誘い
「あんたたち、ペアでずっとやってくつもり?」
麦酒のジョッキを片手に長身の女戦士がアイシャに声を掛けてきた。
その目つきは値踏みするような、媚を売るような、ただ酔っ払っているだけにも見える。
「少なくとも暫くの間はね」
「美味しい討伐の話や、大規模レイドなんかなら、参加するのはやぶさかじゃないけれど」
「何処かのパーティに厄介になる予定は今の所はないよ」
隙のないアイシャの返答に、女戦士は首を横に振った。
「なんかワケありみたいな感じだから声掛けたんだけど、振られちまったね」
「気にしないでおくれよ」
「アタシの名は、オルチェ」
「この辺りじゃデカ女とか、悩みなしのオルチェなんて言われてるよ」
シャアリィはオルチェの通り名に違和感を覚えた。
この女は賢いし、仁義を弁えてる叩き上げの戦士だ、と、シャアリィの勘が囁く。
「私はシャアリィ、見ての通り生意気な小娘」
「だからアイシャからいろんなことを学んでる最中」
「もし、やりたいクエストがあって、アイシャが許可を出してくれれば、たまには組んでもいいよ」
「まぁ、私はクラス0のルーキーだから足手まといになるだけ、かもね」
オルチェはニヤっと笑って、シャアリィのジョッキに自分のジョッキをコツンとぶつける。
「見る眼がある娘は嫌いじゃないよ」
「シャアリィ、アイシャ、機会があれば一緒にやろう」
「勿論、ここで顔を合わせたら、挨拶くらいはするさ」
アイシャは豆鉄砲を食らったような顔でシャアリィのおでこに掌を当てる。
「熱はないね?」
「まだ酔っ払ってもいなそうだし」
アーシアン時代のアイシャは、自分から誰かに関わろうとすることは一切なかった。
どうせ自分の方が強いと相手を見下していたのだ。
フローズン・ドラゴンとの戦闘は、シャアリィの価値観を大きく変えたのだろう。
自分が如何に世間知らずで周囲が見えていなかったか、シャアリィはそれを知ったのだ。
「あの女・・・強いだけじゃない」
シャアリィの類稀な動体視力は、オルチェの視線を把握していた。
「私達に絡もうとした下品な男を牽制しながら、私達の装備や性格、関係性を観察してた」
「あいつは敵に回すと厄介な相手だ」
アイシャにしてみれば、それを看破するシャアリィこそ恐ろしい相手なのだが。
実際、オルチェの動向はベテランの貫禄が漂う。
何処か一箇所に顔を出して話し込むわけでもなく、あらゆるテーブルに、あらゆる態度で馴染んでいる。
そうやって二周り程した後、ギルドの出入り口から一番遠いテーブルに陣取っているパーティと合流した。
恐らくは、オルチェの属しているパーティだろう。
しかし、そこにいるメンバーは皆、ホールを眺めているだけで談笑さえしない。
夜が更け、一人、二人と宿に引っ込む冒険者達。
シャアリィとアイシャも、ギルドで勧められた宿に行くことにした。




