本命
対多数との戦闘で少々消耗したが、こちらの損害はなし。
もし、先程の煙の影響下だったとしたら、麻痺毒の中毒や呼吸障害、視界不良を起こしていたかも知れない。
アイシャの指示が的確だったことが功を奏した。
シャアリィの魔力消耗も軽微、このままでも戦闘は継続出来そうだ。
しかし、大した獲物でないとは言え、せっかく倒した魔物から戦利品を剥がずに放置するのは勿体ない。
「シャアリィ、小鬼は捨てておけ」
「碌なモノを持っては居ないし、手間が掛かるだけだ」
「剥ぐのはシャーマンと、メイジだけでいい」
戦闘を超えた安堵で忘れがちだが、此処は迷宮の中なのだ。
しかも、ペアという脆弱な構成で危険に挑んでいるのだから、手早く片付けることは何時も忘れてはならない。
先程のジェネラルが近辺に潜んでいないとも限らない。
気を抜ける瞬間などないのだ。
そんな会話の終わり際、やはり、戦闘はまだ続くようだ。
「シャアリィ、本命が来たぞ」
「結構な数だ」
「それも先程のジェネラルクラスが五、六体だな」
「どうする?」
軽い吐息一つでシャアリィが景気良く答える。
「ハッ」
「死にたがりならお相手してやらなくちゃね?」
アイシャもそれに獰猛な笑みで応じる。
そしてクラス3パーティでの戦闘時と同じように軽口を飛ばす。
「もしも、しくじってシャアリィの手足が千切れたら拾ってくるくらいは手伝うよ」
思春期の少女とは思えない会話を交わし、二人は大広間に並んで立つ。
これから始まる戦いは奇襲ではなく、圧倒的な殺戮劇だ。
「ふふん、拾いモノの鎧で私の術式を防げるなんて思わないことね」
恐らくは冒険者から奪った鎧を無理矢理つなぎ合わせて作った代物。
ゴブリン・ジェネラルは体躯の大きさこそフローズン・ドラゴンと大差ないが、比較にもならない脆弱な相手だ。
シャアリィの琥珀色の瞳に、あの日、あの時の憎悪が蘇る。
そして会敵。
「とりあえずそこに並べぇ!」
「ウォーター・シールド!」
「整列が済んだら、動くな!」
「アイス・ウォール!」
準備万端に舞台を整えた所で、アイシャが電光石火の居合斬り。
膝下目掛けた鋭い斬撃は、尽くゴブリン・ジェネラルの直立能力を奪う。
「足の腱を切られては立ち上がることさえ出来まい」
「シャアリィ、凍らせすぎるなよ」
「手間が増えるんだ」
シャアリィは、じゃあ、どうすんのさと言いたげだったが、了解という顔つきに変わる。
「はいはい」
「ランスで、気管をひとつづつ串刺しならいいでしょ?」
「てっとり早くて、苦痛を与える時間も短いけれど、随分、痛そうな殺し方ではあるね」
指先にギラリと氷結が輝き、敵の射程に踏み込まないように一本づつジェネラルの喉に氷柱を突き立てる。
六本並んだそれは、まさに処刑と言う光景だった。
周囲に冷気が満ちる。
しかし、あのフローズン・ドラゴンが発したような全てを凍らせるものには程遠い。
圧倒的な勝利でありながら、残酷極まりない殺し方でありながら、何かが足りない。
「たかがゴブリン・ジェネラルの群れを葬ったくらい・・・だものね」
とてもではないが、並のクラス2・・・つまりベテランと呼ばれる連中でさえも、こんな真似は出来ない。
忘れがちなことだが、ギルドでのシャアリィのクラス評価は0だ。
アイシャは身震いする。
シャアリィだけは敵に回すべきではないと、実感する。




