わすれもの
馬車に乗り合わせた商人が、そう言えば・・・と、話を切り出す。
「お二人のような凄腕が、レリットランスを踏破してくれればいいんですが」
「いよいよ、最深部に近寄る冒険者も減りましてね」
「折角の迷宮街ですから、やはり・・・このまま未踏破というのは残念ですねぇ」
そうか。
レリットランス踏破のことをすっかり忘れていた。
シャアリィとアイシャが顔を見合わせる。
「アイシャ、やれそう?」
「私は今ならやれると思ってるよ」
アイシャはシャアリィの問いに対して、あまり深く考えることもなく、
「そうだね、私達の能力は予定通りに底上げされた」
「これでアレを倒せないならば、最終目的にはもう少し遠回りが必要だろう」
「よし、やろうか」
商人が手を叩いて驚く。
「おお、既にお二人は最深部に入ったことがあると?」
「野盗如きが束になっても、叶う相手ではなかったのも当然ですな」
「やぁ、私達は運がよかった」
・・・
今更、先送りにする意味もない。
アイシャはそう考えていた。
自分が知っているだけでも、既に三十人以上の犠牲が出ている。
否、犠牲とは呼ぶべきではなく、挑戦者というべきか。
あの姿を見て、そして、あの濃密な死の予感を前にして、それでも立ち向かって命を落とした者は、冒険者として完成された人生なのだろう。
勝てないと判断したのならば、私のように逃げたって良かったのだ。
アレを倒して手に入れる対価は大きい。
名声、金銭、名誉、冒険者ならば生涯誇れる偉業だ。
不意にエドワードの言葉を思い出す。
「好き勝手やって、好き勝手に生きて、好き勝手に死ね」
口元が思わず綻ぶ。
あの言葉程、冒険者らしいものはない。
シャアリィも多分、同意する。
「私達のわすれものを取りにいこうか」
「そうすれば、心の負債がひとつ減る」
アイシャがそれを望むならば、それは自分の望みでもあるとシャアリィは思う。
「アイシャは真面目だね」
「私は、その負債ってのが自分を強くしてくれる原動力だから」
「何時でも、程々には抱えて生きるのもいい、と、思うんだよ」
街道の左右に植えられたポプラの木。
それが見えると、もう、レリットランスの門は目の前。
一つ増えた『やるべきことのリスト』。
アイシャは、商人に礼を述べる。
「やり残していることを思い出させてもらったことに感謝します」
シャアリィも笑顔でそれに乗る。
「お酒二本分の土産話には足りましたかね?」
「運が良ければ、又、この街道のキャラバンで会いましょう」




