素通り
シャアリィとアイシャにとっては、ナセルバは立ち寄る必要さえない場所だが、交通網としてアーシアンの中枢に成りつつある為、文字通り避けては通れない。
だが、必要以上に関わるつもりもなく、キャラバンから降りれば何時ものように宿探し、食堂探し、ただ、それを優先する。
「この街は正直、何から何まで信じられないからな」
「多少、出費が嵩んでも、宿だけはちゃんとした所に泊まろう」
アイシャの申し出にはシャアリィも賛成だった。
今の二人には、多少の出費など痛くも痒くもない。
安全が金で買えるならば、それは願ってもないことだろう。
二人が選んだのは、役人や教会関係者、いわゆる金持ち連中が泊まるホテルだ。
ここならば外に出ることもなく食事も可能であり、部屋に温水のシャワーとバスタブまである。
但し、部屋の料金はプレミアもついて一人銀貨九十枚。
一般的な宿の十五倍という価格・・・普段使いは憚られる。
「ホテル内の食堂に行きたいけれど・・・場違いよね・・・服装とか」
レリットランスを出る時に旅に必要のないものは皆、売り払ったり、譲渡したので旅装束と戦装束しか持ち合わせがない。
「値段を見ないこと前提なら、ルーム・サービスというものがある」
「正直、常識的な値段ではないが、外に出ることなく、あらゆるモノが揃うぞ」
アイシャは既に値段を見たのだろう。
何時もなら、その表情で出てくるのは「巫山戯るな」あたりの言葉なので、相当、非常識な値段設定らしい。
「やっぱり食事は外に行こうか」
「繁華街でも場末を避けて、繁盛している店なら、それ程酷いことにはなるまい」
アイシャの提案をシャアリィは異論なく受け入れる。
「そうしよう」
「持ち帰り出来るモノがあったら、買った後で此処まで持ち帰ればいいし」
別に自分達が地に足をつけている、そんな風に思っているわけではないが、このナセルバという街は砂上の楼閣のように思えて仕方がない。
如何に魔石が重要なインフラ資源だとしても、需要と供給というものがある。
もっと深刻な問題は、冒険者が増えすぎることによる弊害だろう。
冒険者のスキルは、簡単に人を殺す事が出来るのだ。
この先、二百年・・・ナセルバ迷宮踏破に時間が掛かるとしても、その結末は、旧世界の人類のように滅びの道なのでは・・・と、アイシャは益体のない想像をした。
明日は、いよいよ、目的地のザクレブホーン。
ナセルバの繁栄ぶりを見ていると、ザグレブホーンに人が残っているのか不安になる。
その場合には、国境を越えることも視野に入れなければならない。




