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復讐者の嘆願

魔石のオークションが開かれるのは半年先となり、ギルドのクエスト掲示板から『NAMED』の伝票がなくなった。

千本足を討伐したのが、シャアリィとアイシャだったことで、エドワードの機嫌が最近、とても悪い。

自分達のパーティでは倒せなかったネームドを意図せず倒されたことが余程、気に入らなかったらしい。


シャアリィ達の持ち分である魔石は、今回のオークションには出品されない。

よって公開オークションで販売される魔石は、二つになった。


シャアリィは、アイシャが魔石を使うことを望んでいる。

あの無茶苦茶の状況の中で、アイシャが自分を守ってくれなければ、千本足は倒せなかっただろう。

それにアイシャが一緒だったからこそ、全力砲撃という暴挙に出られたのだ。

だから、あの魔石をスキルに使うとしても、売って装備にするとしても、アイシャのものがいい、と。


アイシャも又、シャアリィが使うべきだと考えていた。

シャアリィには途轍もない才能と、努力出来る根性と、放っておけない危なさが同居する。

あの魔石でレアスキルを習得すれば、アイシャが魔石を使うより遥かにパーティの能力は上がるだろう。


でも、やはり二人とも言い出せなかった。

それを口にすることは、自分のほうが相手を想っていると言うのと同義な気がしてしまうのだ。

それでも、二人とも何時か相手に伝えようとは思っている。


・・・


今日は雨だ。

シャアリィにとっては魔力の底上げ著しい絶好の狩り日和だが、アイシャはそうではない。

耳やしっぽに絡む水滴は不快この上なく、雨音で自慢の索敵も鈍る。

迷宮の中ならば天気等関係ないが、最近のドタバタでどうにも出掛ける気が起きなかった。


「こういう日は、ギルドで小銭の種を探すか、黒猫のテラスでのんびりがいいね」


などと掲示板のクエスト依頼伝票を二人並んで眺める。

不意に、ドアが強く開かれて、めずらしく血まみれじゃないずぶ濡れのエドワードが入ってきた。

そして、そのままシャアリィ達の姿を見つけると急ぎ足で近寄ってくる。


「ちょ、アイシャ、なんかしたの?」


普段、何時もブチ切れて問題を起こす側のシャアリィにさえ覚えのない状況だ。

エドワードは二人の目前まで来ると、突然、腰を折って震える声で話し掛けてきた。


「この前はすまなかった!」

「是非、ネームドキラーの力を借りたい!」


声は相当に上擦っていたが、どうやら、二人への謝罪と協力の要請みたいだ。

まるで、少年が憧れの少女に告白するような真摯さで、エドワードはそのまま固まっている。

状況が飲み込めないアイシャと、意外に理解の早いシャアリィ。


「断る!」

「話だけでも聞かせなよ」


二人は顔を見合わせて、


「「えっ」」


と、いうちぐはぐな反応、まじかよ、という同じ表情でこちらも固まる。

そこでアイシャが折れて、まぁ、話だけでも聞こうか、と、混乱の渦から逃げるように「黒猫のテラス」に向かった。


「いらっしゃいませぇえええええええ?」


普段、おしとやかな黒猫のテラスのウェイトレスもさすがに肝を冷やしたのだろう。

常連の二人が、見るからに悪漢風な男を連れてきたのだから無理もない。

シャアリィに、小声で耳打ちする。


「衛兵、呼びますか?」


(ご迷惑をおかけしないようにするので、それは勘弁して下さい)

と、心の中で謝りながらも、エドワードのメンツがあるので、


「大丈夫。今日は彼も一緒にお茶をしますので」


と、席に案内してもらうことにした。


何時ものお気に入りのオープンテラス席でもシャアリィは構わないが、二人は嫌がるだろう。

布製の日除け兼雨避けの傘が刺さっているとは言え、さすがに雨音で会話もままならない。

アイシャがウェイトレスにお嬢様っぽく一言、


「一番、目立たない席にしてくださる?」


不穏なお茶会の開幕だった。


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