炎と鋼
再び、ミヤマの屋敷を訪れた二人が用件を伝えようと呼び板を叩く。
先程までの静寂が嘘のように、屋敷の中が騒がしい。
どうやら、ヌエキリの補修の準備が始まったようだ。
挨拶の時に着ていた緩い着物ではなく、鍛冶装束のミヤマが出迎え、工房への扉が開かれた。
そこに積み上げられているのは、大量の薪と炭。
その傍らには様々な粒の大きさの鉄の粉。
「滅多な事では外の人間に見せることはないが、お前たちには見る権利がある」
「これが、私の工房のハラワタとも言うべき、熔鉱窯だよ」
「ここで鋼を融かす炎は、火炎龍のブレスを上回る二千度という熱」
「私の窯で溶かせぬ鋼は存在しない、というのがささやかな自慢だ」
「その熱を生み出すのは、風の力」
試し打ちのための鉄が藁と共に炉に放られると、熱気を帯びた鉄はオレンジから赤、赤から黃へと色を変える。
それは粘土で組まれた細い通路の上を流れ、さらに白色へと近付いてゆく。
「ほら、鉄の塊が出て来ただろう」
「あれに燃え藁や炭を混ぜて鋼にするんだ」
「まぁ、ここから先はさすがに門外不出の秘伝というやつだから勘弁願う」
塊だった鉄が伸ばされ棒になり、その中間に楔を落とし、二つに折れた鉄を重ねて更に打つ。
飛び散る火花、注ぎ込まれる風の唸り、これがミヤマの刀剣の響き。
「さて、魔石だったな」
「む・・・その大きさ・・・何かの鉱石の塊ではないのか?」
「おい、誰か、クサカベを呼んでこい」
シャアリィとアイシャは、そりゃ、普通は信じられないだろうな、と、苦笑いする。
ミヤマよりも幾分年上だと思われる男、彼がクサカベらしい。
千本足の魔石を持って、光に翳し、内包物を確認しているようだ。
「親方、これは間違いなく魔石ですな」
「属性は土石、腑に落ちないことと言えば、この巨大さ」
「この魔石、一体、どれくらい巨大な魔物から取ったんです?」
話を向けられたアイシャが、要点を纏め答える。
「全長は大体二十メートルくらいのワームで、判明しているだけで百年以上を生きた『千本足』という名有りです」
ミヤマも、クサカベも、揃って表情を無くし喉を鳴らす。
『名有り』の魔石、長らく鍛冶師を営んでいる二人であっても、恐らくは初見だろう。
アイシャが少しばかり自慢気にしっぽを揺らす。
「刃が通る所が脚と腹しかなくて、なかなか手強かったですよ」
「で、この魔石がヌエキリの属性付加か、或いは術式付与に使えればと思いまして」
「相談に上がった次第です」
なる程・・・と、魔石の出所は把握出来たものの、ミヤマもクサカベも、表情は固い。
「ヌエキリには既に風雷の属性が付加されている」
「アイシャが亜竜から取り上げた魔石ならば、術式付与は可能だろう」
「見込みだが、疾風か、風守が付く」
ミヤマは顔を引き攣らせながら、千本足の魔石の使い道について提案する。
「三節棍に付与するのはどうだ」
「対氷結なら五割増の底上げ、術式なら・・・」
ミヤマがクサカベに見立てを聞く。
「土石槍でしょうな」
その返答に、シャアリィとアイシャは、即断を避け、ミヤマの屋敷を後にした。




