探り合い
どうやらオルチェは二人にかなり強い興味があるらしい。
勿論、こんな二人に興味がない冒険者はいないだろう。
違う意味でならば、男連中なら思わず眼を止めてしまうような美形。
姉妹でもなければ、友人同士という風でもなく、シャアリィの話によれば師弟のようだ。
「まぁ、口の滑りが良くなる術式が必要だね」
と、決まり台詞のようにオルチェがウェイターに酒を頼む。
運ばれてきたのは景気付けに飲むような麦酒ではなく、少し値が張りそうなワインのボトルとグラスが三つ。
「アタシは、ウサギのローストに、ポテトとオニオンの揚げものをくれ」
少し古めかしい油の匂い、それに混じって香辛料、肉を焼いた時のちょっとした獣臭。
レストランというよりも、つまみにも力を入れているバーという感じだ。
バーテンダーと思しきカウンターの男の背には、豊富な酒瓶が所狭しと並んでいる。
「じゃあ、チキンにサワークリーム、パンとサラダ」
シャアリィは自分の好きなものを簡単に選んだ。
「蒸し魚のハーブ添えと、ソーセージの盛り合わせ」
注文を終えたアイシャに、シャアリィが尋ねる。
「やっぱ、アイシャ、魚好きなの?昨日の夜も魚だったよね?」
猫のような耳をたまにぴこぴこと動かすアイシャだが、猫族の獣人ではない。
猫扱いされて少しむくれながらも、アイシャは生真面目に答える。
「好きか、嫌いかなら、好きなほうだ」
「それに魚を頼めば、店の料理人の腕も知れる」
「初めての店では魚を注文して、又来るかどうかを決めてるんだ」
オルチェは二人の会話が面白いようだ。
「へぇ・・・そう言われりゃそうだ」
「魚は日持ちもしないし、料理するにも腕が問われるからなぁ」
「改めて気付いたよ」
注文が終わると、オルチェが素早くボトルを掴み、三つのグラスに適当に注ぐ。
本当に適当で、とても丁寧とは言い難いが、それがオルチェらしいのかも知れない。
「さて、乾杯だ」
乾杯?尋問の間違いだろう、と、言いたげなアイシャだったが口には出さない。
グラスをカチンと合わせて、皆が一口、ワインを流し込む。
アイシャもシャアリィも、口をつける前に鼻腔に香りを入れ、すぐに吐き出せるように一瞬口の中で留める。
それを目敏く見つけたオルチェが小さな溜息を吐く。
「あんたたち、年の割に『冒険者過ぎる』よ」
「でも、初見同然の相手と食事する時の心構えとしては、流石だねぇ」
「一体、どんな修羅場を見てきたのやら」
シャアリィが頭を掻きながら、オルチェに謝罪する。
「ごめん、癖というか、なんというか・・・何時も戦いのこと考えてるから」
「『これがもし毒だったなら』とか、すぐに連想しちゃうんだ」
「不愉快にさせたなら、ホント、ごめん」
シャアリィが気にするような心配はない。
むしろ、オルチェは探していたのだ。
こういう筋金入りの本物の冒険者を。
オルチェの表情が、二人への好意を物語っている。
それを察したアイシャが、テーブルの面々だけに聞こえる声の大きさで確認する。
「オルチェのパーティ、もしかして、上手く行ってないのか?」
「パーティが割れた時の補充メンバーとして、私達に見当を付けた・・・そうだろ」
声を潜めるのが下手なオルチェは、前かがみになって声を調整する。
「ああ、現状四人パーティだが、分断か、下手すれば完全に分解か、ってとこだよ」
「最深部が間近になったから、リーダーのザックが無理なペースのアタックを強要しはじめて揉めてる」
ここからは、本当に内密な話にしたいんだが、と、オルチェが前置きした。
その瞬間、アイシャは椅子をテーブルから少し遠ざけた。
そしてオルチェの顔前に人差し指を立てて、喋るなと制した。
「私達なら、ここで今までの話は忘れて楽しく食事が出来る」
「正直、厄介事に巻き込まれるのはごめんなんだ」
足踏みを嫌うアイシャにしてみれば当然の選択だったが、シャアリィは頬を膨らませた。
しかし、不満の表明はそれだけで終わる。
アイシャと約束しているからだ。
『ダダはこねない』『無駄な口出しはしない』
それっきり、きな臭い話をやめて、三人は食事を楽しんだ。




