農民のような集団
アイシャは風に揺れる木々のざわめきに乗じて、星明りを避けながら少々太い枝の上に登った。
見下ろし眺めた敵の正体。
そこには口元をスカーフで隠した農民らしき集団がいた。
農民らしき、というのは、手にしている彼らの武具の代用品、その多くが農耕用の道具だったからだ。
鋤、鍬、フォーク、鉈、斧。
中には、投石器を手にしている者もいる。
少なくとも十五年以上、隣国と武力衝突があったとは聞いていない。
最近であれば、レリットランス領内で暴動はあったが、農民が関与するような騒ぎではなかったはず。
農民の姿をしているが、十分に訓練された民兵、否、それ以上、暗殺者を疑う手際。
しかし、今は敵の正体よりも無力化を優先すべきだろう。
それには自分よりも、シャアリィの術式が向いているが、彼女は端から殲滅する気でいる。
(馬車を守ることが最優先)
(それがそのまま生き残りへの標)
シャアリィも既に闇に目が慣れ、星明りの下でも行動に不安はない。
ガサッ。
ほんの僅かな足運びの失敗が、闇夜の中で存在を露わにしてしまう。
「閉ざせ」
誰の耳にも届かない、その短縮詠唱はカース・シャドウ。
僅かでも確実に見えていた視界が、突然、失われたならばひとはどうなるか・・・
その解答は、
ズザザッ。
転倒だ。
ドミノ倒しのように存在が明らかになる闇に潜む者達に目掛けて、シャアリィは重ねてカース・シャドウを仕掛ける。
仕掛けた罠に獣が掛かるように、枯葉、枯枝を不用意に踏み抜く音が響く。
余程、訓練をされているのか、この状況でも、誰も悲鳴をあげない。
こうなると敵の数を削るか、神経を擦り減らしながらのさらなる探り合いか。
シャアリィが選んだのは、やはり自らが囮になっての会敵。
敵の気配が濃い場所目掛けて、
「散れ」
アイス・ブラストをぶち撒ける。
アイシャならば、シャアリィの射線上に入るはずはない。
何も見えない状態で、突然、身体の何処かを撃ち抜かれて平気でいられるような者はいない。
「やばいっ、逃げられる者は離脱しろ、こっちは助からない」
なんと健気なことだろうか。
自己犠牲で敵から味方を守ろうとする集団、シャアリィは敵ながら天晴と心の中で賛辞を送る。
だが、その一言こそが、全滅への引き金だと、アイシャとシャアリィ以外にはわかるはずもない。
星明りも届かない、木立の上から白い死神セロニアスが動き出した群れの前に現れる。
そして命中を最優先させた一薙ぎを、相手の鳩尾付近の高さ目掛けて叩き込む。
防御など叶うわけもなく、骨折、脱臼、内臓損傷、或いは内臓破裂。
致命にならずとも、戦闘継続能力を奪うに十分な被害。
緊張を維持させたまま、夜の帳があがるまでの数刻を待つだけ。
シャアリィとアイシャの隙をついて逃亡することなど、出来るはずもない。
商人達には申し訳ないが、もう少しの間、馬車の中で震えていてもらおう。




