ロザリー・イグシエンヌ
司教?
一瞬耳を疑う言葉だ。
どう見ても二十才そこそこにしか見えないロザリー。
顔立ちだけ見ればもっと年若くても違和感はない。
あのフランコでさえ三十代前半、それが叶うのは血筋というコネだけでなく相応の実力。
成る程。
つまりは、フランコにも負けぬ程の良血。
そして、恐らくはフランコ以上の実績。
それがあるからこそ、単なる修道女や上級修道士ではなく『司教』の位階を得たということだろう。
『鏖殺のロザリー』・・・勿論、自称ではなく周囲から与えられた二つ名だ。
通常、聖職者は自ら魔物を討伐することを酷く嫌う。
それは陽根源転換術師にとって生命線であるヴァーチューに瑕を受けるからだ。
だが、ロザリーの場合には、その心配はない。
専守防衛。
自らの身を守るために振るう武器によって、相手が『結果的に』絶命したとしても、ヴァーチューは損なわれない。
むしろ、身を守り、さらに神に仕える時間を伸ばしたのだから、それこそ『徳』となる。
但し、絶対的な条件として、カウンターによる攻撃であることと、刃を伴わない武器を使用することが前提である。
その点、大、小、揃いのメイスは傍目には間違いなく撲殺専用に見える武器であるものの、ロザリーの徳を不動の位置に押し上げている。
恐らくは、二つ名の通り、相当数の魔物を殺害したということなのだろう。
独特の立振舞は、あのフランコを彷彿させるが、縁はあるのだろうか。
ペアで狩りをするのであれば、相手に反撃が出来る聖職者ならば理想的だ。
「おい・・・ロザリー・・・この前みたいに相方と揉めて撲殺とか笑えないぜ?」
アイシャはその一言を聞いて、背筋が凍った。
この少女にとっては、自分の身を守り、ヴァーチューを損ないさえしなければ、相手を問わないのだろう。
勿論、どんな場合であっても、パーティメンバーに斬り掛かるようなアイシャではないが。
「大丈夫。この人は迷っているだけ、焦っているだけ、本来のチカラを出せるだけの手伝いをする」
一体、ロザリーにはアイシャの何が見えているというのだろうか。
アイシャは、装備を見れば、ほぼ最上級のものを揃え、戦士としての格も申し分ないと、自負している。
「こんなに強いソウルを持った戦士は久々に見るよ」
「でもね、強いだけでは、鋼は折れてしまうからね・・・靭やかさが必要だよ」
その一言が何を意味しているのか、周囲の人間には伝わらないだろうが、少なくとも、シャアリィとアイシャには感じる部分がある。
アイシャは間違いなく強い、そして真面目で、優しく、面倒見もいい。
そんなアイシャに靭やかさが足りないなどと言えるのは、ロザリーだけではないのだろうか。
シャアリィでさえ、アイシャの強さに関しては十二分に信頼を置いている。
もし、やり方がズレているのならば、一言、二言、それだけで必要としているアイシャに戻る。
だが、今回に限っては、一時的とはいえ、別行動するほどの溝がある。
その溝の正体が、「靭やかさ」であるはずはなく、アイシャの記憶とシャアリィの思いのすれ違いだ。
もしかしたら、そのすれ違いさえもがロザリーには靭やかさの不足、で、あると思っているのだろうか。
どちらにしても、ロザリーは佇まいからして並の冒険者ではない。
むしろ、アイシャやシャアリィよりも恐ろしい能力を備えていることは十分に考えられる。
ここはザグレブホーン、諦めの迷宮。
こんな場所に踏み止まっているのだから、拘りか、或いは使命や宿命のような強固な理由がなければ説明出来ない。
アイシャは、ロザリーの申し出を素直に受け入れることにした。
初対面の怪しい人物の提案を簡単に受け入れる等、普段のアイシャであれば絶対にしない。
だが、今はそんなことに拘ってはいられない。
舐めてかかったのは事実だが、無様なまでの遅れを取り一体を仕留めることもなく遁走。
今日のアイシャに選択肢というものは二の次だ。
足元の装備を新調するだけで事足りると腹を括れないくらいには参っていた。
何より、得体こそ知れないが、相当な使い手であることは、所作のひとつひとつから見て取れる。
ロザリー・・・彼女とならば、今日の雪辱を果たすのは難しいことではないだろう。




