答えを得る
アイシャにはシャアリィのような勘の鋭さはない。
思い込みだけでなく、あらゆることを考える必要がある。
私たちはゴブリンの大小で目標を変えることはないが、ゴブリンとゴブリンシャーマンならどうだろう。
当然、危険度が数段高く、攻撃や補助術式など多様な行動を取るシャーマンのほうに優先度は傾く。
その理論で言うならば龍種にとっての脅威とは、やはり数だ。
一つのパーティならば蹴散らすのは造作なくとも、レイドチームが組まれれば脅威となる。
確実に全滅させなければ援軍を呼ばれる可能性が生まれる。
それならば、パーティの全滅に拘り、私を上層まで追ってきたことにも合点がいくのだ。
だが、それ以前の問題。
つまり、マッカーシーパーティを全滅させたかったのは龍種ではないという疑い。
仕組んだ者がいるという直感。
アーシアンでトップ争いをしていたパーティのうち、殆どは友好的な立場だったとは思うが、中には敵対関係のパーティも存在していた。
その中で二つのパーティが、容疑者として上がる。
術式戦に特化したリサのパーティと、アイシャと同様の獣人を含むブランドーのパーティだ。
どちらのパーティにも罠を張ることが出来るだけの人材が揃っている。
リサのパーティには、パーティメンバーすべての気配を消しながら移動を可能にするサイレントムーブの使い手アリューシア・ラツィオがいる。
サイレントムーブは、ファントム系以外の魔物や人間に対して特に有効なスキルだ。
但し、声を発したり、パーティメンバーの誰かひとりでも攻撃等の敵対行動をすればパーティ全体のスキルが解除される。
ブランドーのパーティには、赤毛の狼獣人ゼノビア・ローカスがいる。
戦闘スタイルはアイシャと同じく索敵から前衛、後衛までこなすマルチアタッカー。
アイシャはゼノビアを意識するようなことはないが、ゼノビアにとってアイシャは忌々しい白い奴と常々口走っていたことを記憶している。
マッカーシーパーティと良好な関係でなく、アーシアンのトップ十指に入るようなパーティ同士だっただけに、最も疑わしいと考えるのは妥当だ。
特にマッピングの範囲、精度ではマッカーシーが最も有力だと言われる中で、それを出し抜くには相当の危険を侵さなければマッカーシーパーティより先を見るのが困難だった、と、いう状況。
何故、たったこれだけのことを考えるために、こんなにも苦労したのだろうか。
恐らくアイシャは出来る限り、全てをフローズン・ドラゴンのせいにして、様々な小さなことを封印してしまっていたのだろう。
それが時間の経過と共に記憶が溶け出した・・・或いは、『彫像』との一戦を機に蘇った、のだろう。
しかし、この解答に行き着いたとしても確証もなく、証拠に至っては何一つ見つけることは出来ない。
もし、意趣返しの相手が自分たちと同じ冒険者だとしたならば、仕返しには何をすれば良いのか。
相手のパーティを全滅させるのが正しい報復なのか。
それをしたところで、マッカシー達は生き返るわけではない。
零してしまったワインは、二度とグラスに戻ることはないのだ。
あの粗末な墓の下には何も埋まっていない・・・全ては迷宮の藻屑と消えたのだから。
冒険者の末路としては不思議なことでもなく、何時かそうなる、そうなる前にキリの良いところで迷宮から足を遠ざけない限り・・・。
アイシャは答えを得る。
やはり、私はフローズン・ドラゴンを倒し、シャアリィと共に生きることこそが願いだと。
もしも討伐が叶うならば、パーティの生き残りである自分がアーシアンを踏破することこそが、マッカシー達への最高の餞になるだろうと。
かつて復讐に狂った男が、何もかもを投げ出してそうしたように。
自分もそうでなければならない、と、アイシャは思った。
報復する相手は、アリューシャでも、ゼノビアでもない。
そのパーティメンバーでも、パーティリーダーでもない。
あの日、弱かった自分こそがアイシャの報復する唯一の正解なのだ、と。
だが、今の状況にもけじめが必要だ。
自分自身が答えを見つけたからと、どの顔でシャアリィに謝れば良いというのだ。
少なくとも、氷結耐性という手土産がなければ、或いはそれに相当する理由がなければ。




