職人ギルドと商業ギルド
シャアリィ、アイシャの報告を受け、職人ギルドは手の空いている者総出で、例の残骸を回収中だ。
さすがというべきか、あらゆるモノが様々なモノの材料になる。
だが、勿体ないというか身肉は全く利用価値がなく、総重量の八割近くは焼却処分だ。
絞れば燃焼用の油くらいは手に入るだろうが、わざわざ労力を使って絞るほどの価値はない。
職人たちが奪い合うように纏めているのは、ワームの足と表皮。
木材よりも軽く丈夫な素材として、あらゆるものに使えそうだと人気だ。
「で、総額でどれくらいなのかな?」
職人ギルドから派遣された鑑定士が一枚の紙をアイシャに渡す。
「もう少しなんとかならないかな」
と、素材買取値段には不満が少々あったが、他に買取してくれる先もないのでアイシャも諦めたようだ。
シャアリィは、相場もわからないので最初から口を挟まない。
山間部の中腹、しかも真夏に緊急案件と言えば、さすがに巨額の人件費が掛かる。
あまり欲を出すとせっかく馴染んできたレリットランスでの人間関係も悪くなるだろう。
それに、いずれ、職人ギルドには又世話になるのだから。
「シャアリィ、思ったよりは儲からなかったけれど、結構な額を頂いたよ」
「まだ、魔石の売上に、討伐報酬があるんだから、もう、冒険者っていうより商人だよね」
魔石の権利の半分はレリットランス冒険者ギルドにある。
三つある魔石のうち、一つは冒険者ギルドが所有し、使途を決めることになる。
一つに関してはアイシャとシャアリィが自由に使える。
オークションに出してもいいし、スキル習得の為に使用してもいい。
さらにもう一つの半分に関しては換金した後に、ギルドとシャアリィ達の折半だ。
恐らく『千本足』の魔石は、公開オークションになることだろう。
「こりゃ、暫くの間大騒ぎになるし、商業ギルドを介入させないと、私達の命に関わるね」
「今回の討伐、正直、幾らくらい手に入るか、まだ見当が付かないんだよ」
「ネームドの魔石の公開オークションなんて、ここ百年の間じゃ初だろうし、入札者を集める時間も相当必要だね」
持ち帰った魔石は、冒険者ギルドが厳重な管理の元保管することになった。
それと引き換えに書状が二つ、手渡された。
フォンスがそれについて説明する。
「一つは、魔石の預り証書」
「もう一つは、商業ギルドでの取引口座開設保証書」
「それがあれば、冒険者ギルドの一員としてシャアリィか、アイシャの名義で取引口座を作れる」
「金貨100枚を手に持ってうろうろさせる訳にもいかんからね」
「それに魔石の証書も商業ギルドで預かってもらっときなさい」
「商業ギルドで、口座を開設してもらえば貸し金庫も利用出来る」
「今後は、オークションもあるし、何かと二人は金回りがいいから」
一回の討伐で相当な金額を稼いだことは間違いない。
現金で持ち歩けない程の額を稼いだのだから、実に夢のある話だ。
それと同時に、暫くの間は身の回りに相当な注意を払う必要があるのも事実。
・・・
商業ギルドの受付は何時も優雅な女性が応対してくれる。
その受付嬢が少々慌てる程の目印が、アイシャの手に持つ書状にはあった。
すぐさま、二人は応接室に通され上等な茶が振る舞われる。
「冒険者ギルドの保証付き取引口座開設書状で間違いないですね」
改めて確認されるまでもなく、その口座開設の為に来た二人は、ただ、頷いた。
言われるままにサインし、そして登録証が発行された。
名義は『アイシャ・セロニアス』。
そして登録証を持って今度は、又、冒険者ギルドに。
「お使いクエストみたいになってんの、わらう」
シャアリィがアイシャの耳にちょっかいを掛けて、じゃれあいながら歩く。
「金貨100枚(1000万円)ってどんくらいの価値なんだろうね?」
と、シャアリィがアイシャに尋ねると、アイシャはシャアリィがわかりやすいものに換算する。
「黒猫テラスに行くとふたりで大体銀貨6枚だから、毎日行くと月に銀貨180枚」
「金貨にすると2枚より少ないくらいだから、五十ヶ月分で、えーと四年とちょっと毎日、くろねこ出来るくらい」
ふーんと、相槌を打ちながら、シャアリィはつまらなそうに呟く。
「お金って、案外なくなるのも早いねー」




