領主の介入
ボス部屋と思われる仰々しい扉。
もし、この扉を開いたら何が出てくるのか・・・。
シャアリィが言うように『初見殺し』の罠はないのか?
扉の鍵となるガーゴイルの魔石は、冒険者ギルドで手軽に入手可能だ。
ベテランの冒険者ならば500銀貨という魔石の価格は高いものではない。
それでも尚、ほぼ一ヶ月もの間、最終エリアにアタックするパーティは現れていない。
『レリットランスの迷宮が最終ステージに入ったが、挑むパーティは皆無』
と、いう噂は、ゆっくり周辺の迷宮にも広まった。
だが、北部ナセルバ迷宮に遠征したパーティは戻る気配を見せない。
それほどまでにナセルバの迷宮には魅力があるのだろう。
最も近いアーシアンの迷宮から遠征してくるパーティは幾つかあった。
だが、例の異常な数のガーゴイルが守護していたエリアだと聞かされれば、二の足を踏む。
普通の迷宮であれば、二十体も出れば最終エリアの守護としては上出来。
その数が五百以上だったと聞かされれば、一番槍だけは避けたい所だ。
冒険者は皆、一攫千金を夢見て迷宮に潜る。
その代償は決して小さくはない。
故郷や親類との別離、友人知人、恋人との人間関係の破綻、継承出来る財産の放棄など。
いわば捨て身で挑むまさに『冒険』の人生だ。
端から持ち合わせないか、或いはどん底からの逆転。
それを差し引いても危険と隣合わせで、碌でもない者たちの吹き溜まり。
間違っても人生を賭して一生続けるような仕事ではない。
運が良ければ早めに見切りを付け、手に入れた泡銭を元手に人生を再建するのがいい。
命と金を天秤に掛ける場所に、これから挑む迷宮がふさわしいかどうか。
そういう意味では北部ナセルバのほうが、現在のレリットランスよりも上等なのだろう。
迷宮都市から人口が流出して困るのは誰か。
それは、その都市に暮らす者と、その者から税を取って管理する者。
特に領主にとって大規模な人口流出は、目を瞑って見過ごせる事態ではない。
それも踏破目前という絶好の条件が揃っていながら、人口が減るという異常事態。
領主が行った最初の一手は、攻略報奨金と土地の割譲を提示したことだった。
『レリットランス迷宮を攻略した勇者パーティに追加報酬』
『金貨2000枚と小作人五人相当の開墾済小麦畑』
『攻略成功審査は、レリットランス冒険者ギルドに一任する』
『アーシアン連合国南部レリットランス領主オズワルド・ハーベイ・レリットランス』
破格の報酬が提示されたにも関わらず、さらに一ヶ月が経過し、今年も残す所、一ヶ月。
追加の領主令が発行された。
『年内に迷宮攻略が完了しない場合、領主権限により直属部隊を投入する』
『直属部隊による迷宮攻略時には、予め提示された報酬は全て撤回するものとする』
シャアリィとアイシャの二人は、それでも尚、穴熊を決め込んだまま。
手元にある豊富な金銭で、毎日を楽しく過ごしている。
「なんか、領主さんおこだけど、大丈夫かなぁ」
「直属部隊でやっちゃう、とか、言ってるね」
と、シャアリィがアイシャの手持札からカードを一枚引く。
そして渋い顔。
「見えない危険に踏み込むくらいなら、他の迷宮にお引越しでもいいさ」
と、今度はアイシャがシャアリィの手持ち札からカードを引く、が、シャアリィがそれを拒む。
「ちょっとシャアリィ、カード離しなさい」
勝ちを確信したアイシャが、ニヤニヤしながらシャアリィの反則を咎める。
「はい、私の勝ち」
「寒い外への買い出しは、今日はシャアリィのお仕事です」
だらしない返事と悪態を付きながら、シャアリィが防寒用のコートを渋々羽織る。
暖かな部屋から外を見れば、雪が降り始めていた。
「もう、十二月だものねぇ」
「出来れば暖かくなるまでは、だらだらしていたいよう」




