電光石火の斬撃
(あの攻撃を武器で受ければ、それだけで反撃の機会は失われる)
圧倒的なパワーの差を埋めるには、やはり速度しかない。
業腹だが、冷静に考えるならば準備不足である以上、撤退以外の選択肢はないのだ。
だが、むざむざ相手に背を向けて逃げることしか出来ないのは癪だ。
せめて一撃、せめて一頭、たとえ致命の一撃にならなくとも、それを浴びせなければ!
アイシャの心中は、当初の目的から妥協することによって、程良く削がれていく。
それは今の自分と敵との力量差を受け入れる冷静さをなくして、あり得ない。
完全な平坦地など何処にもなく、その起伏が全て相手に利している錯覚を踏み越えた時。
アイシャの鵺斬が再び鞘に戻る。
巨人にしてみれば、それは撤退や戦闘を終了する時の所作であり、即ち己の勝ちを意味した。
だが、アイシャの胸中は違う。
次の瞬間、ハイランド・オーガは、それを思い知る。
低い姿勢で弾かれたようにオーガの懐に飛び込むアイシャの剣はまだ鞘入のまま。
迎え撃つべく天を指すように振り上げたオーガのメイスが、アイシャの肩口目掛けて振り下ろされる。
その僅かな狙いの誤差こそが、アイシャに勝機を呼び込んだ。
「最速の剣、受けてみろ!」
相手を待ち受けて放つ居合とは異なり、自らが疾走しながら放つそれは腰の回転だけで生み出す斬撃ではない。
一言で言うならば、電光石火。
セロニアスの脚力が生み出す疾走の加速から、鵺斬に付与されたパッシブスキルの疾風、そして強靭なアイシャの下半身が生み出す腰を起点とした凄まじい回転の速度。
それは破壊力などという荒々しいものではなく、ただ、「切断」という一つの事象を生み出すための行為。
間一髪で完璧に躱したオーガのメイス。
そして、すれ違いにそのメイスを持つ左腕を一刀両断にした。
だが、アイシャは、そこで追い打ちを仕掛けるような下策は取らなかった。
今のは全てが首尾よく運んだ結果であり、実力を一度見せた以上、次は向こうも本気だ。
痛みか、怒りか、理解不能な咆哮を発するオーガの群れを背に、アイシャは戦場を離脱した。
止めを刺さずとも出血多量で息絶えるか、或いは仲間内の勢力争いに敗れて死ぬか、だ。
それは今のアイシャに出来る最大限。
今回に関しては、フィールドも、敵も、やり方も間違えた。
自分が満足に戦うには、やはりパーティメンバーが必要だ。
或いは、冷静さを踏み越えた先にある、あのシャアリィのような狂気。
契約型のクエストでなく、達成型で受けたために、このまま放置してもペナルティは発生しない。
しかし、このままギルドに戻れば、ベテラン連中から舐められるのは仕方ないだろう。
だが、汚い言葉を吐かれてから何だとも思う。
五体満足、再戦が叶う状態で帰還するほうが余程、難しい、のだから。
収穫などと言えば言い訳にしかならないが、あのフィールドで戦闘をするには、最低でも足元の装備は万全にしなくてはならない。
足裏にエッジのある登山用のブーツが必要だろう。
或いは単独行ではなく、パーティメンバーを募るという選択肢。
シャアリィ程の手練を期待するのは無謀でも、せめて注意を引ける程度に動ける者がいれば、随分、楽に戦えたはずだ。




