トライアンドエラー
世界にこれだけ迷宮があるのに、そこを住処とする魔物については意外と知られていない。
そもそも魔物とは何か、という部分から学術的に統一したような書物自体が皆無だ。
せいぜい各迷宮に残されている口伝を元にした図鑑形式の書物があるくらい。
元々、魔物の研究なんてものは必要がない。
土着の生物か外来種なのかも関係がない。
危険だと判断したら駆除、有効利用可能だとすれば採取。
つまり生物としての魔物を体系化し、研究する意味がないのだ。
生活環境上での被害を避ける必要性があり、そのために区別が必要とされるだけ。
元々の生態系にいる生物と区別する根拠として、魔石という器官があり、それを生命の源にしている、ということ。
つまり、魔石があれば魔物で、なければ何らかの生態系に属する生物という認識だろう。
魔物の中には心臓の有無も一定ではなく、魔石を取り出しても活動可能な魔物も存在するが、魔石を失った場合著しく衰弱し、短時間で死亡する。
魔物の研究で唯一、熱心に研究が行われるのは『魔石』に関することだけなのだ。
シャアリィとアイシャは、冒険者ギルドの他にも職人ギルドや商業ギルドにも足を運んだ。
結局、レリットランスの迷宮街には、有用な魔物の図鑑はなく、千本足に関する情報が書かれた書物は見つからなかった。
「こりゃあ、ぶっつけ本番、トライアンドエラーしかないね」
住処も判明しているのだから、こちらが大怪我でもしない限り、やり直しは何度でも出来る。
「明朝からいろいろ試そう」
:一日目
オルチェが描いてくれた地図通りの場所で、傾斜した山肌に巣穴らしき入口を確認。
出入り口のような穴は、七つ、八つと言っていたが、穴の数は二十に増えていた。
千本足がさら成長している、或いは産卵等で増えている可能性を考えた。
どの巣穴を見ても頭部を出す様子はなく、午前中を観察に費やす。
午後からは、周辺で小動物を狩り、巣穴の半分に罠を仕掛け千本足が顔を出すのを待つ。
結局、空振り、罠の餌をそのまま残し、陽が落ちきるまでに帰路についた。
:二日目
昨日の罠を確認。
獲物が取られているものが三つ。これは頭が三つあるという情報と一致するが、偶然の可能性も否定出来ない。
丈夫な糸を通してあったが、長さも強度も不足していたらしく、反応があった巣穴に印を付けただけに終わった。
どれくらいの食欲があるのか不明だが、十五メートルもの巨体ならば、また餌に反応する可能性は期待出来る。
同じ巣穴を活用するのか、違う巣穴も使っているのかを確認するために、昨日と同じ十の巣穴に罠を仕掛けて帰路につく。
:三日目
やはり、同じ巣穴の餌だけが取られている。
確率的に考えれば、現在、千本足が活用しているのは餌が取られている巣穴と考えても問題はないだろう。
少々、乱暴な考え方だが、面倒なので他の巣穴にシャアリィがフローズン・キャノンをぶち込んだ。
十七の巣穴を潰すには、シャアリィの魔力が持たないので今日は、とりあえず二分の一出力で半日掛けて六つの巣穴を潰した。
:四日目
今日は、既にやることが決まっている。
残りの十一の未活用巣穴のうち、さらに六つの巣穴をシャアリィがフローズン・キャノンで崩落させた。
これで残りの予備巣穴は五つに減った。
明日、残りの予備巣穴全てを崩落させる予定。
:五日目
巣穴に変化あり。
というよりも、周囲に巨大な蛇が移動したような跡が残されていた。
巣穴以外に移動するとは考え難いが、仕方なく今日も小動物を狩って、罠を仕掛ける。
夜のうちに餌を運ぶことから、千本足は本来夜行性なのかとも思ったが、恐らく、単純に気温の問題だろう。
現在は夏なので、炎天下を動くより消耗を抑えて夜動いているのではないか、と、考える。
:六日目
結局、餌を取られていたのは、最初に餌に反応があった巣穴と同じだった。
どうやら、夜間の狩りに出掛けただけのようだ。
ふと、思い至ったが、本当に千本足は一体化しているのだろうか、全体を見たものが誰もいない以上、三体いても不思議ではない。
あの図案の通り、巨大なアース・ワームのような魔物なのかも知れない。
いよいよ明日決着をつけるべく残りの餌の反応がなかった穴を崩落させておいた。




