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炭鉱のカナリア

「巫山戯るな」


と、激しい怒りを露わにしながら、一つのクエスト伝票をアイシャが剥がしカウンターに突きつける。


「この伝票を書いたのは誰だ?」

「ギルド直轄のクエストに指定されているんだ、ギルドマスターか?」


:依頼内容:最終ボス出現玄室の扉解錠と偵察及び報告

:報酬:扉の解錠及び、室内の確認:金貨1枚

:追加報酬:有益な情報に対し金貨100枚まで、その重要性に応じて支払い

:資格:レベル不問、クラス不問

:現地への護衛が必要な場合には、ギルド直下のクラス3冒険者の護衛有り

:現地扉のキーアイテムは、ギルドが支給


つまり、人柱をギルドが直接募集するという内容のクエストだ。

自分の命を掛けてまで、現時点の情報だけでは『やらない』と、判断した以上、文句を言うのは筋違いだ。

しかし、悪辣なのは、レベル不問、クラス不問、さらに護衛まで用意するお膳立てだ。


まだ自分で最終エリアの危険度の判断が出来ないようなルーキーでも利用しようとする姿勢。

まるで『炭鉱のカナリア』と同じ扱いだ。


何時もとは逆に、シャアリィは冷静だ。

激昂するアイシャに対し落ち着くように窘め、カウンターとアイシャの間に割って入る。


「アイシャ、私達がそのクエスト依頼に対して言える言葉は何もないはずだよ」

「私達はここまで傍観者に徹してきたんだ」

「それは誰のためでもなく、自分たちのために」


少し眉毛を下げて目を伏せながら穏やか口調で続く言葉。


「私達は誰かが命を掛けて持ってきた情報を元に、対策をして成功を収める」

「最低な言い方をすれば『死人待ち』をしてるんだ」

「その自覚がないなら、もう、他の街に行こう」


アイシャは、シャアリィの言葉に膝を追ってへたり込む。

つまり、ギルドは私達の態度を代弁したに過ぎない・・・。


「そんなつもりは・・・」


アイシャは気付く。

その先、どんな美辞麗句を並べようと、『死人待ち』をしている事実は変わらない。

このギルドで最も有力とも言われる自分たちが、そうなのだ。

それは正攻法で、それは最も確率が高く、自分たちの目的を遂げるための最適解。


言葉を失ったアイシャに代わって、シャアリィが伝票をあった場所に戻す。

そして、カウンターの受付嬢に目配せして、アイシャを外に連れ出した。


足元も覚束ないアイシャの自分より少し背の高い身体を抱きとめて、シャアリィはアイシャの頭を撫でる。


「いいんだよアイシャ」

「仕方ないじゃない」

「私達はあのフローズン・ドラゴンを倒すんだ」

「それは正気じゃ辿り着けない」


シャアリィが、アイシャの前髪をそっとかき分けて額に軽く接吻(キス)


「私も同じ罪を、同じ罰を、一緒に受ける」

「だから、折れちゃだめ」

「後悔しちゃだめ、自分を疑っちゃだめ」


シャアリィは優しく微笑んだ。


「まずは、気分転換をしよう」

「お酒でも、お茶でも、甘いお菓子でも、なんでも」

「ほら、あそこまで歩けばいいだけ」

「一時の誤魔化しでも、少しだけ幸せを補充しにいこう」


冒険者ギルドから、たった数十歩の「黒猫のテラス」が遠い。


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