魔石蒐集
「三日月」
その魔物は、ネームドの凶名こそ与えられてはいないが、相当の強さであることは間違いない。
あの『彫像』にも匹敵するであろう膂力を持ち、大規模な群れを統率する厄介な相手だ。
それでもネームドに選定されないのは、工夫によってはベテランパーティが五つも集えば討伐が可能であろうという見立てによる。
ネームドに選定されるのは、尋常な方法では討伐不能と算定された魔物に限られる。
千本足然り、彫像然り、普通のクラス3パーティでは太刀打ち不能の化け物だ。
100年以上を生きたツインヘッド・ワームの進化亜種、人工的に魔物と合成されルームガーダーにされた武人という本物の化け物。
彼らは、守護する領域や生息地にさえ侵入しなければ犠牲になることもなく、挑む者も少なかった為、被害数こそ少ないままにネームドに指定されたのだ。
ネームドの中には硝子のエリザのような、長い歴史の中で千人以上の冒険者を葬ってきた化け物中の化け物も存在する。
同じネームドでも、その強さ、特性、被害数は様々、結局、その尺度というのは曖昧。
だが、総じてネームドは「倒したくても倒せない」という水準の化け物でなくてはならない。
その点において、ハイランド・オーガの長『三日月』は、未だに討伐されずに生き残っている個体という域を出ていないに過ぎない。
三日月がこれまで生き残ってきたのは、巨大な群れに守られているということが大きい。
その群れの頭数は五十を優に超え、それを目の当たりにしただけで逃げ出すしかなかった。
余程、強い意思を持って、手練が集まったパーティで計画的に駆らなくては、三日月討伐は果たせない。
大北方教会の枢機卿、ベネディクトの欲しがっているものは三日月の魔石だ。
どんなスキルや能力が封印されているかは不明だが、大西方教会との権威闘争にベネディクトが必要としている一つアイテム。
先日、市場初のネームドの魔石というものを手にしたベネディクトは、希少性、価値だけでなく、その有り様の美しさに魅せられてしまっている。
故に、北部教会は手の届きそうなネームドや、呼称付きへの討伐司令を広く頒布することとなった。
結果が伴えば勿論良い。
そうでなくとも、自分と敵対する同じ教会内の勢力に対し、強い圧力を教皇命として与え、それを削ることが叶う。
いわば、内部、外部に対する一挙両得の施策。
ベネディクトに眼をつけられた以上、早晩、「三日月」の運命は尽きることになる。
例え冒険者であったとしても、ロザリーの本分は聖職者であり、フランコと同じく由緒正しい家柄の出身である以上、枢機卿に反逆するようなことは出来ない。
勿論、ロザリーが「魔物殺し」を厭うはずもないが。
そこで企んだのが、既にネームドの討伐実績のあるアイシャを表向きに使うことだった。
戦力としても期待出来るが、それ以上に『三日月を討伐する』という『任務』について、それが部外者には、或いは他の教会関係者には知られるわけにはいかない。
もし、万一知られた場合にも、アイシャを矢表、つまりは討伐リーダーに据え、自分がヒーラーとして仕方なく協力していたと言い訳が出来、さらに魔石の回収が出来れば良い。
何処の馬の骨とも分からない輩に討伐され、その魔石が勝手に売り捌かれてベネディクトの意図しない誰かの手に渡すわけにはいかないのだ。
特に問題視したのがシャアリィ・スノウだ。
あの怪物じみた能力なら、五十や百のオーガを単独行で駆逐しかねない・・・からだ。
故に、ロザリー、ベネディクトにとっては千載一遇の好機である。
フランコは早晩、三日月がベネディクト派に討伐されることを見越し、ここまで来たが、自分の代理として討伐させるはずだったシャアリィとアイシャのうち、既にアイシャに搦手が回ってしまっていたことで、諦めざるを得なかったのだ。
だが、此処まで来た以上、一つの『貸し』としてベネディクトに捩じ込むことだけは叶った・・・と、いうのが今回、ザグレボホーンくんだりまで、遥か南から足を運んだ経緯だ。
フランコにしてみれば、西部大教会であろうと、北部大教会であろうと、十年も経てばどのみち枢機卿の椅子は眼の前にやってくる。
しかし、自分が枢機卿になった時、現状、最高権力を持つ教会である西部と北部が入れ替わってしまっていたら、その価値は大きく変わるだろう。
自分の楽しみを優先するロザリーに比すれば、フランコは実に目端の聞く聖職者ということだ。




