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閑話:ザックパーティ

皆からザックと呼ばれ親しまれた剣術士アイザック・エルモア。

幼少時代から神童と呼ばれた剣技に加え、人懐こく、聡明な彼の最初の屈折は、騎士候補生登用試験の落選だった。

その年に限って候補者は例年の三倍、戦明けになり急激に人が増えたせいだ。

騎士という肩書は、本来、貴族階級のものであり、平民からのし上がるには狭き門だ。

膨れ上がった候補者の中には、当然、多数の貴族子息も含まれていた。

いずれ親の跡を継ぎ領主となる者にとって、騎士の称号は幾ら金を積んでも惜しくない名声。


学力試験を首席で突破し、地元の応援も大きかったが、ザックは実技二回戦で敗退した。

有効な攻撃を審判から幾度も無視された挙句の敗退だが、山程寄せられた抗議も聞き届けられなかった。

十三才で刻まれたトラウマ。

それはザックの性格を少なからず歪める最初の転機となった。


一つ年下のエドワードはザックの敗北を自分のこと以上に悔しがった。

エドワードにとってザックは憧れの兄貴分であり、何をするにもザックを目標にしていたのだ。


すっかりやる気を失ったザックは、家業の酒屋から売り物の酒を盗み、小遣い稼ぎをするようになった。

元々、親分肌だったザックは、悪童を束ねて不良少年のリーダーになっていた。

この頃に、アレックスやオルチェと出会う。


四人は不良グループを束ねるリーダーとして、周囲の少年達からも、その親達からも疎まれた。

ある日、ザック達は対立関係にあった不良グループとの抗争で相手グループの少年に大怪我を負わせてしまった。

リーダー格だった四人は、衛兵監督署にしょっぴかれ、厳しい罰を課された。

その罰とは、レリットランスから遠く離れた、寂れた農場での奉仕活動五年間。


日頃から周囲に迷惑を掛けていた彼らを守ってくれる大人は誰一人いない。

実際、奉仕とは名ばかりの人身売買に等しく彼らの親にしてみれば、ちょうど良い厄介払いだった。


朝から晩まで働かされて得られるものは、粗末で少な過ぎる食事と僅かな菓子。

彼らの仕事を監視するための体格の良い男は、手を休めれば容赦なく蹴り飛ばし、鞭を振るった。

当然ながらザックの親達が面会に来ることなど、一度もなかった。

そんな毎日の中、ザックは自分達の罪と罰についてエドワード、アレックス、オルチェと話し会った。


俺達はこんなに酷い罰を受ける程の悪人なのか。

そもそも金で物事を解決するほうが悪なのではないか。

どうして自分たちには金がないのか。

何故、何時も上手く行かないのか・・・何故、辛い目ばかりに合うのか。


そして、ザック達が見出した答えは、「弱いから」だった。

後にザックパーティとして名を轟かせるようになるとは、この頃は、まだ誰も予想もしてなかった。

農場での仕事を鍛錬として利用し、少年達は、徐々に、確実に、力を付けていった。

そのうちにアレックスが火炎術師に覚醒し、エドワードも治癒術を覚えた。

オルチェは筋力向上のスキルを得た。


一番年下だったオルチェが成人を迎える年、農場の主人が事故で死んだ。

勿論、ザック達が殺したわけではなく本当の事故だ。

だが、罰の終わりを告げるはずのレリットランスからの役人は、どんなに待っても来なかった。


呆気に取られた四人だったが、もう、子供ではなくなっていた。

過疎地の農場から、それほど遠くない場所にアンダーロックという小さな迷宮と、迷宮街があった。

辿り着いた四人は、冒険者ギルドの門を叩き、ザックをリーダーとしたパーティで冒険者の道を歩み始める。

かつて神童、そして不良少年、今や冒険者。


世界は広く、自慢の剣術が通用しないこともしばしばあったが、それでも生き残り立ち上がった。

ザックパーティの強さは引き際を弁え、何度でも挑む、その強かさにある。

メンバーのひとりひとりの技量自体は凡庸でも、常に鍛錬を続けていれば、その凡庸さはいずれ達人に匹敵する。


レリットランスの街に戻り数年が過ぎた頃には、ザックパーティと言えば迷宮の街の代表格になっていた。

彼らがひたすら目指したのは、剣一本、杖一つで巨万の富を得る、迷宮踏破。

そのためにあらゆることを考え、一つ一つ実践してきた。


あの悪夢の日が来なければ、何時ものように引き際を弁え、強かに何度でも挑んでいたならば・・・

レリットランスを制覇していたのはザックパーティだっただろう。


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