必中の矢
「初撃で獲物を捉えなかったのは初めてだ」
そう口にしながら、『彫像』はシャアリィに蹴りを放ち、シャアリィはその蹴りをアース・ランスで迎撃。
振り向き様に、『彫像』の右裏拳と剣戟が同時にアイシャを狙う。
アイシャは的を裏拳に絞り、剣戟を紙一重で避けながら、『彫像』にとって初の傷となる袈裟斬りを浴びせた。
たかが指一本、それも浅い刀傷だが、先手を取られたことに『彫像』は驚嘆する。
「ならば!」
アイシャの頭上からギリギリと重苦しく軋む音がする。
本来であれば距離を詰めずに使うべき弓が引き絞られ、そこに矢が番えられていた。
武芸者にあるまじき、至近距離の弓撃。
「躱してみせよ!」
恐らくは音速をも越える矢が、直上から放たれてはアイシャの逃げ場はない。
逆関節の股の間をすり抜けてシャアリィが叫ぶ!
「腐れ!」
『彫像』の足から脳髄目掛け、シャアリィのコラプションが神経伝達の速度で威力を発揮する。
番えた矢が放たれる僅かな差に競り勝ち、アイシャは辛くも脳天への直撃は避けられた。
アイシャの付けている皮の胸当てが弾け飛び、矢が掠めた頬から血飛沫があがる。
ざっくりと深い傷が頬を血に染めてはいるが、必中だったはずの矢から致命傷を逃れた。
『彫像』は、黒い髪を掻き毟りながら、シャアリィのコラプションを魔力で抑え込もうとしている。
アイシャが、『彫像』の逆関節の足の腱に、片刃剣を突き入れて強引に刃を捻る。
ブチブチと筋繊維が切れる音。
シャアリィは、『彫像』から距離を置き、アイシャに目配せで回復に行けと伝える。
「閉ざせ」
カース・シャドウは何秒稼げるかわからない。
今、残りの魔力全てを注ぎ込んでフローズン・キャノンを撃つのは、無謀過ぎる。
アイシャのように卓越した五感が備わっているならば、カース・シャドウは意味がない。
しかし、何もしないよりは効果の期待出来るものは総動員するのだ、と、シャアリィは術式をばら撒く。
「凍れ」「貫け」
アイス・ウォールからアース・ランス、フローズン・レイジ付きの攻撃を背中に直撃させ、優勢だと自分に言い聞かせる。
「うがぁああああああああああ!」
と、言葉にならない咆哮をあげて、『彫像』は腱を切られた足をものともせず立ち上がる。
コラプションを致命に至る前に抑え込んだ絶大な魔力と体力。
「はははははっ」
「いいぞ、お前たちは素晴らしいっ!」
「だが、まだ負けぬっ!」
どさどさ、と、派手な音を立てて、上から生えていた手と、武具を持っていない手が腐り落ちる。
しかし、大きなダメージを与えたはずの背中は修復され、足の傷も塞がれたようだ。
「シャアリィ、無事か?」
治癒を終えたアイシャが、シャアリィに魔力回復薬を放り渡す。
おっと、と、銀色の包を見せて、口直しもあるぞ、と微笑む。




