休日
(しっかりとした睡眠は実に気持ちがいいものだ。
寝返りをうつ度に傷んだ背中、腰、肩が嘘のように快適だ)
アイシャは起き抜けにそんなことを考えた。
シャアリィはまだ熟睡している。
アイシャと違い、シャアリィは半年間、ほぼ、ずっと単独で迷宮探索をしていたのだ。
起きたい時に起き、眠りたい時に眠る。
そんな生活が染み付いていた中で、二人が始めた共同生活は、シャアリィにとって少々窮屈だったのだろう。
「シャアリィ、そろそろ起きて食事をしよう」
気持ち良さそうに眠っている所を起こすのは可哀想だが、二人には目標がある。
それも自分たちの人生に関わる目標なのだから、あまり大きな妥協は出来ない。
たかが、一日の寝坊くらい、と、気を許せば生活のリズムや金銭感覚はあっという間に麻痺する。
「アイシャ・・・そっか、もう起きる時間か・・・ああ、このベッド快適過ぎ」
真っ白なシーツなど一月ぶりなのだから、その気持ちは理解出来る。
幸いなことに宿では朝食も提供しているらしく、調理に伴う心地良い音、いい香りが漂ってきた。
寝起きの空腹な身体には抗い難い誘惑だ。
「お、朝食が食べられるらしい」
「何時も干し肉と乾燥パン、沢の水だったからな」
「体力をつける意味でも、これからは少々マシな物を食べることにしようか」
シャアリィに反対意見などあるはずもない。
レリットランス迷宮でも、十分な稼ぎが可能だとわかったのだから必要経費は使うべきだ。
食事を取りながら今日の予定を確認。
昨日話していた通り、今日一日は訓練を休んでレリットランスの街を散策することになった。
特に不足している物資はないが、あれば便利なものを購入したり、物価の調査もしておくべきだろう。
迷宮のおかげで生活が豊かな反面、農耕都市や港街よりも迷宮街は物価が高いものだ。
それも迷宮の状態によって異なる。
探索が始まったばかりの迷宮では、生活必需品や食料、冒険者の装備品が高騰する。
ある程度、探索が進んだ迷宮では、嗜好品や娯楽が流行し始める。
そして探索末期では、様々な商品が品薄となり、あらゆる物が高騰する。
そうなれば、その迷宮は早晩人が離れ、休眠迷宮となり街は消滅する。
レリットランスは、現状、探索中期を超えたくらいだ。
最も迷宮が盛り上がる時期である。
残された未踏領域が少なくなれば、自然と上位パーティのアタックが増え、それに伴って空いた中層域にベテランが入り込む。
だが、危険な時期でもある。
未踏領域が未踏な理由というのは、大概、強力な魔物が道を阻んでいるか、厄介なトラップがバラ撒かれているか。
どちらにしても、過酷な状況下での探索は命の危険が桁違いに増すのだ。
探索が始まった頃の慎重なムードは消え失せ、誰が歴史に名を刻むか、誰が一番の宝をせしめるかの競争だ。
教会の鐘が何度も何度も鳴る夕暮れは沈鬱な気持ちになる。
「シャアリィ、一応、私達も女だ」
「休日くらい髪を結ったりして、優雅にティータイムも楽しもうじゃないか」
普段の生真面目なアイシャからは想像も出来ないような提案が出たことで、シャアリィも喜んで賛同する。
「チーズやフルーツを使ったケーキも食べよう」
「それに、少しだけ上等なお茶も」
悪夢の冬から芽吹く二人の冒険は、まだ始まったばかりだ。




