ゴブリン
レリットランス迷宮は天然の鍾乳洞が地殻変動で地脈と衝突し、鉱脈と魔物に溢れた洞窟迷宮になったものだ。
鉱物資源を掘り進めるために切り開いた新地区はアーシアン迷宮のような人為的な構造物も多い。
今回、アイシャとシャアリィは、鍾乳洞側から侵入している。
新地区は様々な亜人の住処でもあり、より強力な魔物が多いのも特徴だ。
アラクネ、ラミア、タウロスといった知性の高い亜人は、今のペアでは少々手に余る。
よって攻略難易度は新地区入口からのほうが遥かに厳しい。
とは言うものの、途中から内部で天然鍾乳洞と交わっている以上、予想外の魔物と遭遇することは当たり前のように起きる。
先程、シャアリィが使ったウォーター・キャノンのような大出力の魔法は、迷宮内部で反響する。
結果、まるで魔物を引き寄せる鐘楼のように。
「む、装備が擦れ合う音だ」
「亜人系の魔物の群れがこちらに向かってきてる!」
アイシャの魔物探知の能力は、飛び抜けている。
数、種別、距離、それらをある程度把握出来る冒険者は少ない。
クラス3パーティで斥候を務めていたのは伊達ではない。
「全体としては十五体前後という感じだが、なかなかに統率が取れている」
「斥候として、先に何匹か来るようだ」
アイシャの指示でこちらも迎撃体制を取る。
斥候として先着する魔物は、アイシャが弩弓で捌くようだ。
・・・ギャアギャアと威嚇しながら斥候がやってきた。
本来、斥候とは息を潜め相手の戦力を偵察するものなのだが、ゴブリンのそれは違うようだ。
アイシャは息を潜めて瞬殺を狙う。
「シッ」
短い空気を吐く音と矢を放つのは同時、姿を見せたのはゴブリンの大型種だった。
皮鎧を着込み、手に粗末な剣を帯びている。
恐らくは冒険者を仕留め奪ったものか、寝込みや負傷を狙って盗んだものだろう。
アイシャの放った矢は、皮鎧の胸板を見事に貫通した。
もんどり打って転がる仲間を蹴飛ばして進路を確保した二匹目のゴブリンが現れる。
敵の姿をまだ見つけられないゴブリンは、きょろきょろと周囲を眺めながら苛立ち紛れに粗末な青銅の剣で地面を叩く。
その瞬間に、またもアイシャから鋭い矢が飛ぶ。
首と胸の中間、気道に直撃した矢によってゴブリンは血の泡を拭きながらバタバタと暴れたが、すぐに息絶えた。
先程、アイシャが耳で捉えたはずの本隊と思しき集団は、なかなか姿を見せない。
もしかしたら、引き返したか、それとも岩肌の凹凸に姿を隠したか。
どちらにしても、亜人タイプの魔物は少々知恵が廻るので面倒だ。
その時、アイシャからハンドサインで後退の指示が出た。
煙だ。
空気の流れは此処では内側から外側に流れているため、このままだと煙を被ることになる。
恐らくは遅効性の毒草を燻したものだろう。
毒は体格差によって、その効果に大きな違いが出る。
小さなモノにとっては致命的な毒でも、体格が大きければちょっとした痺れ程度で済む場合もある。
この煙は人間にとって効果を発揮する毒でも、ゴブリン達には効かない毒かも知れない。
こういう道具を使う相手との戦闘は、思わぬ所で足元を掬われることもある。
ここは素直にアイシャに従い、一度後退すべきだろう。
これまでのシャアリィならば、キャノンやブラストで一気に吹き飛ばしてしまいたい所だが。
この探索は単独行ではなく、ペアパーティだ。
どちらかがしくじれば、パートナーにも被害が及ぶ。
一度五十メートル程後退し、作戦を整えることにする。
「二体倒しても、本隊が出てこないということは、結構、経験豊富なリーダーが率いているのかもね」
亜人と言えど舐めてはいけない。
種類によっては、言語や儀式、魔法や呪詛まで操るのが亜人であり、その知識を持たない無能な冒険者は亜人を侮っている。
特にゴブリンというのは、多様性が認められ、繁殖力が高い故に世代交代も早く、様々な攻撃に対する耐性がある。
コボルトは執念深く、オークは体格自体が脅威だが、ゴブリンという亜人も又、人間にとっては小さくない脅威だ。
雑魚扱いする冒険者も多いが、それは一対一や、敵の全容が見えている場合だけだ。




