闇夜の襲撃
ウィトプラナとレリットランスを結ぶ街道に、中継点はない。
一晩凌げば、互いの街を往復出来る距離である上、周辺に集落という集落もない。
農作物を少々略奪された所で、被害は高が知れている。
観光資源もなければ、一日足を伸ばせば迷宮都市がある。
中継点を造る理由も、需要もない所だという事実は百年前から変わっていない。
夜間、キャラバンはどうするのか・・・野営する他ない。
この短いルートのキャラバンの騎手は、皆、衛兵か冒険者の出身だ。
ある程度の戦闘能力は備えている。
しかし、予想外のことが起きないように、と、護衛を冒険者ギルドに依頼する。
野営がある分、冒険者の待遇はいい。
食事、飲料の提供もあり、さらに夜間警護分の報酬も上乗せされる。
それでいて野盗に襲われる頻度は多い時でも、月三回を越えることはない。
陽が沈み、夜の帳が降り始めると空一面が星の海になる。
街から遠く離れ、雨上がりで空気が澄み渡り、月も出ていない夜空には星の光を遮るモノはない。
普段であれば見落としてしまうような、ちっぽけな流星さえもが鮮明に輝いている。
それを妨げるモノが、目の前にある焚き火の灯。
星の瞬きは目を楽しませてくれるが、それ以上の恩恵は何もない。
だが、焚き火は寒さを凌ぎ、湯沸かしや調理、そして獣を遠ざけてくれる。
「シャアリィ、眠いなら寝ておくといい」
「起きたら代わろう」
シャアリィとアイシャは相変わらず自衛を怠らず、商人に酒を勧められても丁重に断る。
・・・
シャアリィが小さな寝息を止めて、焚き火に照らされるアイシャと視線を交わす。
アイシャは頷き三節棍を手にし、シャアリィはダガーを握る。
しかし、まだ騎手も、護衛にも動きはない。
アイシャの目配せで、シャアリィは起きている方の騎手に、耳打ちする。
「賊の気配だ・・・数は十以上、相方の騎手と商人を起こして客車に逃げ込める準備を」
雇った護衛に動きはない。
騎手は半信半疑でありながらもシャアリィの無機質な声を信頼した。
騎手が商人を起こし始めるのと、護衛の一人が悲鳴を上げるのはほぼ同時であり、
「くそっ、来やがったのか?」
「誰がやられた?」
等と間抜けな事を残った護衛が叫ぶ。
自身の目を暗闇に順応させるべくアイシャは片目を閉じて、木立の中の足音を鋭敏な聴覚で拾う。
護衛の叫びで起きたパーティメンバーが馬車から飛び降りて集まる。
「シャアリィ、片目を閉じておけ」
アイシャは敵の次の行動を予測し、暗闇での戦闘準備を警告した。
次の瞬間、アイシャの予測通り、焚き火は投石によって散乱し、その光の一つ一つは弱々しい。
焚き火だったモノの一つを握って、護衛のひとりが投石元へと駆ける。
そして、焚き火で照らされた横顔が闇に消える。
「ゾーイ!」
「大丈夫か?返事しろ!」
倒された仲間の名を呼び、ヒーラーらしき冒険者が残された焚き火をアテに駆け寄り、その頭に鉈が振り下ろされた。
「おい、助けろ、助けてくれ、仲間が、仲間がやられた・・・だめだ全滅する」
声をあげたのは、リーダーだと紹介された青年・・・暗闇で細かな部分までは把握出来ないが、既に戦意を喪失し、棒立ちのまま盾を構えているのだろう。
アイシャは少しばかり興が乗ってきた。
なかなかの手際じゃないか。
それも粗末な武器とも言えないようなモノだけで冒険者三人を仕留めるなんて。
シャアリィも感じている。
随分と殺し慣れている連中だ。
これは実に狩り甲斐がある、と。




