アレックス・ミラー
日付が変わる頃、シャアリィ、アイシャ、エドワードがファイヤー亭に戻って来た。
ネームド討伐成功は、夕暮れには既に街中に知れ渡り、何処の酒場も満席の賑わい。
これから少しの間、レリットランスの街ではお祭り騒ぎが続くのだろう。
アレックスとオルチェは三人の帰還を待ちながら、ツマミの材料がなくなったと店を早仕舞いして、夫婦で盃を交わしていた。
「ただいまー」
「酒と肉と犬も食わない夫婦喧嘩をもらおうかね」
シャアリィは少し悪酔いしているらしい。
アイシャは血塗れの服が乾き、エドワードは泣き疲れて寝落ち寸前だ。
うわぁと、黒猫姉妹は引き、オルチェはゲラゲラと笑い、アレックスは呑気に通常運転で、
「遅かったな、耳あり、耳なし、他一名」
「まぁ、アレだ・・・よくやってくれた、エド」
「感謝するぜ、アイシャ、シャアリィ」
服装以外はまともなアイシャが、済まなさそうに小さな声で、再度、ただいま、と。
珍しくアレックスの鼻先が赤いのは、酒に酔ったからなのか、それとも少し泣いたからなのか。
それを問い詰めるようなアイシャではない。
「皆のは祝酒だが、俺とオルチェはどうなんだろうな」
「正直さ、こういう結末でも、素直に喜べないんだ」
「自分自身の卑怯さに呆れてるよ」
シャアリィは何時の間にか夢の世界に流されている。
アイシャは、シャアリィの髪を撫でながら、あの日、エドワードが言った言葉をアレックスに教える。
「私はね、ガーゴイル討伐の時にエドワードを挑発したんだ」
「ザックを見殺しにした弱みにつけ込んで、アレックスとオルチェにも手伝わせろ、と、ね」
「そうしたらさ、エドワードは歯をギリギリ鳴らして」
「あそこにパーティメンバーを立たせるくらいなら、お前達に頭を下げたりしないって」
「それがエドワードという男だよ」
これでも喜べないか、と、アイシャは無言でアレックスとオルチェに視線を合わせる。
寝息を立て始めたエドワードの顔を見て、アレックスとオルチェは肩を震わせた。
「ザックパーティは最高だな」
アイシャの一言で、二人の涙腺が決壊する。
「私には、パーティメンバーを見捨てて逃げた過去がある」
「相手はフローズン・ドラゴン・・・私以外は、皆、やられた」
「シャアリィと出会ったのは、その日のことだよ」
「だからさ、エドワードを放っておけなかったのは、偽善の自己満足なんだ」
消せない傷、消えない痛み、誰にだって一つくらい、そういうものがある、と。
酒を飲んでもいい、忘却したっていい。
「祝酒を飲んでくれ」
「それこそが、ザックパーティと、マッカーシーパーティへの餞なんだ」
アイシャの目からも、ほろりと雫が落ちた。




