観光客
一ヶ月以上の間、シャアリィとアイシャはイルオールドの街を十分に堪能した。
観光を決め込んで最初に向かったのは、イルオールドで一番高い高層建築物の屋上だった。
「今じゃ痕跡くらいしか残ってないけれど」
「旧人類って、どんだけーって思うよね」
「この建物、十六階建てだよ?」
首の高さまで張り巡らされた鉄柵は、落下防止用のものだという。
大体この手の防止策というのは、思ったよりも効果を発揮しない。
だからこそ、この屋上には衛兵が配置されているのである。
アイシャはセロニアスの教育機関で学んだことを思い出していた。
人間の目線の高さだとそこから見える範囲は半径四キロ程度、この大地は球体なのだと。
こうして高所に登ってみれば、それがよく分かる。
「思ったより遠くに来たんだな」
「ここからは随分遠くまで見えるのに、知っている建物はミヤマの屋敷くらいだ」
以前であれば、この強風の中だと髪が邪魔で仕方なかっただろう。
今は、肩に掛からない程の短さだから、こういう時は切って良かった、と、シャアリィは思う。
実際には、魔術師は長髪の方が魔力の散逸を和らげる為、僅かばかり得がある。
「次は、神殿に行こう」
「手前の広場に露店が並んでるみたいだし」
高所から見た神殿は、教会よりも小さく威厳がない。
神殿と言っても、この世界の神を崇めるためのものでなく、旧人類が残した神殿らしきもの、だ。
当時の人々が何に使っていたか、そんなことはどうでも良く、旧世界の大きな建造物の現存というだけで価値がある。
「なんか、神殿より教会が大きいのって皮肉が利いてる・・・」
アイシャがシャアリィの唇に人差指を当てて黙らせる。
小言を言う前に、シャアリィがアイスクリームの露店を見つけて走り出す。
「まだ寒いけれど、なんかアイスクリームって食べたくなるよね」
二種類を適当に選んで買って、アイシャの目の前に差し出すと、
「おや、そっちだったか」
アイシャの好みを狙ったシャアリィの予想は外れたようだ。
時折、交換して味の変化を楽しみながら並んで歩くと、それだけでも楽しくなってくるから不思議だ。
観光地の表通りから、少し路地を入れば、そこにどんな世界が広がっているのかも知っている。
空になった瓶詰めの瓶を置いて、小銭を待ち受ける老人。
シャアリィはアイスクリームを買って戻ってきた銅貨をその瓶に落とす。
アイシャも、ポケットをごそごそと探ってみて、出てきた銅貨を同じように別の瓶に入れる。
今日の二人は観光客なのだ。
ならば偽善というやつをするのも、悪くはない。




