休息と反省会
アイシャが少し長めに休息を要求したのは、シャアリィの完全回復が最優先と考えたからだ。
それは魔力の回復だけでなく、体力や精神力も含まれる。
「戦略、戦術、戦闘、全てにおいて及第点の初回攻撃だった、と、思う」
贔屓目なしで、それは三人全員が感じていた。
特にシャアリィは抜群のセンスでスキルを選択し、効果的に距離を維持した。
アイシャは気圧されて、多少、弩弓の装填がスムーズではなかった、と、自分で戒めた。
だが、エドワードから見れば、今までのザックパーティで経験した戦闘とは、まるで異次元の手際だ。
あのガーゴイルの群れに一発の火球も打たせず、正面から術式と弓だけでねじ伏せたのだ。
何時でもヒールを打てる準備をしながら、緊急回収に備えて背後から見守っていたからこそ、二人の強さがわかる。
「誰でも一番最初はビビるんだよ」
「あいつら元が石像だけに反応が薄いし、羽根の音が怖いんだよな」
ガーゴイルは羽根の筋力で物理的に飛んでいるわけではない。
羽根から魔力を発して揚力を得ている為に、不気味かつ、動きが予測できないという恐怖感が生まれる。
だが、ガーゴイル達は領域の守護者としての役割を持っているために、ある程度までしか追ってこない。
それは今回の作戦では最もこちらに都合の良い点であり、覆ることのない法則だ。
「ブラスト同士のコンボも結構強いね」
「でも、長時間維持するとサンド・ブラストの魔力消費結構ヤバめ」
「火球ならウォーター・シールドでも防げそうだけど、それも、検証しておかないと怖いね」
さて、と、前置きしてアイシャが銀色の小さな包みを補給資材の中から取り出した。
「あー、チョコだ!」
目敏くシャアリィが、それを指差し歓声を上げる。
チョコレートは、この街では結構な希少品なので、値段もそこそこ高い。
それも、黒猫のテラスの販売品となれば、小さなひと粒が紅茶一杯と同じくらいの値段だ。
「さすがに戦闘中は食べられないからね」
と、シャアリィにも、エドワードにも、銀色の包みを放り渡す。
「へぇ、これがチョコレートってやつか、ちっせえなぁ」
「うわ、あまッ、うまッ、なんじゃこれ、口の中がすげえことになるな」
「うほぉ、こりゃあ身体に力が漲る感じだぜ」
エドワードの言葉は間違いのない事実だ。
糖分は脳に快楽を与え、カカオは血流を良くする、黒猫のテラスで販売されているモノはさらにカフェインも含まれる。
カフェインはいわゆる天然の麻薬であり、ちょっとしたドーピング効果があるのだ。
初めてチョコレートを口にしたエドワードにしてみれば、驚きの菓子だろう。
「んー、生き返るぅ」
「ってか、あははははは」
何故、シャアリィが笑ったのか、アイシャにはわかっていたが、エドワードに話すことでもない。
「さて、一通り回復は出来たし、装備の再点検をしよう」
「ブーツの紐を踏んだのが死因なんてシャレにならんからな」
アイシャの言う通り、ここは迷宮、しかも、最深部に近い。
こうして補給や休息を満足に取れること自体、本来あり得ないことなのだ。
「じゃあ、エドワード、暇だからって居眠りはなしだよ」
シャアリィが少し巫山戯て微笑む。




