最深部へ
いずれは挑むつもりでいたが、思ったよりも早く、その日が来てしまった。
と、アイシャは思った。
アイシャの心配は、ガーゴイルを殲滅した先にある。
迷宮最深部・・・そこにどんな魔物が待ち受けているのか。
迷宮の規模から推測すれば、アーシアン迷宮のような討伐不能に近い魔物がいるとは考え辛い。
だが、レリットランスは土石属性の迷宮。
それは氷結属性のシャアリィにとって苦手な属性であり、術式の相性でも三割程度の減衰を覚悟するべきだ。
しかし、その反面、アイシャには少しばかりアドバンテージがある。
これを告げることで緩みが起きないようにずっと隠してきたが、アイシャも幾つかの術式を使うことが出来る。
その術式は風雷属性。
土石属性に強く、氷結属性と相乗効果を持つ属性だ。
だが、アイシャは魔力保有量が少ない為、切り札としてしか使わず、シャアリィにさえ秘匿している。
セロニアスは元々は無手の格闘術こそが真髄だが、鍛錬に時間が掛かり過ぎる為に、様々な武術を取り込んだ。
片刃剣、三節棍、槍。
中でも片刃剣と風雷術式には深い親和性があり、そのエンチャントの威力は対千本足戦でも効果を発揮した。
「アレに比べれば、多少は斬りやすいだろう」
ぽつりと独り言を零す。
有力パーティが軒並み最深部から離脱したこともあり、中層域は逆に魔物の密度が薄くなっている。
北部の新迷宮に遠征しなかったパーティが、中層域での乱獲にシフトしたためだろう。
中層域から弾かれたプレイヤーも又、旧迷宮側の探索に加わり、全体的に見ればレリットランスは良い循環をしている。
最深部を目指す途中、幾つかのパーティとすれ違う。
嫌味を言う者、激励をする者、無関心な者、反応はそれぞれだが、決まって最後には、
「無事に帰ってこい」
と、互いを鼓舞した。
地下四階層に降りて暫く道なりに進むと、簡単に飛び越せるくらいの吊橋がある。
新地区の開発は、魔物との勢力争いの中で為されてきた歴史があり、この吊橋はある種の境界線らしい。
「ここからが最深部」
ガーゴイル殲滅パーティは、ここで一度、四階層の入口付近まで戻り補給物資を降ろした。
魔力回復薬、包帯、飲料、食料、止血帯、塗り薬の類。
ここがベースキャンプというわけだ。
波状戦略を取るため、大規模なキャンプは必要ないが、少なくとも応急処置や休息は必要になる。
先に潜っていたパーティのおかげで戦闘らしい戦闘もなく、ここまでこられたのは幸運だった。
「吊橋を渡って進む順番は」
「私、シャアリィ、エドワードの順で」
「私とシャアリィが戦闘に入っても、エドワードは身を隠せる場所から出ちゃだめだからね」
「あんたが死んだら、何のためのヒーラーかわかんないんだから」
「最低でも五メートルは後ろにいなさい」
「敵からの流れ弾くらいは、自分でなんとかしなさいよ」
アイシャが半分笑いながら、エドワードの緊張をほぐす。
シャアリィは相変わらず、ニヤニヤしながらアイシャの指示を待っている。
「じゃあ、索敵からだね」
シャアリィが期待しながら、アイシャの報告を待つ。
「さすがはガーゴイル」
「今、石化を解いている個体は十五くらいだけど、その倍は潜んでる」
「こっちが仕掛けたらいっせいに十五は来るから覚悟して」
「バラバラで飛んで来られると意味がないから、キャノンはなしで!」
やろうとしたことの先を読まれてシャアリィは、ちろりと舌を出す。
「初発、ウォーター・シールドで阻んで、そこからは臨機応変にしよう」
シャアリィの提案に、アイシャも頷いた。
「じゃあ、行くよ!」
言い終わると同時、アイシャの弩弓から囮の鏑矢が放たれる。




