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ネームド

この世界に数知れずある迷宮の中には、特定の名で呼ばれている凶悪な魔物が存在する。

人々は、それらを「ネームド(名有り)」と呼び畏怖する。


「NAMED:千本足:討伐報酬金貨100枚」


クエスト依頼掲示板の隅に古ぼけた伝票が貼ってあったのをシャアリィが目敏く見つけた。

アイシャを呼んで、二人で並んで眺める。


「挿絵からして、アース・ワームの亜種か、変異個体か、長命種か、なんにしても手強そうだな」


アイシャが月並みな感想を言うと、シャアリィが率直な感想を返す。


「でも、アース・ワームでしょ?」

「私達の一番のお友達で、たくさん、遊んだアレでしょ?」

「ちょっとでかい程度のそんなものを倒すだけで金貨100枚なら美味しすぎるでしょ?」


アイシャには何度かネームドに挑んだ経験がある。


「『竜巻の翼』ってのをマーシー達と追ったことがあったが、アレは酷かった」

「名前に翼とかついてて、挿絵を見ればロック・バードに見えたんだが、現地で見つけたのは有毛のワイバーン」

「相手に見つかる前に速攻で逃げ帰ったよ」

「さすがのマッカーシーパーティが、あいつと遭遇して逃げ帰ったのは、今、この場が最初の告白だ」

「他にも『硝子のエリザ』っていう今でも徘徊してるリビングデッドからも逃げたな」

「硝子なんて名前だと壊しやすそうだろ?」

「とんでもない、ありゃ硝子じゃなくて『ダイヤモンドのエリザ』だった」

「こっちの武器がへし折れる、ひん曲がる、火炎は弾かれるし、聖水もただの水浴び、まぁ、打つ手なしだ」


アイシャの失敗談にシャアリィは顔をしかめつつも、これもやばいのかな、と察した。

だが、アイシャはどうやら興が乗ったらしく、シャアリィにやるか?という、ポーズで誘いを掛ける。


「いやいやいや、そんなの聞いたら、やりたくなくなるでしょ」

「アイシャ、土産話のために無駄足運ぶのはアリなわけ?」


実際、見るだけなら見てもいいかなと、アイシャは考えていた。

シャアリィの成果は予想を大幅に超えているし、以前見たネームドから逃げ帰ったのも、1年以上前の話だ。

万一、倒すようなことがあれば、話はさらに面白くなる。


「まぁ、もしかしたら、オルチェあたりが知ってると思うから、聞きにいこうよ」

「衛兵通りに新しく出来た居酒屋、オルチェの店らしい」

「長い冒険生活の果てに引退して、旦那と店をゲットなんて幸せ、許せる?」


アイシャは、一体、どうしたいのか。

兎に角、オルチェに話を聞いてみることにした。

昼間だというのに・・・。


シャアリィが勢い良く店の扉を開けて店内に声を掛ける。


「オルチェー!」

「来たよー、酒ー、肉ー、それと新婚のイチャイチャを頼もうかね」


先に顔を出したのはアレックスだった。

シャアリィが悪乗りして、アレックスに冗談を飛ばす。


「若旦那、もう、やってる?」

「ここの焼き鳥は、ファイヤー・ボールで焼くから美味いんだって評判だよ」


ドアを閉めようとするアレックスの後ろから、オルチェが顔を出す。


「おや、暇な小娘に出す酒はハバネロサワーしかないんだが、それでいいなら飲んでいきな?」


アイシャが軽くシャアリィの額を指で弾く。


「ごめんねオルチェ」

「お店、まだ準備中よね?」

「ギルドの掲示板にあった千本足について知ってたら聞きたくてね」


オルチェもアレックスも、手近なテーブルから椅子を降ろす。

結局、昼間から『ネームド』を肴に一杯やることになった四人だった。


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