい幸せなんかじゃなくて、命の火花を散らしながら戦うことだ」
「アイシャ、私、約束を破って我儘を言うよ」
「そこで私達の冒険が、二人の命が終わるかも知れない」
アイシャの望みはこれだと、シャアリィは確信している。
「レリットランスを踏破しよう!」
「私達にカナリアは必要ないッ」
パートナーからの狂気の提案に、白毛獅子が目を見開く。
「・・・私はあなたと生きて、あなたと死ぬ」
「あなたに酷い決断をさせちゃったね」
「でも、許せないことは譲れない」
「私は卑怯者のエゴイストだけど・・・あなたを愛してる」
「それだけは嘘じゃない」
「レリットランスの踏破、私達がこの地に名を刻みましょう」




