最も深い死の迷宮
「さて・・・まずは冒険者ギルドから、だね」
アイシャの言葉に、首肯はするものの、何かが納得出来ない。
アーシアンの街から、ずっと噛み合わないシャアリィとアイシャの歯車。
ふと、探索失敗という結末がシャアリィの頭に浮かぶ。
探索失敗という結末は、即ち、片方が命を落とすか、或いは二人共が・・・ということを意味する。
レリットランスで『彫像』と戦った時のような熱が今は失われている。
予想していたよりは衰退していなくて良かった、と、ザグレブホーンの街並を見て少しだけ安心する。
しかし、レリットランスやイルオールドのような活気はさすがに感じられない。
ザグレブホーン、別名『諦めの迷宮』。
最も深い階層を有する複雑な未踏迷宮は、もう、五十年以上、冒険者の希望を踏み躙ってきた。
『最後の玄室』だと思って踏み込む扉の向こうに、転移陣や下に伸びる階段が備わっていたら、皆、心折れる。
まるで『最後の玄室』に辿り着いた時、新たに下への階層が生まれているのでは、と、疑いたくなる。
本当に果て等あるのか、と。
一つ階層を降りれば、魔物はそれだけ強くなる。
既に発見されている地下十四階層の魔物は、比較的倒しやすい通路を徘徊しているタイプでも相当の強さだ。
その殆どが氷結属性である為、氷結耐性を得るには最も効率が良い・・・という理屈はわかる。
だが、倒せなければ意味は皆無。
逆に言えば、よくぞ十四階層まで降りたものだ、と。
ギルドの受付カウンターで、何時も通り、地域冒険者章を申請する。
「え?・・・アイシャ・セロニアスとシャアリィ・スノウ?」
どうやら、レリットランス迷宮踏破の記録が既に届いているらしい。
「お二人共、クラス3での登録となります」
「まさか・・・此処を踏破する為に来たのですか?」
そう問われ、アイシャが返答する。
「踏破は今の所、目標にしていません」
「勿論、チャンスがあれば挑むことになるかも知れませんが」
「当面は、浅い階層やフィールドで氷結属性に慣れたいと思っています」
その言葉を聞いて、カウンターの受付嬢がついた溜息は、安堵なのか落胆なのか二人にはわからなかった。
シャアリィは、別の意味も感じていた。
嘲笑、嫉妬・・・それはシャアリィに何時も突き付けられてきた負の感情。
時にはそれを熱量に変換して、時にはそれを無為にするように無視してきた。
そういう溜息を吐く者は皆、『早く折れてしまえ』と、心の中では吠えていることだろう。
「慣れたら空気読まずに突っ込んじゃうかも知れませんけどね」
シャアリィの口から漏れた言葉は、受付嬢に当てたものか、それともアイシャか、或いは自分自身か。
何かがズレている違和感といういうよりも、熱を失ってしまったような喪失感。
或いは藻掻いているのに出口が見えないような焦燥感。
駄目だ。
このままでは。
シャアリィは、少し宿でゆっくりしよう、と、アイシャに提案した。




