ロザリー・イグシエンヌ
『鏖殺のロザリー』・・・勿論、自称ではなく周囲から与えられた二つ名だ。
通常、聖職者は自ら魔物を討伐することを酷く嫌う。
それは、かつてフランコが言った通り、徳であるヴァーチューに瑕を受けるからだ。
だが、ロザリーの場合には、その心配はない。
専守防衛。
自らの身を守るために振るう武器によって、相手が「結果的に」絶命したとしても、ヴァーチューは損なわれない。
むしろ、身を守り、さらに神に使え、奉仕する時間を伸ばしたのだから、それこそ「徳」となる。
但し、絶対的な条件として、カウンターによる攻撃であることと、刃を伴わない武器を使用することが前提である。
その点、大、小、の揃いのメイスは傍目には間違いなく撲殺専用とも見える武器であるものの、ロザリーの徳を不動の位置に押し上げている。
恐らくは、二つ名の通り、聖職者の中で最も魔物を殺害した聖職者なのだろう。
独特の立振舞は、あのフランコを彷彿させるが、縁はあるのだろうか。
ペアで狩りをするのであれば、相手に反撃が出来る聖職者であれば、問題はないだろう。
「おい・・・ロザリー・・・この前みたいに相方と揉めて撲殺とか笑えないぜ?」
アイシャはその一言を聞いて、背筋が凍った。
この少女にとっては、自分の身を守り、ヴァーチューを損ないさえしなければ、相手を問わないのだろう。
勿論、どんな場合であっても、相方に斬り掛かるようなアイシャではないだろう。
「大丈夫。この人は迷っているだけ、焦っているだけ、本来のチカラを出せるだけの手伝いをする」
一体、ロザリーにはアイシャの何が見えているというのだろうか。
アイシャは、装備を見れば、ほぼ最上級のものを揃え、戦士としての格も申し分ないと、自負している。
「こんなに強いソウルを持った戦士は久々に見るよ」
「でもね、強いだけでは、鋼は折れてしまうからね・・・靭やかさが必要だよ」
その一言が何を意味しているのか、周囲の人間には伝わらないだろうが、少なくとも、シャアリィとアイシャには感じる部分がある。
アイシャは間違いなく強い、そして真面目で、優しく、面倒見もいい。
そんなアイシャに靭やかさが足りないなどと言えるのは、ロザリーだけではないのだろうか。
シャアリィでさえ、アイシャの強さに関しては十二分に信頼を置いている。
もし、やり方がズレているのならば、一言、二言、それだけで必要としているアイシャに戻る。
だが、今回に限っては、一時的とはいえ、別行動するほどの溝がある。
その溝の正体が、「靭やかさ」であるはずはなく、アイシャの記憶とシャアリィの思いのすれ違いだ。
もしかしたら、そのすれ違いさえもがロザリーには靭やかさの不足、で、あると思っているのだろうか。
どちらにしても、ロザリーは佇まいからして並の冒険者ではない。
むしろ、アイシャやシャアリィよりも恐ろしい能力を備えていることは十分に考えられる。
ここはザグレブホーン、諦めの迷宮。
そんな場所に踏み止まっているのだから、拘りか、思いの強さがなければ説明出来ない。
今日は準備不足から遅れをとったアイシャだったが、ロザリーの申し出を素直に受け入れることにした。
何より、得体こそ不明だが、相当な使い手であることは、所作のひとつひとつから見て取れる。
これならば、今日の雪辱を果たすのは難しいことではないだろう。




