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会敵

ヒョロロロロという間抜けな音と、張り詰めたキュインという音が混ざる鏑矢。

古来の戦では正々堂々が重んじられ、この矢が開戦の合図だったという。

それから戦場も進化し、奇襲、挟撃、火計、補給路殲滅など騙し合いも常套化した。

今では囮としてのみ価値を発揮するモノだ。


吊橋の手前から、奥の三叉路に向けてアイシャがそれを放った。

しかし、思っていたような変化はなく、少し時間を開けてたった一匹のガーゴイルが現れた。

罠を警戒しているのだろう。

口から小さな火炎術式を吐き、鏑矢を焼き払う。


その数秒後、放たれた矢が罠でないことを確認するや否や、左右の通路から灰色の翼の軍団が現れた。

少し赤みがかった個体が、吊橋を挟んだこちらを視認する。

そして、三匹がひと塊となったガーゴイルが、ゆっくりと翼を上下させ進軍を開始した。


あと三メートル、あと二メートル、あと一メートル、シャアリィは目測を図りながらワンドを構える。

その左脇、アイシャも同じく右手に装填した弩弓と、左手に片刃剣を持ち番犬のように身構えた。


「止まれ」


という、シャアリィの小さな呟きと共に最前列のガーゴイルが水の障壁に包まれる。

ガーゴイルは予想の範疇であったかのように、翼に水を受けて地面に叩き付けられても士気を失わない。

そこにアイシャの弩弓の矢が最初の一匹の頭部にめり込んだ。


短い金切り声をあげ、絶命した個体に構うことなくガーゴイルが、アイシャに襲い掛かる。

矢の再装填までは時間が掛かることを知っているのだ。

だが、ガーゴイル達の思惑は簡単に打ち砕かれる。


「飛べ!」


シャアリィが発したのはストーン・バレットの短縮詠唱だ。

続け様、


「廻れ!」

バレット・サークルを発動させ四匹のガーゴイルにダメージを与える。

何匹かは飛行不能になったが、それでも残りのガーゴイルが翼を上下させながら、こちらに向かってくる。

揃って口を開けた瞬間、シャアリィは反射でアイス・ブラストを発動。

一発で七、八体に無数の風穴が空き、既に吊橋の向こうは地獄絵図だ。


アイシャの弩弓が再び炸裂し、一体を仕留める。

だが、既に最初の一体は、吊橋を越えようとしていた。


魔力を温存したかったが、さすがに状況が厳しくなり、シャアリィがアイス・ランスで迎撃する。

二体を串刺しにして距離の拮抗が保たれ、アイシャがさらに一体を弩弓で撃ち抜く。


「シャアリィ、アイス・ブラストの後に、サンド・ブラストだ」

「初回攻撃はそれで終了し、撤退ラインまで引くぞ」


アイシャの指示通りに、シャアリィが再度アイス・ブラストをぶち撒け、続けてサンド・ブラストを発動。

本来ならば、砂粒に過ぎないサンド・ブラストだが、アイス・ブラストによるフローズン・レイジが乗る。

まるで無数のダガーに引き裂かれるように、氷結した個体から石の破片が飛び散る。


その様を一瞬だけアイシャは確認し、シャアリィの手を引いて一目散に補給地点まで駆け抜ける。

途中で、隊列の順はシャアリィ、エドワード、アイシャに切り替わり、被弾に備えたまま、補給地点を目指した。

一分程全力で走った後、アイシャが後ろを振り返ると追ってきている個体はいなかった。


「結構な数を落としてくれたなぁ」

「こんな凄腕初めて見るぜ」


エドワードは呑気にアイシャとシャアリィを褒め称えたが、二人の口からは乾ききった吐息しか出てこない。

それに気付いたエドワードは、補給物資から急ぎ飲料を取り出して二人に渡す。

喉から入れた水分が、そのまま額から絞り出されるように汗が吹き出す。

アイシャとシャアリィは荒い息を吐きながらも、そのまま飲料を飲み干して人心地ついた。


「めっちゃ強いじゃんガーゴイル・・・」

「超怖かった」


今更になってシャアリィの脚が震えている。

それを笑い飛ばそうとしたアイシャだったが、自分の脚も制御を失って震えていることに気付き、黙る。

二人は、自分の脚をさすりながら、被弾ゼロで戻れた幸運を噛み締めた。


「本気でやらないとヤバい相手だ」

「威圧感だけで押し潰されそうだった」


予定では、もっと楽勝だったはずなのに、と、アイシャは自分たちがまだまだ弱いことを認めざるを得なかった。


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