鏖殺(おうさつ)
違う表現をするなら眼に映る者全てを殺し尽くす・・・と、でも表現すべきか。
まるでチャームの術式が備わっているように、ロザリーと眼を合わせた魔物は、ロザリーに向かう。
否、備わっているのは、彼女が魔物にとって邪悪な殺し屋だと教えるための術式だろう。
各々が一体づつ仕留めている間に、残った一体はイザベラを素通りしてロザリーに向かう。
戦士ならば隙だらけの相手に躊躇する必要はないが、ロザリーには縛りがある。
専守防衛かカウンター・・・つまりは相手に先に攻撃させなければならない。
そのために仕込んだ魔眼とも言える薄い色素の眼から放たれる吸引力。
後方から新手が四体・・・だが、全てがロザリーに向かう。
舞でも踊るかのように、長い手足で自在に操るロザリーのメイスは金細工を施した鋼鉄の鉄球。
打撃武器として見れば、どう見ても一撃必殺であるソレで魔物を仕留めても『徳』を失わないなどという無茶苦茶な聖職者。
言葉通りの鏖殺だった。
それでも丁寧に一体づつを仕留め、両手のメイスを一度に振るうような下品な攻撃はしない。
あくまで神への奉仕である以上、厳密なルールがロザリーにはあるのだ。
相手が立ち上がっても反撃するまで攻撃しない、攻撃の意思を失った個体には追撃しない・・・等。
おかげで、アイシャも、イザベラも後始末の手伝いをする羽目になった。
勿論、後始末と言っても、泣き叫ぶ亜人の喉に介錯の刃を突き立てる程度のことだが。
ロザリーの凶悪なメイスに打たれて無事に済むはずがないのだ。
「魔物にはモテモテなのに、何故、人間だと男は寄ってこないのか不思議」
「寄ってこられても聖職者は恋愛出来ないから、どうでも良いことなんだけどね」
返り血に染まった顔で、よくも、ぬけぬけと言うものだとイザベラは呆れる。
それにはアイシャも同意するが、やはり、聖職者は魔物を引き寄せる特性があるのだろう。
だが、ある程度距離を置いていれば、魔物に群がられる心配はない。
フランコやエドワードがそうであったように。
それからも数十体を狩り尽くし、オーガの群れが途絶えたところで、店じまい。
今のところは、アイシャの記憶に関するようなヒントは何もない。
「龍種のような強い魔物であっても、やはり、聖職者を優先して攻撃するのだろうか?」
アイシャが素朴な疑問をロザリーに投げ掛けた時、ロザリーはくすっと笑った。
否、それは可愛らしい微笑みではなく、邪悪とも言える声を伴わない嗤いだった。
「さすがに龍ともなれば、区別なんてしないだろうね」
「私たちが小さなゴブリンと大きなゴブリン、どちらを先に殺すか悩まないように」
「近いものや、武器を当てやすい位置、次の獲物への道すがら、そういう程度だろうね」
アイシャだけでなく、イザベラもそれには納得していた。
アイシャは考える。
もし、あの時、パーティを狙ったのではなく、誰かを狙ったのならば、と。
だが、ロザリーの言葉をそのまま受け取ればそれは違う・・・、と、いうことになる。
しかし、違和感もある。
あの時、フローズン・ドラゴンは、パーティの盾になったマッカーシーに対して最も簡単な攻撃である、直接的、物理的な攻撃を選択しなかった。
まるで視点から見える敵を排除するかのように、魔術攻撃を使ったのだ。
その後はただパーティを全滅させるべく、ひとりづつ・・・。
アイシャはフローズンダガーの流れ弾を数十箇所に受けたが、素早く気配を消したこと、マッカシーの指示通りに振り返りもせず離脱したことで難を逃れた。
「・・・もしかしたら・・・私が狙われていたのか・・・」
益体のないことかも知れないが、それを過程、仮定、根底に考えるならば・・・。
何かが掴めそうでもう一手が足りない。




