それでもやるんだ
夜が更け、食事目当ての客の波がすっかり引き、店の一番奥のテーブルで三人だけが酔えずにいた。
今日、三人が排除したガーゴイルの数は、今までザックパーティで排除した数にも匹敵する。
戦果だけで言えば大勝利。
治癒術で回復出来る傷しか負わず、事実上では完全勝利と言えた。
しかし、三人のうち、少なくとも二人は今日の戦闘が勝利だとは言えない。
アイシャも、シャアリィも、ガーゴイルを舐めていたのだ。
自分たちはフローズン・ドラゴンという恐ろしい敵を知っているという自負が、増長を招いた。
もし、パートナーがアイシャでなかったら、シャアリィは即死。
もし、パートナーがシャアリィでなかったら、アイシャはザックと同じように集中被弾の上、惨死。
だが、そもそも、パートナーが互いに違っていたならば、危険な討伐に出ることもない。
それが二人の頭の中をぐるぐると巡って、酔いのほうは回らないのだ。
そろそろ閉店したいオルチェだったが、まぁ、眠りこけるまで付き合うかと思っていた。
今、此処にいる者は皆、ガーゴイルと戦った者ばかりだ。
見るからに鈍そうな石像如きが、宙を浮いて寄ってくる、一見カモに見える相手。
だが、統率の取れた集団行動、頑強な体躯、何より恐ろしいのは数の脅威。
そして自分の生命を守ろうという意思がない故の不退転の進軍。
その大群に抗うには、ヒトは脆弱過ぎる。
勇猛も、知性も、慈愛も、寛容も、ヒトの美徳はまるで役に立たない。
エドワードは、今、口から吐き出したくなってる言葉が幾つもある。
(もういい、もう十分だ、もうやめよう、もう傷ついてほしくない、ここまで感謝する)
でも、それを言ってもいいのは自分じゃあないと、エドワードは言葉を喉奥に磨り潰す。
エドワードにとって、アイシャとシャアリィは最後の希望だ。
出鱈目な強さと、圧倒的なセンスを併せ持つ、今まで見たこともない最強の冒険者だ。
だが、それと同時に、まだ年若い少女であり、誰かから何時求愛されても不思議ではない美しさだ。
そんな年頃の少女が何故、これほどまでに強くなったのか、何故、まだこれ以上強くなろうとしているのか。
気楽に生きればいいじゃねえか、何故、わざわざ・・・
言えた義理ではない。
自分も全財産を保証金にして、ザックの雪辱にこだわってきたのだから。
オルチェが、納屋から予備の毛布を引っ張り出してきた。
今日は適当なテーブルをくっつけて、此処で寝ろとでも言うのだろう。
冒険者なら屋根があるだけマシなことはよっくわかってる。
三人ともさんざん頭を抱えた挙句、結局、冒険者というやつは何処かイカれているのだろう。
「やるしかないよね」
ぼそっと口から素直な気持ちを吐き出したのは、シャアリィだった。
アイシャも、それに深く頷いて当然とばかりに、言葉を重ねる。
「もちろん、やるしかない」
エドワードは涙が溢れる所を見せないようにランプの灯りを見上げて、二人に同意する。
「ああ、そう言ってくれることに感謝する」
「俺も強ければ、格好つけてさ」
「ああ、それでもやるんだって・・・言いたいとこさ」




